認知症は救えるのか?(1)  10人中9人の患者の症状を改善させたある方法

こんなシナリオを想像してみよう。 ここ数年、あなたのお母さんは記憶を失い、運転中に道に迷ったり、あなたに何度も同じ質問をしたり、新しい情報を取り込めなかったり、文章の途中で言おうとしていたことを忘れてしまったりしている。そしてCTスキャンの結果、医師からアルツハイマー病であると言われた。 医者から薬をもらっているが、医者も効かないかもしれないと言う。

認知症に希望はあるのか?

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とバックインスティテュートフォーエイジング研究所による新しいプロジェクトは、このような患者に新しい希望を与えている。「認知機能低下の逆転:新しい治療プログラム」というタイトルの研究論文で、デール・ブレーデセン氏は、認知症と診断された10人の患者のうち9人が認知能力を回復したことを紹介している。 

アルツハイマー型認知症は、認知症全体の60~80%を占める数ある認知症のうちの一つに過ぎない。 この病気は、米国で540万人、世界で3千万人が罹患していると言われ、2050年には、この病気の患者数は世界で1億6千万人に増加し、そのうち1300万人は米国人であると言われている。アルツハイマー型認知症には有効な治療法がなく、すでに米国では死因の第3位となっている。

多くの人は、年齢とともに認知能力が低下していくものだが、アルツハイマー病協会では、認知症を「日常生活に影響を及ぼす物忘れなどの深刻な精神疾患の総称」と表現している。 

10人中9人の患者の認知能力が戻った方法

ブレーデセン氏によると、認知症やアルツハイマー病の悪化のスピードには多くの要因が影響しているという。 ブレーデセン氏たちは小規模な研究で、10人の患者の認知力を回復させるために、各個人に合わせた複雑なプログラムをたてた。

これらのプログラムの結果は驚くべきもので、9人の患者が3〜6ヶ月のプログラム参加で認知能力を取り戻し始めた。 そのうち6名は、開始時にすでに働くことができない状態だった。しかし 全員が働く力を取り戻し、再び働き始めたのだ。 

そのうち5人はアルツハイマー病に関連した記憶喪失だったが、他の患者は軽度の認知機能障害のみだった。 ただ一人、進行したアルツハイマー病と診断された患者の認知機能は回復しなかった。

医師たちは、これらの患者を治療するため、体系的かつホリスティックなプログラムを用い、食事療法、脳刺激、運動、睡眠の改善、特定の薬とビタミン、および脳化学の変化を含む複雑な36ポイントの治療計画を作成した。

「既存のアルツハイマー病治療薬は、単一のターゲットだけを対象としているが、アルツハイマー病は非常に複雑です」とブレーデセン氏は言う。「 屋根に36個の穴が開いているようなもので、これらの薬は1つの穴しか狙えないし、その1つの穴を治しても他に35個の穴があるので、これらの薬では問題の根本に対処できない」。
ブレーデセン氏のアプローチは、患者一人ひとりを検査して、脳の神経ネットワークに影響を与えているものを正確に見つけ出し、患者一人ひとりに合った治療計画を立てるというものだ。 例えば、ある患者の場合、次のような計画だった。
 

・炭水化物を食べない。
・グルテンや加工食品を使わない。
・野菜、果物、天然魚の摂取比率を高める。
・ストレス解消のためのヨガや瞑想の実践
・毎晩メラトニンを摂取する。
・睡眠時間を4~5時間から7~8時間に延長する。
・ビタミンB12、ビタミンD、コエンザイムQ10(CoQ10)、魚油を毎日摂取する。
・毎日のフロスと電子歯ブラシによる口腔衛生の改善
・ホルモン補充療法
・夕食と朝食の間に12時間以上の断食
・夕食から就寝までの3時間以上の断食
・1日30分以上、週4~6日程度運動をする。

治療プログラムの欠点は、あまりにも複雑で、人々の生活の多くの側面を変えることになるが、ブレーデセン氏は、他の治療法の負の副作用とはまったく対照的に、治療の唯一の「副作用」は健康と肥満度指数の改善であると述べた。

もし、あなたやあなたの家族が認知力を失い始め、認知症やアルツハイマー病であると医師が考えたらどうしたらよいのだろうか? カリフォルニア大学ロサンゼルス校のこのプロジェクトでは、認知症はさまざまな要因で起こるが、その多くは元に戻すことができると考えている。

(翻訳・里見雨禾)