血液中のタンパク質を測定することで、研究者は、個々の臓器の生物学的年齢を推定できるようになりました。
『Nature Medicine』に掲載された知見は、この検査によって、人が病気を発症するリスクを、症状が現れる数年前に見つけ出せる可能性があることを示唆しています。
「これは、理想的には、医学の未来の姿です」と、論文の責任著者で、スタンフォード大学の神経学教授であり、脳の回復力のためのナイト・イニシアチブの所長でもあるトニー・ウィス=コーレイ氏は、声明で述べました。
「今は、どこかが痛むから医者に行き、医者は何が壊れているのかを調べます」と、同氏は言いました。「私たちは、『病気を治すケア』から『健康を守るケア』へと転換し、人が特定の臓器の病気を発症する前に介入しようとしています」
ウィス=コーレイ氏は、スタンフォード大学から技術のライセンスを受け、一般向けの検査を開発しているVero Biosciencesという会社を共同で設立しています。
3人に1人にみられる、実年齢とずれた臓器の老化
研究者らは、英国の大規模な健康研究データベースで、現在も継続中のUKバイオバンクから、40~70歳の参加者45,000人近くの血液サンプルを分析しました。血液中の、特定の臓器と関連するタンパク質を調べることで、各臓器の生物学的年齢を、その人の暦年齢(実際の年齢)で典型的とされる値と比べるアルゴリズムをつくりました。
参加者の約3分の1には、生物学的な年齢が予想より著しく高いか、低い臓器が少なくとも1つあり、そのずれは、暦年齢そのものより、病気のより強力な予測因子であることがわかりました。
脳の生物学的年齢は、とくに影響が大きいものでした。「極端に老化した」脳は、約15年間で、アルツハイマー病のリスクが3倍超、あらゆる原因による死亡のリスクが182%高くなることと関連していました。
同様に、老化した心臓や肺は、心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)にかかる可能性を高め、老化した筋細胞のプロファイル(特徴)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症率が13倍近く高いことと関連していました。
特定の臓器やその特定の細胞型の老化が速すぎると、そのタンパク質のパターンは、予測できる形で変化します。ニューロフィラメント軽鎖は、脳内にあるタンパク質で、脳細胞が損傷すると、血液中に漏れ出すことがあります。ニューロフィラメント軽鎖が高い値を示すことは、脳卒中や神経損傷のサインとなりえます。
問題が表面化する前の発見
知見は、臓器の生物学的年齢が、病気のリスクの最も強い予測因子であり、暦年齢などの従来の指標を上回ることも示しました。
最終的な目標は、これらの測定結果を一人ひとりに合わせた予防に生かし、まだ手を打てるうちに警告サインを捉えることだと、ウィス=コーレイ氏は強調しました。
「症状が出る前に介入し、アルツハイマー病のような病気を防げる可能性があります」と、同氏はエポックタイムズに語りました。
検査の真の価値は、「最も弱い部分」を見つけることにあると、同氏は言います。つまり、老化が進んでいる、あるいは「心臓病、アルツハイマー病、糖尿病、さまざまながんなど」の病気のリスクが高い、細胞や臓器のことです。
現時点では、モデルの大半が「50歳を超える人で開発されており、推奨できるのもその人たちに限られる」と、ウィス=コーレイ氏は注意を促しました。
この研究に関わっていない神経科学者で、神経疾患の治療薬を開発する米国のバイオ製薬会社Anavexの元社長兼CEO、クリストファー・U・ミスリング氏は、エポックタイムズに次のように語りました。個々の臓器、とくに脳の生物学的年齢を理解することで、臨床医は、ケアをはるかに精密に調整できるようになる可能性があるといいます。
患者の脳が暦年齢より「老けて」見える場合、認知機能のスクリーニングを早めに行う、血管のリスク要因をより積極的に管理する、あるいは睡眠、運動、炎症を抑える生活習慣をより重視する、といった対応を裏づける根拠になりえます。
一方、「若い」脳の結果であれば、不要な介入を控え、現状の維持に重点を置く判断を後押しするかもしれません。
「臓器ごとの老化がわかれば、ケアが『事後対応』から『先回り』に変わる可能性があります」とミスリング氏は言いました。「症状が出るずっと前から、臨床医が予防策を一人ひとりに合わせるのに役立ちます」
健康を最適化するための、一人ひとりに合わせた提案
ウィス=コーレイ氏は、この技術は、治療計画や生活習慣を個人に合わせ、その人の健康と長寿を最適化するために使える可能性があると指摘しました。
「こうした測定ツールを開発する狙いは、まさにそこにあります」と、同氏は言いました。
同氏が開発したモデルに基づけば、特定のタンパク質の濃度から、さまざまな細胞型や臓器の相対的な年齢を推定し、個人の健康状態とリスクの全体像(プロファイル)をつくることができるといいます。
「医師の専門的な助言のもと、加速する老化や病気のリスクに対抗するために、生活習慣の改善や医薬品の使用などの具体的な介入が勧められる可能性があります」と、同氏は言いました。
今回の知見は、同じUKバイオバンクのコホート(追跡対象の集団)を使った、2025年の関連研究を土台にしています。この研究で、臓器ごとの老化と病気のリスクとのつながりが、初めて特定されました。研究者らは、今回の結果が、40~70歳の英国の成人という単一の集団に基づいていることに注意を促しています。また、生物学的年齢と病気のリスクの間に関連があることは、臓器の老化を遅らせれば実際に病気を防げるという証明と同じではない、とも指摘しています。この検査が広く推奨されるには、より大規模で多様な集団を対象とした研究に加え、最終的には、生物学的年齢に介入すると結果が変わるかどうかを調べる試験が必要になるでしょう。
ミスリング氏は、こうしたツールは、症状が出るずっと前に、臓器(とくに脳)が予想より速く老化している人を見つけるのに役立つ可能性があると述べました。そうすれば、臨床医は、患者の年齢ではなく、その人の生物学的な状態に合わせた、的を絞った経過観察、リスク要因の管理、生活習慣の改善によって、より早く介入できるようになるといいます。
(翻訳編集 日比野真吾)
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