「あなたはどこへ向かっていますか? その道中、自分がどこにいるかを意識していますか?」
精神心理学者のロバート・バッカー博士は、心と身体の健康、心理現象、文化的なトレンドの交差点を探求しています。
「カラスと書き物机が似ているのはなぜ?」
これは『不思議の国のアリス』の中のなぞなぞで、意味がないように見えるかもしれません。それもそのはず、本来意味がないように作られているからです。でも私は、創造力を伸ばしたいクライアントに対して、しばしばこの質問を使います。「どう関係していると思いますか? 10通り考えてみてください」
意地悪だと思いますか? そうではありません。実際、好奇心と拡散的思考(一つのテーマからさまざまな方向へ発想を広げる思考)は、創造力を引き出すための強力なツールです。さらに最近の研究では、好奇心の持ち方には人によって個人差があることが示されています。
あなたの好奇心スタイルは?
2024年に科学専門誌『サイエンス・アドバンシズ』に発表された研究では、50か国・およそ50万人のウィキペディア閲覧履歴を分析し、好奇心のスタイルを以下の3つに分類しました。
- ハンター(狩人): 限られた情報の中から、特定の答えを探すスタイル。構造的で効率的、目的志向。ただし、他の選択肢を見落とすことがあります。
- ビジーボディ(お節介): 多様なトピックを広くつまみ食いするように探索。柔軟ではありますが、まとまりに欠けることもあります。
- ダンサー: 分野を飛び越えて、予想外のつながりを作り出します。革新的ですが、常識から外れることもあります。
最近、本屋でブラブラしたり、ネットで調べ物をしたりしたときのことを思い出してください。あなたは特定の情報に集中していた(ハンター)でしょうか? あちこち飛び回っていた(ビジーボディ)でしょうか? それとも無関係に思える話題を結びつけていた(ダンサー)でしょうか?
誰でも状況によってスタイルは変わりますが、自分の基本スタイルを知ることで、必要に応じて切り替えがしやすくなります。それぞれに長所と短所があるため、目的に応じて最適なスタイルを選ぶことが大切です。
好奇心を創造性と成功に活かす
正しいタイミングで正しいスタイルを使えば、学習力、問題解決力、創造力が向上します。
ハンター
ハンターの特徴は、心理学で「収束的思考」(複数の選択肢から正解を絞る思考)と呼ばれるものです。たとえば製造ラインの生産性向上といった、特定の問題に集中して答えを探すような場面に向いています。専門性を高めたり、問題を効率よく解決したり、スキルを習得する場合には最適なスタイルです。
長所:効率性、スキル習得に最適
短所:柔軟性、回復力に欠ける
ビジーボディ
こちらは「拡散的思考」、つまり一つのテーマから多くの可能性を広げる思考法です。専門性も重要ですが、未知の情報を探ることで、困難な状況を乗り越えるヒントが得られることもあります。たとえばハーバード医科大学では、医師たちが最初に「拡散的思考」で考えるよう訓練した結果、診断精度が最大38%も向上したという研究があります。
長所:複雑な問題、柔軟な学習、行き詰まりの打破
短所:瞬時の判断、高度な運動能力、時間にルーズ
ダンサー
ハンターやビジーボディは以前から知られていましたが、この研究で注目されたのがダンサーというスタイルです。分野を超えて自由に飛び回るこのタイプは、創造性と幸福感を強く結びつけています。心理学では、基本的な欲求が満たされた後、人は創造的な活動に深い満足を見出すと言われています。また、ストレスが高まる中でも、しなやかに対応できる人はルールを再定義し、斬新な解決策を見つける傾向があります。
慣れない考え方を試すのは難しいかもしれませんが、それが創造性を引き出すきっかけになります。ダンスと同じく、最初はぎこちなくても、練習すれば自然に出来るようになります。
長所:インスピレーション、自己成長、発明
短所:短期的で実用的なニーズの対応ができない
では、最適なアプローチとは何でしょうか?それは「意図的な好奇心」です。必要に応じてスタイルを切り替えることで、深い専門性と広い探究心の両方をバランスよく保ち、効率とインスピレーションの両面を最大化できるのです。
意図的な好奇心は新しいアイデアや可能性を探るうえで役立ちますが、いつ方向転換すべきかを知ることも重要です。ノーベル賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーは、カーネマンの著書『ファスト&スロー(Thinking Fast and Slow)』の中で、「正確にやること(getting it right)」と「終わらせること(getting it done)」の違いについて論じています。時には、広く情報を集め、可能性を大きく広げるために網を広く投げたいこともあります。一方で、特定の問題の解決策に絞り込む必要があるときには、あまりに寄り道しすぎると苛立ちの原因になることもあります。
しかし、このバランスは単なる心理的な概念ではなく、私たちの脳の構造にも関係しています。神経科学の研究によれば、好奇心は報酬への期待を高め、自己制御を改善し、学びや思考をより魅力的なものにすることで、部分的にそれらを強化するとされています。この考え方は、注意力や覚醒状態、集中力に関わる神経化学物質「ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)」と一致します。獲物に飛びかかる直前の猫を想像してみてください。私たちも同じように、有望なターゲットに狙いを定めるのです。
より充実した人生のために好奇心を活かすこと
より充実した人生のために好奇心を活用すると、人生がもっと面白くなるだけでなく、脳の再配線にも役立ちます。新しいアイデアや体験を探求するとき、脳は「気分を良くする」化学物質であるドーパミン(神経伝達物質の一種)をより多く放出する傾向があります。このドーパミンによる効果で、学びがより楽しいものになり、視野が広がり、脳がパターンを認識しやすくなります。言い換えれば、好奇心は創造性の原動力となり、これまで想像もしなかったような形で点と点をつなぐ力を与えてくれるのです。
では、こうした好奇心の多くの利点を踏まえて、あなたはきっと「どうすればよりよい人生を送れるのか?」と思うことでしょう。生まれ持った好奇心を最大限に活かすためには、次の「4つのR」に従ってみてください。
1. Recognize(認識する):自分の目標を把握する
今、自分はハンター型、ビジーボディ型、ダンサー型のどのモードでいるべきか?自分のアプローチを見極めることで、その強みを活かしたり、必要に応じてスタイルを切り替えたりすることができます。
2. Regulate(調整する):自分の心の持ち方を整える
自分の目標をサポートするように環境を整えましょう。
- ハンター型の人は、明確な質問やタスクを定め、それを段階的に分けて取り組みます。集中力を保つために時間制限を設けたり、関係のない情報を脇に置いたりすることが効果的です。たとえば、新しいアプリをスマートフォンにインストールしたときは、すべての機能を触るのではなく、そもそもそのアプリを入れた「一番大事な機能」から使い始めましょう。
「次に一番重要なステップは何か?」と自分に問いかけてください。道のりはいつも直線的とは限りませんが、その瞬間ごとの優先順位をつけることが鍵です。集中力を保つには、タイマーを使う、後回しにするべきことを明確にしておく、環境を整えて気が散らないようにする、などが効果的です。目標を見失わないようにしましょう。
- ビジーボディ型の人は、さまざまな素材に触れたり、自由な発想でアイデアを広げたりすることで、心の散歩(マインドワンダリング)を促すことができます。また、何か一つのモノを選んで、それが使える用途を思いつくだけ挙げてみるというチャレンジも有効です。
多様な素材に囲まれることで、連想的な思考がしやすくなります。思いつくままにアイデアを追いかけ、後で振り返ってみてください。軽い運動や「非指示型の瞑想」、つまりただ座って5~10分間、頭の中に浮かぶ考えを観察することも役立ちます。
- ダンサー型の人は、視点を変えることが助けになります。たとえば、異なる興味を組み合わせてみたり、新しい環境を探検したり、普段とは違うタイプの人と話してみたりすることが効果的です。最初は「ダンス」のように慣れないと難しく感じるかもしれません。脳は慣れた習慣を壊すことに抵抗を示す傾向がありますが、練習を重ねれば自然とできるようになり、スキルの習得や燃え尽き(バーンアウト)への耐性も大きく向上します。
3. Reconstruction(問題を再構成して新たな扉を開く):
「これは他に何に使えるだろう?」「まったく違うタイプの人なら、どうアプローチするだろう?」といった質問をしてみてください。「正しいかどうか」を気にせず、判断を保留して、好奇心のままに進んでみましょう。
行き詰まっていたり、あまり「創造的な気分」ではないと感じるときには、プロンプト(きっかけとなる問いや課題)が役立つことがあります。とくに、1日の最初など頭がスッキリしていて、まだ何にも邪魔されていないタイミングで取り組むと効果的です。
次のようなチャレンジに取り組んでみましょう。
たとえば、いつもと違う道を通って通勤し、今まで気づかなかったことを3つ見つけてみる。表面的なことの奥にあるものを探ってみる。たとえば、難しいと思うことを誰かに説明できるように学んでみる。新しい「ダンスの動き」に挑戦するように、普段は絶対に聴かない音楽ジャンルをBGMにして仕事をしてみる、などです。
4. Rhythm(創造的な習慣を強化する):
シンプルな好奇心ジャーナル(好奇心を記録するノート)をつけてみましょう。新しいアイデアや気づいたつながり、パターンなどを書き留めてください。
「好奇心ポートフォリオ」をつくるのも良い方法です。答えを追い求める「ハンター」、広く探索する「ビジーボディ」、創造的な飛躍をする「ダンサー」──この3つのスタイルの間で、意識的に時間の使い方をバランスよく配分していきましょう。
あなたの中の探検家を育てましょう
かつてヨーロッパの船乗りたちは、大西洋を渡るのに苦労していましたが、海流を利用することでその旅はずっと楽になりました。これは、自分のリズムに逆らうのではなく、自然に沿って進むことの大切さを表す良い例です。
自分の好奇心スタイルを理解し、それに合わせて行動することで、創造的な発見に近づくことができます。集中したいとき、視野を広げたいとき、あるいは思いがけない飛躍が必要なとき、あなたの最高のひらめきは「考え方の切り替え」から生まれるかもしれません。
さて、「カラスと書き物机が似ているのはなぜ?」
その答えは、あなたの思考スタイル次第かもしれません。
(翻訳編集 井田千景)
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