私たちは遺伝的運命がDNAに書き込まれていると教えられてきました。しかし、研究は徐々にこの宿命論的な見方を見直しつつあります。
遺伝子は老化の約25~30%に影響すると考えられています。残りの部分は、食事や運動、ストレスへの対処、人間関係、自分自身との向き合い方といった、私たちが関与できる要因によって左右されます。
ルチア・アロニカ氏はスタンフォード大学医学部のエピジェネティクス・栄養ゲノミクスの研究者です。彼女の研究は、遺伝と環境のバランスが人生を通じてどのように現れるかを示しています。
「あなたは遺伝コードの受動的な読み手ではなく、毎日の選択によって健康のストーリーを書き続ける存在です」と彼女はEpochTVの「The Upgrade」で語りました。
人生のソフトウェアを書き換える
アロニカ氏はエピジェネティクスを理解するために、DNAをコンピュータのハードウェア——すべての細胞に存在する基本的な生物学的構造——と見なし、エピジェネティクスを、細胞にどのプログラムをいつ実行するかを指示するソフトウェアと考えることを提案しています。
「epi」の接頭辞は「上に」という意味で、遺伝子の上に位置する分子スイッチを指し、基礎となるコードを変えずにオン・オフを切り替えます。
「ここが重要な点です。今日からそのソフトウェアを書き換えることができるのです」とアロニカ氏は言います。
最初のステップは、食事です。
「食事はすべての基礎」
アロニカ氏はイタリアで育ち、母親から「キッチンと食卓では老化しない」と教えられました。
彼女はこのアプローチを「エピ栄養学」と呼び、特定の食品がエピジェネティクスに影響を与える食事法としています。
これらの食品は単なるエネルギー源ではなく、健康に関わる遺伝子の働きを調整する栄養素を含んでいると考えられています。
主要な要素はメチル供与体で、体が遺伝子の働きを調整する際に使う化学基を提供する栄養素です。主なものには以下が含まれます:
- 葉酸:緑葉野菜、レバー、マメ科植物
- ビタミンB12:主に肉、魚、貝類、レバー
- コリン:主に卵黄、レバー、一部の十字花科野菜
- ベタイン:ビート、キヌア、エビ、小麦ふすま
「医師から『虹のように色とりどりの食事をとりましょう』と言われたことがあるかもしれません」とアロニカ氏は言います。「こうした色素は単なる抗酸化物質ではなく、エピジェネティックな調整に関わる酵素に作用し、健康に関わる遺伝子の働きをサポートする栄養素でもあるのです」
そのため、次のような食品を取り入れることがすすめられます:
- 赤い食品:トマト、パプリカ
- オレンジ色の食品:オレンジ、カボチャ、ニンジン
- 茶色の食品:コーヒー、カカオ80%以上のダークチョコレート(非アルカリ処理のもの)
- 紫の食品:ベリー類
- 緑の食品:ほうれん草、アブラナ科野菜
特に緑の食品にはスルフォラファンが含まれており、アロニカ氏はこれを「体内の抗酸化システムを支える重要な成分」と表現しています。他のビタミンが直接作用し短時間で消費されるのに対し、スルフォラファンは体内の抗酸化に関わる遺伝子の働きを促し、数日間持続するとされています。そのため、週に2~3回アブラナ科野菜(ブロッコリー、芽キャベツ、ルッコラなど)を取り入れることが推奨されています。
どの食品を細かく覚えるよりも、地中海式の食事を一つの目安とすると取り入れやすいでしょう。多くの研究で、地中海式食事の実践が遺伝子の働きに良い影響を与える可能性が示されています。
2020年に『GeroScience』に掲載された研究では、1年間地中海式食事を続けた高齢者に、研究者が「エピジェネティックな若返り」と呼ぶ変化が見られました。遺伝子の調整状態が、より若く健康的とされるパターンに近づいたと報告されています。
体は覚えている
栄養に加えて、アロニカ氏のアプローチは、運動、ストレス管理、人とのつながり、睡眠、喜び、毒素の回避にも及び、これを「エピウェルネス」と呼んでいます。
研究では、高強度の運動を1回行うだけでも、筋肉の遺伝子調整に変化が生じる可能性が示されています。こうした変化は体の適応を助け、身体機能の向上につながると考えられています。
しかし、より大きな効果は継続的な運動によって得られるとされています。2024年に『BMC Biology』に掲載された、訓練経験のある男性とない男性を比較した研究では、長年の定期的な運動が持続的な「エピジェネティックな特徴」を形成する可能性が示されました。エネルギー利用や筋繊維タイプに関わる遺伝子が、トレーニングに対してより効率的に反応するようになると考えられています。エピジェネティックな観点では、筋肉はトレーニングの影響を記憶し、適応を通じてパフォーマンスや持久力の向上につながるとされています。
さらに、運動は生物学的年齢に関連するエピゲノムの状態にも影響を与える可能性があります。3176人の骨格筋サンプルを用いたメタアナリシスでは、有酸素能力が高い人ほど、より若いエピジェネティックプロファイルを示す傾向が見られました。
エピジェネティクスに対する心構え
「私たちの信念や感情もエピジェネティクスに影響すると考えられています」とアロニカ氏は言います。
『Frontiers in Immunology』に掲載された瞑想に関する18件の研究の系統的レビューでは、共通した傾向が見られました。マインド・ボディ介入は、炎症に関わるNF-kB活性の低下と関連している可能性があります。NF-kBが慢性的に活性化すると、老化と関連する炎症反応が促進されると考えられていますが、瞑想はその調整に関与する可能性が示唆されています。
長期間瞑想を行っている人では、染色体の保護構造であるテロメアに関連するDNAメチル化の変化が見られることがあります。特に、長期実践者では年齢とテロメア長の関連が弱まる傾向があり、細胞の老化に対する影響が示唆されています。
さらに2025年に『Frontiers in Nutrition』に掲載されたレビューでも、瞑想を中心とした実践が、ストレスや老化に関わる遺伝子の調整のあり方に影響する可能性が報告されており、NF-kBやテロメアに関する知見を補強しています。
平たく言えば、継続的なマインドフルネスは、炎症、免疫、代謝、脳の健康に関わる遺伝子の働きに関係する化学的な調整に影響し、低ストレスで穏やかな老化と関連する状態に近づける可能性があります。
忘れられた変数
バイオハッキングや長寿の最適化が注目される中で、多くの人がさまざまな健康法を試す一方で、大切な要素を見落としているとアロニカ氏は言います。それが「喜び」です。
「喜びがなければ、持続可能な変化は難しいでしょう」と彼女は言います。「食事でも運動でも、楽しめなければ続けることはできません」
脳は、栄養のある食事や人とのつながり、運動といった健康的な習慣を繰り返すことで、本来の喜びを感じるようにできています。これはいわば「健康へ導く本能的な指針」と言えるでしょう。
しかし現代では、その喜びが自然なものではなく、人工的な快楽に置き換えられてしまうことがあります。
「チョコレートやキャンディを大量に食べたり、ソーシャルメディアに没頭したりすることを勧めているわけではありません。それらは依存につながりやすい快楽の一種です」
アロニカ氏は、こうした人工的な快楽から距離を置くことで、持続可能な変化の土台となる本来の喜びに気づけると述べています。「自分の食事や運動を好きになり、楽しめるようになれば、自然と続けられるようになります」
80年以上にわたり参加者を追跡してきたハーバード成人発達研究でも、同様の傾向が示されています。健康的な老化に強く関係する要因は、食事や運動だけでなく、人間関係の質や日常生活における喜びであるとされています。
遺伝子の鉛筆を握る
遺伝子は重要ですが、それがすべてを決めるわけではありません。
「生まれる前に決まる一部のDNAの特徴はペンで書かれたように変えにくいものですが、大人になってからの変化は鉛筆のように書き換えられる余地があります」とアロニカ氏は言います。
日々の食事や運動、瞑想、そして喜びを選ぶ行動の一つひとつが、エピジェネティックな変化に関わり、健康のストーリーを書き直すきっかけになる可能性があります。
(翻訳編集 日比野真吾)
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