ある研究によって、孤独がアルツハイマー病や他の認知障害と関連があることが明らかになりました。
孤独とは「思いやりや親しみのある付き合いがない状態」の事を言いますが、最近60万人以上のデータを分析した結果、孤独を感じている人は、そうでない人に比べて認知症を発症するリスクが31%高いという事実が示されました。
この研究を発表した『Nature Mental Health』によれば、「孤独は一人でいることや孤立していることとは異なり、たとえ周囲に人がいても、社会的つながりが自分の望む基準に達していなければ、人は孤独を感じるのです」と研究者たちは述べています。
主な発見
研究者たちは過去の21件の研究を分析し、そのうち13件で孤独と認知症リスクの「有意な関連性」が示されました。また、アルツハイマー病を含む複数の認知症との関連も明らかとなりました。
うつ病や社会的孤立は孤独の根本的な原因とされており、孤独は抑うつ症状と強く関連していて、それが認知機能の低下リスクを高めると研究者たちは指摘しています。
「孤独感は、社会活動への関与の減少や人間関係の希薄さとも関係しています。社会的な参加が減ることで、認知的な刺激も減少し、結果として孤独を感じている人がより脆弱になる可能性がある」と記されています。
他の観察研究でも、孤独と認知症の関連が報告されており、今回の文献レビューの動機となりました。たとえば、2022年に『International Psychogeriatrics』に掲載された15年間の追跡調査では、孤独が全認知症リスクを約60%高めることが明らかになりました。
関連性の背後にあるメカニズム
この結果は驚くべきことではないと、今回の研究の責任著者であり、フロリダ州立大学医学部の行動科学助教授であるマルティナ・ルケッティ氏は述べています。
孤独と認知症の関係は、発症時よりもはるか以前から始まっていると彼女は説明します。
「認知症は、臨床的に発症する何十年も前から神経病理的な変化が始まっています。社会的関係への不満、すなわち“孤独”は、認知機能や日常生活の行動に影響を与える可能性がある」とルケッティ氏は述べます。
この研究に関与していないが、コロラド・クリスチャン大学のカウンセリング助教授であり、『The Path Out of Loneliness』の著者でもあるマーク・メイフィールド氏も孤独が認知機能の低下と密接に関係している理由をいくつか挙げています。
- ストレス反応
「慢性的な孤独は長期にわたるストレスを引き起こし、脳の認知機能に影響を与えるホルモンであるコルチゾールのレベルを上昇させます。このような慢性ストレスは、記憶や実行機能に重要な海馬や前頭前野などの部位に炎症や損傷をもたらす可能性がある」と、メイフィールド氏は述べています。
- 社会的刺激
メイフィールド氏によれば、孤独と脳の認知機能低下の関連性のもう一つの理由は、認知のメカニズムは社会的交流によって得られるからだと言います。「孤独はしばしば社会的孤立を引き起こし、こうした交流を奪ってしまう。これらの交流は、精神的な機敏さを保つ上で極めて重要なのです」と彼は述べました。
- うつ病
孤独と認知機能低下との間に見られるもう一つの顕著な関連は、うつ病が挙げられます。この関係は双方向性を持っており、孤独がうつ病を引き起こすこともあれば、うつ病が孤独を招くこともある。この悪循環が認知機能の低下を助長するのです。「孤独によって生じることの多いうつ病は、認知症のリスク因子として知られています。孤独はうつ症状を悪化させ、それが結果的に認知症患者に見られる全体的な認知低下を招く可能性がある」とメイフィールド氏は述べています。
公衆衛生への影響
50万人以上のデータを対象としたこの研究の規模と範囲は、孤独が単なる感情的な問題ではなく、重大な公衆衛生上の課題でもあります。
「この研究は、孤独が単なる感情の問題ではなく、認知症を含む身体的・精神的な重大な結果を伴う公衆衛生上の問題であるという考えに科学的な裏付けをして、初めてこの認識が、人々や介護者に孤独を真剣に受け止め、積極的な対策を講じる動機づけとなる事を希望します」と彼は語っています。
(翻訳編集 日比野真吾)
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