フランスの画家ドミニク・アングルが制作した『ルイ13世の誓願』。モントーバン大聖堂所蔵。(パブリックドメイン)

【芸術秘話】アングル 『ルイ13世の誓願』

1820年のフィレンツェ、アトリエに籠っていた画家ドミニク・アングルは非常に悩まされていました。

アングルは新作のためのモデルを友人のアブラハム・コンスタンティンに頼もうとしましたが、まさか拒否されるとは思いもしなかったのです。その作品はフランス政府の内務省から依頼された、アングルにとって非常に大事な一作でした。それこそ、後の『ルイ13世の誓願』と呼ばれた作品で、聖母マリアの前に跪いたルイ13世が、跡継ぎの子が生まれたなら、フランス王国を聖母に捧げるという誓いを立てる光景を描いています。

そして、アングルはこの作品を、20年ぶりに故郷へ戻ってきた記念作として描くつもりでした。そのため、腕によりをかけてしっかり描かなければならなかったのです。

しかしコンスタンティンは断固として拒否しました。それはなぜだったのでしょうか?

なぜなら、アングルはコンスタンティンに幼児イエス・キリストを抱えている聖母マリアのモデルを頼み、その上、精確に人体の構造を描くために、長時間、全裸でポーズすることを要求したのです。

これでコンスタンティンが嫌がる理由も納得できます。アングルはコンスタンティンを説得できませんでしたが、諦めませんでした。

アングルが取った方法はなんと、自ら全裸でモデルになり、幼児イエス・キリストの代わりに帽子を抱え、そして、コンスタンティンにスケッチを頼んだのです。コンスタンティンは有名なエナメル画家なので、腕にはそれなりの自信があり、見事、アングルの要求するスケッチを完成させました。

それから何年か後、『ルイ13世の誓願』はパリで展示され、大成功を収めました。ただ、誰も聖母マリアのモデルが何者だったのかを考えたことはなかったのです。

アングルは美術アカデミー出身の新古典主義の画家で、精確度と基本的な技術を重視した厳しいトレーニングを経ていました。『ルイ13世の誓願』の中の聖母マリアは服を着ていますが、精確な人体を描くためにはまず、裸の下書きをしなければなりませんでした。

多くの古典主義画家はまず裸の人間を描いてから、その上に服を描いていくのです。そのため、古典主義は西洋絵画における完璧さの最高峰をも象徴していました。アングルはかつてこのように言いました。

「時間をかけてスケッチしてから、絵筆を取るのだ。しっかりした基礎を身に着けてこそ、素晴らしい作品が出来上がる」と。

(“Dessinez longtemps avant de songer à peindre. Quand on construit sur un solide fondement, on dort tranquille.”)

(翻訳編集・天野秀)

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