インドネシアで生産される「コピ・ルアク」は、世界で最も高価なコーヒーとして知られています。コーヒー豆1kg当たりの価格は1000ドルを超えることもあります。このコーヒーは生産量が非常に少ないため、お金があっても必ず購入できるとは限りません。たとえ手に入れたとしても、飲むのをためらう人もいるかもしれません。なぜなら、その原料は猫の糞だからです。そのため、「猫の糞コーヒー」とも呼ばれています。
コピ・ルアクの原料は猫の糞
コピ・ルアクの生産にはジャコウネコが関わっています。具体的には、南アジアおよび東南アジアに生息する「アジアパームシベット(日本ではジャコウネコの一種として知られる動物)」です。アジアパームシベットはコーヒーの果実を食べた後、消化されなかったコーヒー豆を排泄します。人々はその豆を回収して洗浄し、独特の風味を持つジャコウネココーヒーへと加工します。
100年以上前、人々は野生のアジアパームシベットが排泄した未消化のコーヒー豆からコーヒーを淹れられることを発見しました。その後、コピ・ルアク産業は急速に発展しました。現在では、コーヒー豆1kgが1000ドル、あるいはそれ以上で取引されています。
当初、これは農業に被害を与える動物と見なされていたアジアパームシベットにとって良いことのように思われました。しかし現在では、コーヒー生産の過程で彼らが置かれている状況に懸念が高まっています。調査によると、一部の飼育個体は狭い金網の檻に閉じ込められ、コーヒーの果実だけを食べることを強いられています。また、自由に動き回るといった本来の自然な行動も奪われています。

コピ・ルアクは化学成分が異なる
コピ・ルアクの独自性を明らかにするため、インドのケララ中央大学の研究チームが、このコーヒーの化学成分について調査を行いました。その結果、多くのコーヒー愛好家が抱いていた推測が裏付けられました。
2025年10月に発表されたこの研究は、同大学の動物学者パラティ・アレシュ・シヌ氏が主導したものです。研究者たちは、インド国内5か所のロブスタ種コーヒー農園で収穫された新鮮で完熟したコーヒー果実の化学成分と、同じ農園周辺に生息する野生のアジアパームシベットの糞から採取したコーヒー豆の化学成分を比較しました。
その結果、野生のアジアパームシベットの糞から採取されたコーヒー豆は、コーヒーの木から直接収穫された豆よりも明らかに大きく、脂肪含有量も高いことが判明しました。これは、野生のアジアパームシベットが質の良いコーヒーの実を選んで食べるという従来の説と一致しています(もちろん、飼育下で限られた餌しか与えられていない場合は事情が異なります)。
一方で、新鮮なコーヒー豆とアジアパームシベットが排泄したコーヒー豆との間に、タンパク質やカフェイン含有量の違いは見られませんでした。しかし化学分析の結果、コピ・ルアクにはカプリル酸メチルおよびカプリン酸メチルが比較的多く含まれていることが分かりました。これらの成分は風味を高め、乳製品のような香りを生み出すと考えられています。

研究者らは学術誌『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載した論文の中で、「これらの観察結果は、ジャコウネコの消化過程、すなわち自然発酵や酵素の作用によってコーヒー豆の化学組成が変化し、風味が向上するとともに、コピ・ルアク特有の感覚的特徴が生み出されるという仮説と一致する」と記しています。
こうした特徴が、その高額な価格や動物福祉をめぐる論争を正当化するかどうかは別の問題です。しかし、コピ・ルアクの風味の源を正確に理解することは、将来的により持続可能で倫理的なコーヒー生産方法の開発につながる可能性があります。
研究者らは論文の中で、今後は分子レベルでコピ・ルアクの香気特性を分析するとともに、コーヒー豆の真贋を判別する方法を開発すべきだと提言しています。そうすることで、「持続可能で倫理的な生産方法と消費者の信頼を確保できる」としています。

現在のコピ・ルアク生産方法には批判も
『ナショナル ジオグラフィック』誌によると、アジアパームシベットはサルのような長い尾を持ち、アライグマのような顔の模様と、体に縞や斑点があります。この動物は生態系の食物連鎖において重要な役割を担っています。コーヒーの果実やマンゴーなどの果物だけでなく、昆虫や小型の爬虫類も食べます。
コピ・ルアクの人気上昇とインドネシア観光業の発展、さらに観光客の野生動物への関心の高まりに伴い、多くの野生のアジアパームシベットがコーヒー農園の檻に閉じ込められるようになりました。その目的はコーヒー生産だけでなく、観光客に動物を見せて利益を得ることにもあります。
イギリスのオックスフォード大学野生動物保護研究ユニットと、ロンドンに本部を置く世界動物保護協会の研究者たちは、インドネシア・バリ島の16か所のコーヒー農園で飼育されていた約50頭のアジアパームシベットの飼育状況を調査しました。
その結果、調査したすべての農園が基本的な動物福祉基準を満たしていないことが判明しました。アジアパームシベットたちは厳しい環境に置かれていたのです。
研究者の一人であるニール・ディクルーズ氏は、「いくつかの檻は本当に極端に小さく、まるでウサギ用のケージのようでした。その中は尿や糞でいっぱいでした」と語っています。
ディクルーズ氏によると、一部の個体は「コーヒーチェリー(コーヒー豆を包む果実)」しか与えられないため極端に痩せていました。一方で、自由に動けないため肥満になっている個体もいました。また、過剰なカフェイン摂取によって異常に興奮状態になっている個体も確認されました。

さらに、多くのアジアパームシベットは清潔な飲み水を与えられず、他の個体と交流する機会もありませんでした。夜行性動物であるにもかかわらず、昼間には交通騒音や観光客の騒がしさにもさらされており、そのストレスは一層大きなものとなっています。
現在のところ、コピ・ルアク豆が野生個体由来なのか、飼育個体由来なのかを判別する確実な方法はありません。イギリス放送協会(BBC)が2013年に行った潜入調査では、劣悪な環境で飼育されたアジアパームシベットから生産されたコーヒーが、「野生由来コピ・ルアク」と表示されてヨーロッパで販売されている実態が明らかになりました。
さらに、コピ・ルアクを西洋に紹介したコーヒー商人のトニー・ワイルド氏でさえ、イギリス紙『ガーディアン』に寄稿し、このコーヒーへの警戒を呼びかけています。彼は、コピ・ルアクの生産がますます工業化し、動物虐待の要素が強まっていること、そして偽物が頻繁に出回っていることを指摘しました。
現在、「野生由来」と表示されたコーヒーが本当に野生由来であることを保証する認証制度は存在していません。ニューヨークに本部を置くレインフォレスト・アライアンスなどの著名なコーヒー認証機関は、信頼できるコーヒー栽培・生産基準を管理していますが、コピ・ルアクについては認証を行っていません。
レインフォレスト・アライアンスのアレックス・モーガン氏は、「コピ・ルアクを認証するリスクは高すぎます。なぜなら、そのコーヒー豆が100%野生由来であることを確認するのは非常に難しいからです」と述べています。
そして、「個人的な助言としては、このコーヒーの購入はできるだけ避けることをお勧めします。多くの場合、飼育環境で生産されたものである可能性が高いからです」と語っています。
(翻訳編集 井田千景)
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