激しい怒りの爆発に悩まされていた若い自閉症の男の子は、自己調整や自己表現に困難を抱えていました。

神経科学者のカーリン・バルト（Karlien Balt）氏は、重みのあるブランケットやスイング、ハンモックなどの感覚刺激アイテムを活用し、彼の神経系を効果的に落ち着かせることに成功しました。

自閉症の神経系は、より硬直して敏感であり、脆弱な状態で機能することが多く、感覚的および感情的な刺激に適応するのが難しい傾向があります。迷走神経は神経系の調整において重要な役割を担っており、適切な働きによってバランスを回復させる可能性があります。感覚刺激や運動などの技術は、このバランスを整える手助けをし、自閉症の人々に多くの恩恵をもたらします。
 

自閉症の神経系

「自閉症の神経系は、脆弱で敏感なものです」と、自閉症と注意欠陥・多動性障害（ADHD）の専門家であり、臨床心理学の博士号を持つ心理学者のメガン・ネフ（Megan Neff）氏は、エポックタイムズの取材に対して語りました。

「神経発達障害を持つクライアントと関わるとき、私が行うことの一つは、彼らの神経系で何が起きているのかを理解する手助けをすることです」

神経発達障害のある人々とは、脳の情報処理の仕方が一般的な基準とは異なる人々を指し、自閉症やADHDなどの状態が含まれます。

神経系がバランスの取れた状態にあると、人は「耐性の窓」と呼ばれる領域にとどまっています。この状態では、心身がストレスにうまく対応し、落ち着いて現在に集中でき、困難からもすぐに回復できます。

しかし、この「耐性の窓」には限界があります。ストレスが過剰だったり慢性的に続いたりして、必要なサポートや十分な処理時間がない場合、人はその窓の外に出てしまい、過剰覚醒（極端な警戒状態）や低覚醒（孤立や無反応状態）に陥ることがあります。

ネフ氏は、神経発達障害のある人々の神経系は、定型発達（ニューロティピカル）に比べて硬直しやすく、彼らの「耐性の窓」は一般的に小さいと説明しています。また、迷走神経の刺激が自閉症の人々の行動改善に効果をもたらす証拠もあると指摘しています。

さらに、統合医療の実践者であるプリヤル・モディ博士（Dr. Priyal Modi）も、迷走神経の活動が自閉症やその他の神経発達障害の人々では低下していることが多く、それが社会的な関与をさらに困難にする可能性があると語っています。迷走神経トーンを高めることで、「耐性の窓」を広げることが可能になります。

迷走神経の刺激は、愛や絆に関わるホルモンであるオキシトシンの分泌を促進します。

カリフォルニア州のメタボリック・テレイン・ヘルス研究所で教育ディレクターを務める作業療法士、ジャネット・オッターズバーグ（Janet Ottersberg）氏は、「オキシトシンシステムの調整がうまくいかないと、自閉症の人々がよく経験する社会的・感情的な処理の困難につながる可能性があります」と話しています。
 

耐性の窓を広げる

「耐性の窓」を広げるためには、まずその仕組みを理解することが重要です。

「このように一貫して時間をかけてチェックすることで、神経系のパターンが見え始め、耐性の窓にいるときの状態を追跡し、観察できるようになります」とネフ氏は述べました。「その情報が得られれば、この窓を広げるためのエクササイズを導入することが可能です」

感覚刺激

自閉症の人々は、感覚ゲーティングの障害に関連する感覚処理の困難にしばしば直面します。感覚ゲーティングとは、神経系が「耐性の窓」内にとどまることを可能にする機能で、脳が感覚入力を取捨選択し、重要な情報に集中しつつ、不必要な刺激や気を散らすものを遮断する能力を指します。

この感覚ゲーティングがうまく働かないと、音や光、触覚に対する過敏さが生じ、「耐性の窓」が狭まってしまう可能性があります。

「感覚ゲーティングは農場の門のようなものと考えてみてください」とバルト氏は説明します。「通常は門が一部の刺激を通し、他のものは遮断します。しかし、感覚過負荷や交感神経が過剰に優位な状態の人では、その門が壊れ、常に全開になってしまうのです。そうなると、すべての刺激が一度に押し寄せ、重要なものとそうでないものの区別がつかず、ひどく圧倒されてしまいます」

そこで感覚刺激の技術が役立ちます。たとえば、皮膚のブラッシングや重みのあるおもちゃ・ブランケットの使用といった特定の感覚は、脳に集中すべき対象を与え、その他の圧倒的な感覚ノイズを打ち消すことができます。教室のような環境では、子どもの膝の上に重みのあるおもちゃを置くことで、子どもが落ち着き、感覚過負荷を防ぐことができると、バルト氏は述べています。

マッサージも、迷走神経トーンを高める効果的な方法のひとつです。人との接触は私たちの心身の健康にとって不可欠ですが、多くの人が接触不足の状態にあります。意識的で意図的な触れ合いは、迷走神経を刺激し、同時にオキシトシンの分泌を促進します。誰かにマッサージしてもらうことはもちろん有益ですが、ネフ氏は、自分自身で行える簡単なマッサージ技術もあると述べています。

たとえば、指先を使って首の両側、耳のすぐ下から鎖骨のあたりにかけて、円を描くように軽く圧をかけながらマッサージします。あるいは、手のひらの付け根をもみほぐし、指をやさしく伸ばすといった手のマッサージも効果的です。親指で足の裏をマッサージすることによって、神経系を整える圧点も活性化させることができます。

運動

激しい運動（長時間の散歩やランニングなど）、ウェイトリフティング、ソマティック運動は、迷走神経のトーンを高める優れた選択肢だとネフ氏は述べています。特にウェイトリフティングには、関節に深い圧力を与えるという利点があり、多くの神経発達障害を持つ人々にとって、心身のリラックスに効果があると感じられています。

ソマティック運動や、マインドフルネスを取り入れた身体中心の運動――たとえば、ゆっくりとした意図的なストレッチや穏やかなヨガのポーズ、グラウンディング・エクササイズなど――は、トラウマの回復を助ける働きがあります。

結果

若い自閉症の男の子のルーチンに、運動や感覚刺激をさらに取り入れ、さらに親との共同調整の実践を組み合わせたところ、症状の改善が見られ始めたとバルト氏は述べています。

男の子は手書きや読解のスキルが向上し、怒りの爆発が減少し、全体的に気分が明るくなりました。また、食感に対する過敏さが軽減されたことで、より良い食事の選択ができるようになりました。さらに、重みのあるおもちゃの使用により、睡眠の質も改善しました。

「神経系について学ぶことで、私たちは自分の力を取り戻し始めます」とネフ氏は語っています。「神経系がなぜそのように反応するのかを理解し、どう影響を与え、どう調整していくかを学ぶことができるのです」

（翻訳編集　日比野真吾）