高智晟著『神とともに戦う』(1)「筆が重い。祖国中国の闇が徐々に明かされるから」

高智晟(こう・ちせい)。彼こそ中国の有名な人権派弁護士だ。また、中国全土で吹き荒れる権利を守る戦いの中心人物でもある。金も権力もない、しかし助けを必要とする民衆の心の中で、高智晟弁護士はにも匹敵するのだ。

底辺に生きる多くの人々のため、無料の法律相談を行った。それは必然的に、人権や法治の欠けた中国の社会や制度と、矛盾・衝突を引き起こすことになる。法輪功学習者の案件を引き受けてからは、その衝突は嵐へとエスカレートするのである。

 中国本土では、法輪功学習者に信仰の自由も、基本的人権も、弁護士を頼む権利もない。さらには、一般市民の持つ陳情権すらない。中国共産党は、法輪功問題で決して妥協はできないのだ。この中共の強情さの前に、中国と海外の多くの知識人や人権組織、さらに一部の欧米諸国まで卑屈な妥協を見せた。

 しかし高弁護士は違った。通常の司法手続きで解決できなかった後、共産党最高指導部への公開状を前後して3通発表。そこで、自分の知りうる法輪功学習者の人権迫害の状況を克明に記(しる)した。想像をはるかに超える、身の毛もよだつ残虐行為の数々。結果、高弁護士の事務所は営業停止処分を受け、秘密警察は高弁護士とその家族、友人に公然と付きまとい、嫌がらせをし、拘束した。

 高弁護士一人が人権派弁護士なのではない。しかし、最も固い決意で全身全霊を捧げる、この点に疑いの余地はない。歯に衣着せず、一切の妥協もない。権利と法律を守り、そして真実を明かし、最終的には中国共産党の体制から抜け出した。つまり、「共産党を脱退し、正式にキリスト教徒になる」との声明を発表したのだ。また、「大紀元新聞」の『九評共産党』シリーズを賞賛。今では、中国共産党にとって最も恐るべき人物、そして最も頭の痛い相手になった。

 博大出版社から出た高智晟文集には、近年発表された文章も一部収録されている。これにより読者は、彼の伝奇的な生い立ちから中国の現状まで、より理解を深められるだろう。これらはどれも、「中国発展」神話の裏の一面。知られざる、しかも軽視されがちな真実なのである。

 高弁護士が現在置かれている境遇は依然として危険だ。マフィア同然の秘密警察は、高弁護士の耳元で「お前は死ぬぞ」とささやく。これは単なるゴロツキの言葉というよりも、闇に隠れる邪悪の発する脅迫といえよう。

 これは戦争だ。高弁護士は気づいた。「使われる武器は銃でもナイフでもない。道徳である。道徳で銃やナイフに勝てるのか? 勝てる! 我々は神と共に戦っているのだから」

 序文「筆が重い 祖国中国の闇が徐々に明かされるから」
 

「不幸にもこの時代の中国に生きる我々。すでに、どの民族も耐えがたい苦難を経験し、この目で見てきたから!
 幸運にもこの時代の中国に生きる我々。まもなく、この苦難の歴史の終結を経験し、この目で見る、最も偉大な民族であるから!」

 これは、2005年12月21日、数十名の陳情者を前に、私が涙で顔をぐしゃぐしゃにして述べた最後の言葉だ。

 私はきちんと教育を受けたわけではない。書物を著すとなれば、さらに無縁のことだ。苦々しい時代を生きてきたからである。

 「言論弾圧を避けるため、物書きの良心さえ捨てる」という、この時代。多くの同胞が慣れて、適応すらしてしまった闇と嘘に満ちた時代。私の作品は、闇を愛してやまない独裁政権を恐怖と憎しみに落とし入れるだろう。また一部の文章は、高ぶる感情と鋭さ、気概をまとっている。そこでは、独裁政権の身の毛もよだつ罪深い真実が暴かれる。この真実の矛は時に、その鋭さゆえ、同胞を包む厚い闇を突き破る。この闇に慣れた一部同胞にとっては、突然差し込んできた光を浴びて、強い抵抗感を覚えるだろう。これも、私の作品が中国本土で許されない理由の一つだ。

 この時代、失ったものばかりではない。私たちが「特別に得たもの」も多いのだ。一人の中卒の学歴しかない者が、人に好まれる文を書き上げ、しかも本となったことは、何はともあれ、収穫の一つである。

 決して重苦しさを私が好むわけではない。しかし、私の作品は重苦しさと、切っても切り離せないのだ。その重苦しさゆえに私は思考し、突き動かされるように暇を見つけては筆を取るようになった。これを通じ、中国の重苦しさも解き明かして行きたい。

 厳密に言えば、私は考えるというより、行動するタイプだ。ましてや何かの体系を打ち立てるタイプではない。思う存分、心の声をありのまま伝える。多くの文は筆にまかせて書いた。だから、文の流れや文章自体にも間違いがあるだろう。この点、しばしば不安になる。しかし、そこに書かれた真実には、壮絶で、血なまぐさく、苦難に満ちた人々の苦しみ、そして信仰を守る人たちの高貴な人格と不屈のヒューマニティが激しく波打っている。しかし、どれほど激しい表現も、今日の中国独裁政権の闇、横暴と人類文明を打ちのめす惨状を描ききれない。私もそれを描き出したい。しかし、中国の闇の一端を垣間見たとき、読者は文字の力の限界に驚嘆するだろう。

 反文明が横行する今日の中国。醜と美が逆転した作品がまかり通っている。病んだ中国社会は私の作品を受け入れないだろうが、いつの日か受け入れてほしい。

 そして何よりも、このような表現を必要としない中国社会が、一日も早く訪れることを心から願っている。

(続く)
高智晟著『神とともに戦う』(2)「いつになったら腹一杯食えるのか」