回復への意志を力に変える リハビリを支える3つの方法

脳卒中で左腕と左脚が部分的に麻痺してから1週間後、44歳の男性が、回診に来た医師を驚かせました。男性はすでに病院の廊下に出て、杖をついて歩く練習をしていたのです。

妻に長期の介護の負担をかけたくない、と男性は話しました。自分のためにあれこれ尽くしてくれる妻の姿を見て心を痛め、できるだけ自立を取り戻そうと決意していたのです。

脳卒中から14日後、男性は頭皮鍼(頭皮に鍼を打つ治療)を受けるため、私のクリニックを訪れました。まだ杖が必要で、左腕は45度ほどしか上がりませんでした。初回の治療のあと、腕はずっと高く上がるようになり、自分でドアを開けられるようになりました。2回目のあとには、杖なしで歩けました。約20回の治療を経て、歩き方は正常にかなり近づきました。

これらは、治療中に私が観察した変化です。もう一つ心に残ったのは、麻痺のある腕と脚を使って練習を続けようとする、男性の決意でした。家族への愛が、あきらめずに続ける理由になっていたのです。

この男性の経験から、私が臨床の現場でたびたび考えてきた問いが、あらためて浮かびました。患者が自分自身の回復にもっと主体的に関われるよう、私たちはどう支えればよいのでしょうか。
 

回復への意志

家族のために回復しようとしたこの患者の決意は、私に深い印象を残しました。

心理学の観点では、こうした目的意識や、他者のためという動機が、リハビリを続けるための大きな力の源になる可能性があります。

2020年のメタアナリシスでは、人生の目的意識が強い高齢者は、その後に身体機能が低下するリスクが低いことがわかりました。もちろん、意志の力だけで体を治せるという意味ではありません。医療と、体に備わった自己治癒能力は対立するものではなく、互いに補い合って働きます。

医療は、病気の急性期を体が乗り越えるのを助けます。一方、体に備わった治癒能力は、リハビリ、睡眠、栄養、生活習慣の変化を通じて、少しずつ働いていきます。

私の考えでは、体の修復には3つのレベルがあります。物質、エネルギー、情報です。「物質」には、体の組織、栄養素、薬、食べ物が含まれます。

「エネルギー」は、気(生命エネルギー)と血、経絡(体の中をエネルギーが流れる経路)、そして体全体の機能の状態として捉えられます。「情報」には、その人の信念、感情、心の状態、日々受け取る外部からのメッセージが含まれます。

この3つのなかで、最も見過ごされやすいのは情報だと、私は考えています。

人が恐怖や不安、自己否定的な考えに絶えず囲まれていると、体は長いあいだ緊張した状態にとどまる可能性があります。これに対し、リラクゼーション、集中した注意、継続的な練習は、体により安定した明確な信号を送り、体が少しずつ修復に適した状態へと移っていくのを助けます。

私の臨床での観察では、体の自己治癒能力を支えるうえで、とくに重要な要因が3つあります。リラクゼーション、集中、継続性です。
 

1. リラクゼーション:練習の余地をつくること

リハビリでは、多くの患者がとっさに、もっと努力しようとします。しかし、時間がたつにつれて、セルフケアの第一歩は、必ずしも「もっと頑張ること」ではないと気づきました。ただ体と心をゆるめることが第一歩になる場合もあります。

以前、私は、セルフマッサージとリラクゼーションで目の健康を支えることを目的とした、目のケア体操を紹介しました。

進行した白内障のある女性(瞳孔が白く見えるほどでした)が、この体操を定期的に続けました。約6か月後の経過観察の眼科検診で、眼科医は、彼女の白内障が著しく改善していたことに驚きました。結局、手術は必要ありませんでした。

この経験から、同じ方法なのに、はっきり結果が出るように見える人と、そうでない人がいるのはなぜだろう、と考えるようになりました。

その後の私の印象では、よりリラックスした状態で体操に取り組んだ人のほうが、はっきりした改善を感じることが多いようでした。

体が長いあいだ緊張や不安を抱えたままだと、その状態から抜け出せなくなることがあります。中医学では、これが内熱、いわゆる「虚火(きょか)」の一因になる可能性があるとされています。

西洋医学の観点では、慢性的なストレスは、内分泌(ホルモン)の調節を乱し、炎症を促し、自律神経のバランスの乱れにつながる可能性があります。

2020年のランダム化臨床試験の系統的レビューでは、心理社会的な介入によって免疫機能が改善する可能性があることがわかりました。人の精神状態や感情の状態が、体が回復する環境に影響しうることを示唆しています。

リハビリの運動をするとき、「良くならなければ」と自分に言い聞かせ続ける必要はありません。「もし良くならなかったらどうしよう」と、何度も心配するのもよくありません。前者の考えは、過度な期待からさらなる緊張を生み、後者は、少しずつ自信を損なうおそれがあります。

より適切なのは、体と心をゆるめて、いま行っている動きと、体に生じる感覚に注意を向けることです。

体をゆるめる簡単な3ステップ

  1. 一度動きを止めて、ゆっくり数回呼吸します。
     
  2. 注意を体に戻し、頭からつま先まで、どこに力が入っているかに気づきます。
     
  3. 力が入っている部分に、少し長めに時間をかけます。息を吐きながら、筋肉や関節、筋膜が少しずつゆるむのに任せます。

中医学の観点では、体がリラックスしているとき、気と血はより自由に巡ることができます。

同じ原則は、目のケア体操にも当てはまります。一つひとつの動きに集中し、目、眉の骨、こめかみ、頭、首のまわりの緊張を少しずつほぐしていきます。

一度に一つのことに集中すると、脳と体に、より明確で一貫した信号を送ることにもつながる可能性があります。
 

2. 集中:一つひとつの動きに明確な目標を与えること

リハビリ中は、回復できるのだろうか、後遺症が残るのではないか、と心配になることがあります。

こうした心配は無理もありません。ただ、不安に何度も気を取られていると、脳に届く動きに関する信号が不明瞭になる可能性があります。

先ほど紹介した脳卒中の患者が順調に回復したのは、回復しようという決意があったからだけでなく、その思いを日々の行動に移したからでもあります。

男性は、起きている間はいつも、麻痺のある側の体を繰り返し使おうとしました。手が思うように動かせないときは、その手で物を拾い上げました。歩くのが難しければ、一歩一歩を練習し続けました。

回復したいという願いは、明確で、繰り返し行える、具体的な行動に落とし込まなければならないと、男性の経験から教えられました。

集中した練習の目的は、一度に一つの動き(たとえば、カップを持ち上げる、一歩前に踏み出す、物に手を伸ばす、など)を行い、脳が、練習している特定の機能について、明確で一貫した信号を受け取れるようにすることです。

西洋医学では、脳が回復する力を説明するのに、よく神経可塑性という考え方が使われます。

実際には、神経機能の回復は、リハビリを続け、練習を繰り返すなかで、たいてい少しずつ進みます。そうした積み重ねが、脳が神経のつながりをつくったり、強めたりするのを助けます。
 

3. 継続性:小さな一歩に立ち返り続けること

以前、50代のパーキンソン病の女性を治療したことがあります。初めてクリニックに来たとき、彼女はゆっくり歩き、目に力がなく、誰かに支えてもらう必要がありました。

彼女は遠くに住んでいたため、通院は大変でした。最初はタクシーを使っていました。のちに交通費が高くついたため、一人で電車に乗って途中の駅まで行き、そこで姉が迎えて、クリニックまで付き添うようになりました。

治療は週に3回でした。約1か月後には、一人で歩けるようになりましたが、まだ動きはとてもゆっくりでした。6か月の治療を経たある日、私が彼女を呼ぶと、彼女は小走りで私のほうへ来ることができました。歩き方も、はるかに滑らかになっていました。

この経験から、医師は患者を正しい方向へ後押しできても、回復のための努力を最後に担うのは患者自身だと、あらためて思いました。

彼女は、道のりが長いからとか、動くのが難しいからといって、あきらめませんでした。進み方が遅いからといって、やめてしまうこともありませんでした。雨の日も、日差しが照りつける日も、彼女はクリニックに通い続け、一回ずつ、一歩ずつ、治療をやり遂げました。

私は患者に、治らない病気だからといって、意味のある改善はありえないと決めつけないよう、よく伝えています。医学は、病気の一般的な特徴や、予想される経過を教えてくれます。しかし、それは、すべての人の状態や反応が同じであることを意味しません。

「自分は決して良くならない」と最初から決めてかかると、その思い込み自体が、回復の妨げになるかもしれません。

パーキンソン病には、現在のところ、完治させる方法はありません。しかし、2019年に『The Lancet Neurology』に掲載された二重盲検ランダム化比較試験では、軽度のパーキンソン病の人が、週3回、6か月間の在宅での有酸素運動をやり遂げたところ、症状の改善がみられたことがわかりました。

この結果は、パーキンソン病の人にとって、長期にわたる定期的な運動がいかに大切かを示しています。
 

体が修復に向かう状態に戻るための助け

リラクゼーション、集中、継続性は、3つの別々の実践のように見えるかもしれませんが、すべて同じ方向を向いています。体が緊張と不安から少しずつ離れ、より安定した状態に向かうのを助けることです。

  • リラクゼーションは、体がストレス反応から抜け出せなくなるのを防ぎます。
     
  • 集中は、脳が体から明確な信号を再び受け取れるようにします。
     
  • 継続性は、こうした調整が時間とともに積み重なるようにします。

体の自己治癒能力は、意志の力だけで自分を前へ駆り立てても、働き出すものではありません。むしろ、必要な医療を受けたあとも、生活習慣を整え続け、リハビリに取り組み続ける必要があります。そうすることで、体の修復の過程が少しずつ働いていきます。
 

家族ができること

家族介護者の最も大切な役割は、患者に「強くいなければ」と絶えず促すことではなく、支えられていると感じられるようにすることです。

人は病気になると、多くの場合、恐怖、不安、無力感を抱き、ときにはいらだったり、協力したがらなくなったりします。家族がこうした反応の背後にある苦しみを理解し、落ち着いて共感をもって接すれば、患者は「自分は役立たずだ」「家族の重荷だ」といった考えにとらわれにくくなります。

介護者は、必ずしもアドバイスをする必要はありませんし、すぐに批判するのも控えましょう。まず、話をさえぎらずに聞くことから始め、そのうえで、患者の大きな目標を小さなステップに分けるのを手伝います。たとえば、数秒長く立つ、あと数歩歩く、自分でカップを持つ、といったことです。患者がうまくできたときは、その具体的な頑張りをほめます。

患者の状態が許すときは、家族が何でもしてあげてしまうのも避けるべきです。そうではなく、患者が自分でできることは続けてもらい、本人が自分の回復に主体的に関わり続けられるように支えます。

同時に、介護者自身も自分をいたわる必要があります。慢性的に疲れ切った介護者が、安定した支えを長く続けるのは難しいからです。完璧な介護者になる必要はありません。休息をとり、助けを求め、自分の力を取り戻す時間も必要です。

希望にはさまざまな形があります。より大きな自立、より快適な暮らし、新たなつながり、あるいは、もう一つ小さな一歩を試みる自信などです。医療と日々のケアが土台となり、リラクゼーション、集中、継続性は、患者がそのケアに主体的に関わる助けになります。

脳卒中から約5か月後、私は通りでたまたま、この患者に会いました。男性は自転車に乗っていて、笑顔で私に手を振ってくれました。

私は、病院の廊下での男性の最初の一歩を思い出しました。家族を大切にしたいという願いが、あの一歩一歩に意味を与えていたのです。男性は日々、その願いを行動に変えていました。
 

本記事の内容は筆者の意見であり、大紀元の見解を必ずしも反映するものではありません。

(翻訳編集 日比野真吾)

伝統中国医学の医師であり、台湾の「心醫堂中醫診所(しんいどうちゅういしんじょ)」の院長である。2008年に中医学を学び始め、台湾の中国医科大学で学士号を取得。