食道がんは「食べ方が原因で起こるがん」とも言われています。普段の食習慣の中に、気づかないうちにリスクを高めてしまう要因があるからです。例えば、お酒の飲みすぎ、熱い飲み物を好むこと、辛いものや刺激の強い食べ物をよく食べることなどが挙げられます。
台湾の奇美医学センター・統合医療科の郭世芳医師は、健康情報番組「Health 1+1」で、食道がんのリスク要因や予防のポイントについて解説しました。
郭医師によると、食道がんは「短命がん」とも呼ばれることがあります。これは、食道の粘膜細胞がダメージを受けることで発症する病気ですが、食道には痛みを感じる神経がほとんどないため、初期の段階では気づきにくいのが特徴です。そのため、症状が出たときにはすでに中期や末期に進行していることが多く、治療が難しくなってしまうのです。
食道がんのリスク要因
郭医師によると、食道がんの発症リスクを大きく高める要因がいくつかあることが分かっています。
1. アルコール(お酒)
アルコールは食道に強いダメージを与えることがあります。特に、食道の粘膜が弱い人や、度数の高いお酒を大量に飲む習慣がある人は、その影響を受けやすいと郭医師は指摘しています。
2014年に発表された研究(複数の研究結果を統合して分析する「メタ分析」)によると、大量にお酒を飲む人は、飲まない人やたまにしか飲まない人と比べて、食道扁平上皮がん(食道の内側を覆う細胞から発生するがん)になるリスクが約5倍高くなることが分かっています。
また、お酒に含まれるアルコール(エタノール)は、肝臓で分解される過程でアセトアルデヒドという有害物質を生み出します。通常、このアセトアルデヒドは「アルデヒド脱水素酵素」という酵素によって無害化されますが、この酵素の働きが弱い体質の人は、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすくなります。この物質が多くなると、肝臓に負担をかけるだけでなく、食道の粘膜を傷つけ、がんのリスクを高めると考えられています。
健康のための一般的なガイドラインでは、1日に摂取するアルコール量は20グラム(約0.71オンス)までが適量とされています。これはビール2本(500ミリリットル×2本)や、度数の高いお酒を少し多めに飲むだけで超えてしまう量なので、飲酒量には注意が必要です。
2. 熱い飲み物
熱い飲み物をよく飲む人は、食道がんのリスクが高まることが研究で明らかになっています。
郭医師によると、60℃以上の熱い飲み物は、食道の細胞を傷つける原因になるそうです。特に、65℃を超えると「熱すぎる」と感じる温度になり、やけどを起こしやすくなります。
こうしたダメージを防ぐために、郭医師は飲み物の温度を40~50℃くらいの「温かい」と感じる程度にするのが理想的だとアドバイスしています。
3. 刺激の強い食べ物
酸っぱいもの、甘いもの、辛いものは、胃酸の分泌を促し、逆流すると食道を傷つける可能性があります。特に辛い食べ物は食道の粘膜を直接刺激し、不快感や炎症を引き起こすことがあります。2022年に発表された研究では、極端に辛い食べ物をよく食べる人は、食道がんのリスクが高まる可能性があると報告されています。
郭医師によると、食道が長期間にわたって胃酸にさらされると、「バレット食道」と呼ばれる状態になり、がんのリスクが上がるといいます。バレット食道と診断された人は、毎年約0.5%の確率で食道がんを発症する可能性があるとされています。
実は、郭医師自身もバレット食道と診断された経験があるそうです。病院で働いていた頃、忙しさのあまりデスクで休憩を取ることが多く、前かがみの姿勢で長時間座ることが習慣になっていたといいます。この姿勢は胃を圧迫し、胃酸の逆流を引き起こしやすくなります。その後、寝るときの姿勢を改善し、食生活を見直し、生活リズムを整えることで、症状を克服したそうです。
4. 発がん性物質
郭医師によると、特定の発がん性物質が食道がんのリスクを高める可能性があるといいます。
特に、「グループ1」に分類される発がん性物質(がんを引き起こすことが確実とされるもの)には、噛みタバコ(ビンロウ)、加工肉、喫煙、大気汚染などが含まれます。
また、「グループ2A」に分類される発がん性物質(発がんの可能性が高いとされるもの)には、食品に含まれるニトロソアミン(発がん性のある化学物質)や、かつて農薬として使われていたDDTなどがあり、これらも食道がんのリスクを高める可能性があると指摘されています。
ニトロソアミンを生成しやすい食品
ニトロソアミンは、亜硝酸塩や硝酸塩がアミノ酸と反応し、高温で加熱されたり、加工されたりする過程で生成される化合物です。発がん性があるとされており、特に次のような食品に含まれることが多いといわれています。
- 加工肉:ベーコン、ソーセージ、ホットドッグ、ハムなどは、防腐剤として亜硝酸塩や硝酸塩が使われることが多い。
- 燻製や塩漬けの魚:スモークサーモンやアンチョビの塩漬けなどは、加工の過程でニトロソアミンが発生することがある。
- 漬物:特に亜硝酸塩を含む保存料が使われた漬物は、ニトロソアミンを生成しやすい。
- ビール:醸造の過程で、一部の成分が反応してニトロソアミンができることがある。
- チーズ:熟成が進んだチーズには、ごく微量のニトロソアミンが含まれていることがある。
DDTに汚染される可能性のある食品
DDTは多くの国で使用が禁止されていますが、環境中に長く残り、一部の食品に残留する可能性があります。特に以下の食品には、DDTが含まれていることがあると指摘されています。
- 脂肪分の多い魚:汚染された海や川で育ったサーモン、マグロ、サバなどは、体内にDDTを蓄積しやすい。
- 乳製品:汚染された飼料や水を摂取した牛から採れた牛乳、バター、チーズには、微量のDDTが含まれる可能性がある。
- 肉類・鶏肉:DDTが残留する土地で育った家畜や、汚染されたエサを食べた動物の脂肪には、DDTが蓄積することがある。
- 輸入された果物や野菜:DDTの使用が完全に禁止されていない国や地域で生産されたものには、DDTが残留している可能性がある。
食道がんの症状と診断
郭医師によると、食道がんの主な症状は「食べ物が飲み込みにくくなること(嚥下障害)」と「体重減少」です。
最初は固形の食べ物が喉を通りにくくなり、進行すると水やお茶のような液体ですら飲み込みづらくなることがあります。食事が十分に取れなくなるため、結果的に体重が減ってしまうことが多いのです。
ただし、「飲み込みにくい」と感じる症状は、食道がん以外の病気が原因で起こることもあります。
- 強皮症や多発性筋炎:これらの自己免疫疾患は、食道の上部にある飲み込むための筋肉に影響を与え、うまく食べ物を飲み込めなくなることがあります。
- 食道炎:例えば、バレット食道の患者は、食道の炎症によって食欲が落ちたり、飲み込みにくさを感じたりすることがあります。
- 神経の病気:脳卒中(特に脳幹に影響を与えるもの)は、飲み込む機能をコントロールする神経に障害を与え、食べ物をうまく飲み込めなくなったり、誤嚥(食べ物や飲み物が誤って気管に入ること)のリスクを高めたりすることがあります。
郭医師によると、食道には「漿膜(しょうまく)」という外側の保護層がないため、がん細胞が気管や血管などの周囲の組織に広がりやすいという特徴があります。これが、食道がんは早期発見がとても重要だとされる理由の一つです。
早期の食道がんなら、「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という体への負担が少ない治療法で、がんを切除することが可能です。しかし、がんが進行すると、抗がん剤治療(化学療法)や、食道の一部を取り除いて再建する外科手術が必要になることが多くなります。
食道がんを見つける最も確実な検査方法は「胃カメラ(上部消化管内視鏡)」です。
胃カメラを使うことで、医師が直接、食道の粘膜の状態を観察し、異常があればその場で組織を採取して(生検)詳しく調べることができます。
もし食道がんと診断された場合は、追加の検査として胸部X線やCTスキャンを行い、がんがリンパ節や他の臓器に広がっていないかを調べ、病期(がんの進行度)を判断します。
食道がんの予防方法
郭医師によると、食生活を改善し、食道の粘膜を守ることで、がんのリスクを下げることができるといいます。特に、オクラ、キャベツ、海藻、昆布などの食品が効果的だと勧めています。
研究では、海藻に含まれる多糖類(ポリサッカライド)が、食道や胃、腸の粘膜を有害物質から守る働きがあることが分かっています。さらに、これらの成分にはがんの増殖を抑えたり、転移を防いだりする効果があり、細胞の増殖や自然死(アポトーシス)をコントロールする働きもあるとされています。
また、粘膜を保護し、ダメージを軽減する効果がある「茶の実油(カメリアオイル)」もおすすめだと郭医師は述べています。ある研究では、ツバキの花の抽出物が食道がん細胞の増殖を抑え、アポトーシス(細胞の自然死)を促す効果があることが確認されており、食道がんの予防につながる可能性が示唆されています。
さらに、漢方では「石斛(せっこく)」や「山薬(さんやく/ナガイモ)」が、粘膜を保護する食材としてよく使われるといいます。
食道がん予防におすすめのレシピ
郭医師は、食道がんの予防に役立つ可能性のあるレシピを2つ紹介しています。
キクラゲ茶
材料
- キクラゲ … 15グラム
- 生姜 … 9グラム
作り方
- キクラゲを水に浸して柔らかくする。
- 鍋にキクラゲと生姜を入れ、しっかり煮込む。
- 煮込んだ材料をミキサーにかけ、なめらかにする。
- ボトルに移し、必要に応じて少しずつ飲む。
ポイント
このお茶は多糖類(ポリサッカライド)が豊富で、粘膜の保護に役立つとされています。作りたてが最も栄養価が高いため、長期間の保存は避け、できるだけ早めに飲み切ることをおすすめします。
八宝粥(はっぽうがゆ)
材料
- 有機大豆 … 100グラム(約3.53オンス)
- 有機トウモロコシ … 100グラム(約3.53オンス)
- 白キクラゲ … 50グラム(約1.76オンス)
- ナツメ(赤棗)… 9個
- しいたけ … 9個
- ハスの実 … 50グラム(約1.76オンス)
- クコの実 … 30グラム(約1.06オンス)
- はちみつ … 10グラム(約0.35オンス)
作り方
- 白キクラゲとしいたけを細かく刻み、熱湯に浸して戻す。
- その他の材料をよく洗う。
- すべての材料を鍋に入れ、弱火でじっくり煮込む。
- とろみがつくまで煮込み、お粥のような状態になったら完成。
- 火を止めてはちみつを加え、よく混ぜる。
- 3等分に分け、毎朝1回食べる。
ポイント
この八宝粥は、免疫力を高め、がん予防のサポートになると考えられています。一部の食材は日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、健康食品店やアジア系スーパーなどで入手可能です。
個人によって適した治療法や予防策は異なるため、具体的な治療計画については医師や専門家に相談することをおすすめします。
(翻訳編集 華山律)
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