ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(その4中編)

2007/06/27 08:00
 【大紀元日本6月27日】博士の自宅は、日本の高級住宅街である田園調布の一角、宝来公園の近辺にある路地裏にあった。あたりの西洋風の豪邸とは裏腹に、それは瀟洒な日本式の家屋、もっとはっきり言えば「つぶれそうな」平屋であった。博士宅に着くと、自宅にあがるように誘われたので、遠慮なくお邪魔することにした。すると、夕暮れになり、そろそろ暗くなりかけてはいるのに、電気は点けているのだろうか、部屋が全般的に暗い。恐らくは節電のためだろう・・・「では、お昼をご馳走になったので、お返しに夕飯をどうぞ・・」と言うので、ご相伴に与ることにした。

 どうも奥さんの姿が見えないが、四畳半位の和室で待っていると、驚いたことに博士が押入れの戸を開けると、そこには惣菜を入れた後のポリ容器が堆く蓄積されていた。「このポリ容器もねぇ・・石油から出来ているんだけど、その資源は日本のものでなくて、中東の油田から汲み出したものなんだ・・だから大事にしないとね・・」と言って、このポリ容器を食器として永代使用しているのだ。日本人から食事のご相伴にあずかるのは始めてだが、ポリ容器に入った玄米飯に胡麻塩が少々、これまたポリの湯のみに入った味噌汁にヌカヅケの漬物、昆布茶という献立だ。なんという、質素さだろう。博士は、奥から糸をやたらに引く豆を持ってきた。それが異様に臭い。香港の「臭豆腐」顔負けの臭さだ。「これは、納豆と言って、とても体にいいんだよ!」。

 先生と、薄暗い部屋で差し向かいに「和食?」を摂っていると、これが意外に滋味であることが分かった。ふと左手に目をやると、先生お手製の霊廟があって、そこに奥さんらしい遺影が飾られていた。まだ若い頃の写真なのか、ほっそりした細面の美人だ。先生はそれに気付いたのか、「家内はねぇ、ちょうどバブルが終わる頃に亡くなったんだ・・・若い頃は、細面の才色兼備の自慢の女房だったんだが・・・ちょうど、日本がバブルに差し掛かる80年代の後半くらいから過食症に罹ってねぇ・・・ついには肥満を拗らせて糖尿病の合併症で死んでしまったんだ・・・」。あたりは、高級住宅街らしく表には車一つ通らない静けさだ。それが、いっそうしんみりとした情感を煽り立てる。

 「先生、気を落とすことはありませんよ・・・人間の出会いと別れは前世の必定だというじゃありませんか・・」、「えっ」という風に先生があっけにとられている。「そういう風に言ってもらえると、何か救われたような気がするよ」。「私はね・・日本の経済と国民の道徳感情との関係を最近研究しているんだが・・・ある論文を纏めているときにね・・国家財政の収入の一部が、それも一流国の証である社会保障の公的財源基金が、政府から外部に不正流用されている事実が分かったんだ。それも、官民癒着のね・・」。そうか、それで大物の人民代表は早めに口封じに出たわけだ・・何か、すべてが一本の糸に繋がっていくように感じた。「先生心配には及びません・・必ず、正義の使者は現れる・・・ではなかったか、大道廃れて、仁義有りというじゃありませんか」。

 私は、先生ととりとめもない心温まる問答をしていたが、ふと先生お手製の霊廟が痛く気になったので、食事を早々に切り上げ、つぶさに観察したくなった。お手製のわりに、さっきから神気紛々として私の腰の辺りにまで触るからだ。先生が「どうぞ」と言うので、じっくり中を覗いてみたが、お手製というあたりがそもそも風水的には、滅茶苦茶な発想なのだが、老学者の頑固な信念のようなものが垣間見えて、これが結構可笑しい。

 日曜大工で作ったような木箱を真っ黒に塗りたくり、中央には手書きの墨書で「日本愛国財神」と札を祭り、その下に奥さんの若い頃の遺影、それに一書の経典が置かれている。手にとって見ると、経典の表紙には、高山寺書「鳥獣戯画」と記されている。中を開けると、それは一大パノラマの風刺画で、腹を抱えて笑ってしまった。「先生、これが先生の経典ですか??」「なにを言ってるんだ、張君!その経典をあらわした方こそ天才だよ!それこそが日本最高の経典だ・・」。私は腹を抱えながら、改めてこの国民は正直だと思った。しかしながら・・・うん!?何かを得心した私は、とりあえずこの手製霊廟が代表する世界に行ってみることにした。

 その神は、暗い世界にまた真っ黒な様子でじっとして動かないでいた。まるで淮南子に出てくる混沌のようだ。何も言わないので、こちらから問い掛けた。「おい!あんたが日本の財神なのか!」・・・何も返答がない。こちらが質問しているのに、何も答えないとは少々失礼な神だ。とりあえず、如意棒で小突いて様子を見ようと思った。すると、にわかに玉帝の金冠がコメカミを締め付ける「イタ・・イタタタ・・・」何かが、おかしい。すると、この真っ黒な神の後ろに女神が一体いるのが見える。それは、何か非常に膨張して苦しそうであった。私が「あなたは誰ですか?」と問うと、小さな声で微かに「護美姫」と答えるのが聞こえた。

 ゴミを司る女神は、世界各国にいる。それは、大地の母神の化身であり、それは痩身の美人であるはずだ。それが、なぜ日本の「護美姫」だけ、このように肥満して苦しそうなのか?私が察するに、これら夫婦の神は正神だ。国民が、自分の徳分を弁えず、せっせと現世利益を財神に祈るものだから、真面目なこの神は、その罪業の一部を負担していたのだ。それで、繁栄したのをいいことに、脳天気な国民が贅沢なゴミを出しまくるものだから、それを司る女神が疲弊してしまったのだ。私は、中国道統の秘術「願戻し」を掛けて、これらの神々を縛るものを解いてやった。すると、二柱とも若返り元気を取り戻した。私は、一度抜いた剣を鞘に戻し、中国神界の礼である「ユウ」をしてその場を立ち去った。

 ふと気がつくと、まだ先生宅の茶の間だ。先生は、目を細めながらブラウン管に映る経済ニュースを見ている。「・・・鯉角首相と藪中蔵相は、不良債権処理に着手する経済の構造改革に乗り出し、銀行の再編のため公的資金注入を・・・」というテロップが流れている。「・・・ああ、やっと来るべきものが来たようだ。・・・もっと早くに着手しておけば、傷も浅かったのにな・・国民は苦労するだろうが、いい薬だよ・・国の魂、国民の魂にとってはね・・これで、傲慢な贅沢病が治れば安いもんさ・・この国民にはまだまだ戦う気力が残っているのだから・・」と先生は呟いた。

(続く)

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