全国知事会は11日、多文化共生社会の実現を目指す共同宣言の案をまとめた。外国人による犯罪検挙件数が減少傾向にあるデータを示し、外国人の増加が治安悪化を招くとの見方に根拠がないとする。
一方、宣言は過去のデータに基づくもので未来の保証ではないが、多文化共生を前提に進める姿勢だ。また、日本文化の保全に関する記述は一切なく、経済が優先されている。
宣言案は法務省の「犯罪白書」を引用している。外国人による刑法犯の検挙件数は2005年(平成17年)の約44,000件から2023年(令和5年)には約16,000件に減少。在留外国人数に対する比率は約2.17%から約0.46%に低下した。
厚生労働省の「外国人雇用状況」では、2024年10月時点で約230万人の外国人労働者が約34万事業所で働いている。知事会はこれらを根拠に、SNSなどで広がる「外国人が増えると犯罪が増える」との情報に事実的な裏付けがないと指摘する。
ただし、宣言は過去から現在の傾向を示すもので、将来の予測を明言していない。大紀元の記者は全国知事会・調査第三部に取材し、「将来の予測について検討があったのかどうか」確認したところ、「特に検討はなかった」と述べた。
在留外国人は約340万人を超え、2027年開始予定の「育成就労制度」でさらに増加する見込みだ。社会変化が犯罪に与える影響はデータ外の要因を含むため、傾向の継続を保証するものではない。宣言ではこうした限界に触れていない。
また、宣言の中心である「多文化共生の推進」は、国や市町村と協力し、外国人の文化的多様性を地域の活力につなげるとする。2025年7月、知事会は国に制度移行と環境整備を要請済みで、新たな基本戦略や基本法、司令塔組織の設置を求めている。
一方、宣言案には日本文化の保全や伝統の維持に関する記述はない。外国人の生活ルール周知や日本語教育は提案されているが、日本側の文化継承策は言及されていない。大紀元の取材に対し担当者は、「日本文化の保全や伝統の維持については特に検討していない」と述べた。
経済面では、人口減少と少子高齢化への対応として外国人労働者が製造業や介護分野で必要と位置づける。ルール違反への厳正対処は国と連携して行うとしている。
以下に全国知事会がまとめた共同宣言案全文を記す。
多文化共生社会の実現を目指す全国知事の共同宣言(案) (国民へのメッセージ)
私たち全国 47 都道府県知事は、増加する外国人の生活者としての課題に対応するた め、これまで多文化共生施策を進めてきました。2027(令和9)年、国の法律改正によ り「育成就労制度」が開始されれば、こうした課題は全国的な課題になることが明白で あることから、2025(令和7)年7月、私たちは国に対し、「育成就労制度への円滑な 移行」及び「外国人の受入環境整備」を求めました。さらに、これを実現するためには、 国の責任において、外国人の受入れ及び多文化共生施策に取り組む必要があることか ら、新たな外国人の受入れに関する基本戦略の取りまとめや多文化共生施策実施の根 幹となる基本法の制定、司令塔となる組織の設置について、強く要請をしているところ です。 私たちは、こうした取組を引き続き国に強く求めるとともに、多文化共生社会の実現 を目指すため、以下の基本的立場を共有し、ここに宣言します。
1.多文化共生の推進
私たちは、国や市町村等の関係者と力をあわせ、日本人と外国人が共に地域社会を築 くための多文化共生施策を推進します。事実やデータに基づかない情報による排他主義・排外主義を強く否定します。差別や人権侵害のない社会の実現を目指す姿勢のもと、 感覚的に論じることなく、現実的な根拠と具体的な対策に基づく冷静な議論を進め、外 国人の持つ文化的多様性を地域の活力や成長につなげることで、地域社会を共につくる一員として包摂し、日本人、外国人を問わず、すべての方が安心して暮らし、活躍す ることができる多文化共生社会をつくっていきます。
2.ルールに基づく共生と安心の確保
「多文化共生」は、無秩序な外国人の受入れや外国人の優遇を意味するものではあり ません。ルールを守る外国人には地域社会の一員としての機会を保障する一方で、違法 行為や制度の不適切利用については国と共に厳正に対処します。外国人がルールを適 切に把握できるよう、ごみ出しや騒音なども含めた生活に関する情報発信や相談対応 等に努め、日本語学習の支援など日本人と外国人が安心して暮らすことができる環境を国と共に整えていきます。
3.正確で積極的な情報発信
外国人の受入れ増加は日本の深刻な人口減少・少子高齢化を背景としており、外国人 は既に製造業やサービス業、建設業、農業をはじめ、近年では医療・介護・福祉分野等を担う人材として、また、地域の一員として社会を支える、なくてはならない存在となっています。一方で、その実態は必ずしも十分に伝わっておらず、外国人が増えると犯 罪が増える、ルールを守らない外国人が多い、などの根拠があるとは言いがたい情報もSNS 等で見受けられます。
実際、「外国人雇用状況」の届出状況によれば、2024(令和6)年 10 月現在、約 230 万人の外国人労働者が全国約 34 万か所の事業所で活躍しています。また、「犯罪白書」 によれば、外国人による刑法犯の検挙件数は、2005(平成 17)年の約4万4千件をピークとし、2023(令和5)年には約1万6千件と在留外国人が増加する中にあっても減 少傾向にあります。さらに、その在留外国人数全体に対する比率をみると、2005 (平 成 17)年の約 2.17%から、2023(令和5) 年には約 0.46%と低下しています。
国には、外国人が増加することに対する国民の不安を払拭し、国民が正確な情報に基 づいて冷静に議論できるよう外国人の受入れ・共生に関する基本的な在り方や、正確な データに基づく積極的な情報発信を行うよう働きかけていきます。
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この宣言を通じて、全国の自治体が一体となり、多文化共生と地域社会の安定を両立さ せる持続可能な社会づくりを国と共に進めていくことをここに誓います。
令和7年 11 月 日
全 国 知 事 会
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