日本を訪れる西洋人観光客の数は年々増加していますが、彼らがしばしば戸惑うのが、「なぜそこにゴミ箱がないのか?」という点です。公共の場にゴミ箱がほとんど見当たらないのに、どうしてこんなにも清潔で秩序が保たれているのか――それが観光客の最大の疑問です。
今年初め、日本政府観光局(JNTO)は、日本を出国する旅行者を対象に調査を実施し、旅行中にどのような困難があったかを尋ねました。
ゴミを捨てることが旅行中の最大の問題
最も多かった回答は「ゴミ箱が足りない」でした。22%の観光客が、ゴミを捨てる場所を見つけるのが難しいことが旅行中の最大の問題だと答えています。
CNNの記事によれば、日本のゴミ処理のあり方は独自のマナーと密接に関係しています。「歩きながら食べる」ことは失礼な行為と見なされており、都市によってはこの行為を完全に禁止しているところもあります。代わりに、街で買ったファストフードなどは自宅やオフィスに持ち帰って食べ、そこでゴミを処分するのが一般的です。どうしても外出中に食べる場合は、多くの人が小さな袋を持ち歩き、ゴミを家に持ち帰っています。
「鹿を救う」
観光業の発展も、日本の公共のゴミ事情に影響を与えています。世界中からの観光客が、ユネスコ世界遺産に指定されている奈良を訪れています。奈良は大阪の東に位置し、新幹線で約45分の距離にあります。奈良は歴史的な寺院や仏教文化財で知られていますが、何よりも有名なのは野生の鹿です。鹿は観光客から「鹿せんべい」を受け取り、「おじぎ」をして感謝の気持ちを表すことで親しまれています。
しかし近年、ゴミが鹿の命に関わる深刻な問題となっています。2019年には、観光客が地面に残したプラスチックゴミを食べたことが原因で、9頭の鹿が死亡しました。
1985年、鹿がゴミ箱を荒らさないように奈良公園のゴミ箱が撤去されました。当時、「ゴミを捨てないでください。鹿が食べてしまうと命にかかわります」という内容の警告看板が奈良各地に設置されました。
しかし観光客の増加により、看板だけでは対応が追いつかず、多くの観光客が地元住民のようにゴミを持ち帰る習慣を守れていないことが分かりました。そこで市政府は方針を見直し、観光客が多いエリアに複数のゴミ箱を設置しました。
これらのソーラー式ゴミ箱には、「Save the deer(鹿を救おう)」という英語のメッセージが書かれています。
日本人の自律心
ゴミ箱の少なさを日本文化の魅力と感じる観光客もいれば、旅行の楽しさを損なう不便さと捉える人もいます。
旅行会社Walk JapanのCEO、ポール・クリスティ氏は、顧客からゴミ箱の少なさについて尋ねられた際、「日本人の清潔さへの意識と、社会全体の協力が清潔な国を支えている」と答えているといいます。
日本文化研究の教授であるマクモラン氏も、「日本のコミュニティは、公共のゴミ箱が引き起こすトラブルやコストを避けることを選び、日本の消費者も買い物時に出るゴミを自分で処理するようになった」と述べています。
また、日本ではリサイクルが強く奨励されており、それがゴミ箱のサイズが小さい理由にもなっています。マクモラン氏によると、都市によってはリサイクルの分類が20項目にも及び、地元の人でも正確に分別して捨てるのは容易ではないとのことです。
「ゴミ一つない公共交通機関も、日本人が駅や電車、バスの清潔さを保ち、他の利用者への思いやりを持って行動している好例です」とも述べています。
(翻訳編集 里見雨禾)
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