14世紀のペルシア細密画、チンギス・カンが息子たちに分封している時の光景(パブリックドメイン)

チンギス・カンーー怒りを抑えれば、強敵に勝るも同然(上)【千古英雄伝】

モンゴルの史書『アルタン・トプチ』(『黄金史綱』)によると、テムジンの尊称は「英明で偉大な聖主・チンギス・カン」であり、「彼は宇宙からやってきて、テングリ(天上神)に35種の徳行を授けられ、多言語を話す民族を統率した。彼こそ聖人ホエルンの息子、智略に長けたチンギス・カンである」と記されています。

そしてテングリからの賜りと祖先のお蔭で、チンギス・カンはモンゴル帝国を築き上げ、彼の統治下では、「至る所に喜びの声が上がり、民は幸福に浸っている。老若男女問わず、皆ひとつに集まり、盛大な宴会を楽しんでいる」といいます。

テングリからの賜物

ある戦いの後、チンギス・カンは陣地に帰還しました。すると、突然、上空から玉製の茶碗が舞い降りてきたのです。中にはお酒よりも美味な甘露が入っており、それが穏やかにチンギス・カンの前に降りてきました。茶碗を受け取ったチンギス・カンはそのまま飲もうとしましたが、しかし、弟たちが「テングリからの賜物を、兄上が1人で享受するのですか?」と自分たちも飲みたいと訴えました。

すると、チンギス・カンは、「万能のテングリが我に酒を授けてくださった。きっと我に君主となる使命があるに違いない。お前たちが飲みたいというのなら、飲むがよい」と言って、茶碗を弟たちに渡しました。

しかし、弟たちが酒を飲もうとしたところ、その酒はまるで固まったかのように彼らの口の中に流れ込みませんでした。自分たちには君主になる運命がなく、天命を授かっていないため、テングリからの賜物を承る資格がないと分かった弟たちは、すぐさま謹んで茶碗をチンギス・カンに返しました。そして、チンギス・カンはお酒を一気に飲み干しました。(つづく)

参考文献:『黄金史綱』『チンギス・カン箴言集』

(翻訳編集 天野秀)

 

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