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運動後の爆食いを防ぐ、遺伝子と習慣の話

もし、ワークアウト後に以前よりも強い空腹を感じたり、甘いものへの欲求が高まった経験があるなら、それは単なる意志力の問題ではなく、遺伝的な要因が影響しているのかもしれません。

新たな研究によれば、FTO遺伝子は筋肉の代謝を変化させ、時間の経過とともに筋肉の効率を低下させるだけでなく、飢餓シグナルを増幅することで、こうした欲求を引き起こす可能性があります。しかし、運動後の食事の内容や摂取方法を少し変えるだけで、自分自身のコントロールを取り戻し、遺伝子が運動の成果を妨げるのを防ぐことができます。
 

FTO遺伝子とは?

FTOとは、栄養を感知する役割を持つ遺伝子で、飢餓感やエネルギーの使用量を調整する上で重要な役割を担っています。この遺伝子は、食欲制御やホルモン調整に関与する視床下部で最も強く発現し、脂肪組織(脂肪細胞)や筋肉にも存在します。最近の研究では、FTOが中枢神経系の満腹シグナルに応答して、食行動を制御する能力があることが示されています。

この遺伝子のバリアントは、どれくらい食欲を感じるかから、運動後の筋肉回復効率に至るまで、幅広い影響を及ぼす可能性があります。特に「TTバリアント」を持つ人は、特有の課題に直面します。彼らは運動を力強く始めても、特に高脂肪の食事を摂取した場合、筋肉がインスリンに抵抗を示しやすく、その発症も早い可能性があるのです。

2025年に『Nature』誌に掲載された研究では、FTOのTTバリアントを持つ人は、インスリン抵抗性の影響で筋肉の疲労が早く訪れることが明らかになりました。インスリンは、筋肉がエネルギー源であるグルコースを吸収するのを助けるホルモンですが、この作用に抵抗が生じると、筋肉はエネルギーを効率よく取り込めなくなります。その結果、エネルギーレベルが低下し、身体はそれを補おうとして食欲を増加させるのです。

さらに研究では、高脂肪食がこの代謝プロセスを加速させ、TTキャリアが運動後に安定したエネルギーを維持するのをより困難にしていることも示されています。
 

なぜワークアウトが空腹感を増すのか

運動後の空腹感は多くの人が経験する一般的な現象ですが、特定のFTO遺伝子のバリアントを持つ人は、それをより強く感じる傾向があります。2023年に発表されたFTO遺伝子に関する研究は、その理由を以下のように説明しています。

1、甘い食品が脳の報酬中枢を刺激する:FTO遺伝子は、脳内の快楽を生む化学物質「ドーパミン」に影響を与えます。特定のFTOバリアントを持つ人は、運動後に甘い食品からより強いドーパミン反応を引き起こしやすく、欲求に抗うことが難しくなります。

2、高脂肪スナックがエネルギーの低下を悪化させる:運動後に高脂肪食品を摂取すると、TTバリアントを持つ人の筋肉におけるインスリン抵抗性が進行しやすくなり、疲労感や空腹感が増幅される可能性があります。これにより、エネルギーが一時的に高まった後に急激に低下するサイクルが生まれ、さらに食欲が刺激されます。

3、満腹感をもたらすシグナルが減少する:FTOバリアントを持つ人は、満腹感を司るホルモン「レプチン」の分泌が少ない傾向があるため、十分なカロリーを摂取しても満足感を得にくく、つい甘いものやスナックを食べ続けてしまうことがあります。
 

運動後の欲求に対する簡単な対処法

FTO遺伝子は「飢餓スイッチ」のように機能し、身体が食べ物を必要としていない時でも脳に「食べたい」というシグナルを送り続ける可能性があります。しかし、賢明な食習慣と目的に合った運動ルーチンを取り入れることで、このスイッチを再調整することができます。以下は、運動後の空腹サイクルを断ち切るための具体的なアプローチです。

ゆっくり消化される炭水化物を選ぶ:キャンディーバーやスポーツドリンクなどの甘いスナックを避け、サツマイモやキヌアなどの複合炭水化物を選びましょう。これらは消化がゆっくりで、血糖値の安定とエネルギーの持続に役立ちます。

タンパク質をしっかり摂取する:サーモン、肉、卵、ギリシャヨーグルトなど、タンパク質が豊富な食品は筋肉の修復を助け、長時間の満腹感をもたらします。運動後30分以内に20〜40gのタンパク質を摂取することを目安にしましょう。

短時間のワークアウトを選ぶ:高強度インターバルトレーニング(HIIT)は、FTO TTバリアントを持つ人に特に有効です。短時間でも効果的にエネルギーを消費でき、過剰な消耗を防げます。

欲求を健康的に満たす:どうしても甘いものが欲しくなった時は、加工食品の代わりにダークチョコレートやベリー入りスムージーを選びましょう。ダークチョコには飢餓を抑えるポリフェノールが含まれており、抗酸化作用も期待できます。

栄養豊富で抗炎症作用のある食品に注目する:ベリー類、サーモン、葉物野菜など、色鮮やかで自然な食品を積極的に摂取しましょう。これらは筋肉の回復を促進し、飢餓ホルモンのバランスを整える効果があります。

食べる量を意識的にコントロールする:小さな皿やフォークを使うことで、見た目に満足感が得られやすくなります。一口ごとに箸やフォークを置き、ゆっくりと意識的に食事をとることで、過食を防ぐことができます。
 

遺伝子は運命ではない:あなたが選べること

FTO遺伝子は運動後の空腹感を強める要因となり得ますが、それに屈する必要はありません。食事や運動の工夫によって、FTOの影響をコントロールし、むしろ自分の強みに変えることも可能です。

高脂肪スナックを複合炭水化物に変える、短時間で効率的な運動に切り替えるなど、小さな一歩が大きな変化を生み出します。

あなたの遺伝子は、体の反応の「舞台」を整えるかもしれませんが、脚本を書くのは日々の「習慣」なのです。

(翻訳 日比野真吾)

臨床栄養士および自然療法士として、2009年より消化不良、依存症、睡眠障害、気分障害に悩む方々を支援するコンサルティングを実施。大学で補完医療を学ぶ中で、行動神経科学や腸・脳の不均衡に強い関心を抱く。それ以来、栄養ゲノミクス、トラウマにおけるポリヴェーガル理論、および栄養療法アプローチに関する大学院レベルの認定資格を取得。