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サブプライムローン問題の原因

文・江川啓一

 【大紀元日本11月23日】米国のサブプライム問題が表面化し世界中で大手銀行、証券会社や保険会社が巨額の損失を発表、各国中央銀行が連携して巨額の資金供給を行っている。この問題は既に著名なエコノミストや学者達が色々意見を述べ新聞はもとより各種の経済雑誌にも掲載されているが誰がファイナルリスクを取っているのか今一つ判然とせず市場の混乱が続いている。マネーセンターの株式市場は一様に悪影響を受け未だ回復の見通しも立っていないようだ。ABCP(アセットバックCP)とかSIV(投資ビークル)の専門用語が紙面を賑わし素人には理解出来ない情報も少なくない。

 然しながら、率直なところ今回の騒動の原因であるサブプライムローンとは、要するに銀行が本来のターゲットを拡大し、従来の住宅ローンに較べ比較的信用力に劣る階層に住宅ローンを供給し債権を証券化して販売したことが真の原因である。サブプライム問題の専門的或いは金融技術問題は斯界の専門家達が種々解説しているので敢えて触れないが、その一方で最も基本的な問題については案外なおざりにされているように思われるので一言したい。

 元々、米国の銀行は企業融資を主力業務としていたが、企業側の自己資本が充実し更に企業の直接金融が盛んになった結果、個人向けの比重を高め住宅ローンを中心とする消費者金融に活路を見出した歴史がある。その結果、住宅金融の分野でも各種金融機関の競争が激化し融資方法も次第に住宅を担保とするが、融資が焦げ付いた場合にも借手は担保不動産を失うものの担保処分により不足が出てもwithout recourse(遡求排除)、つまり貸手の負担となり、借手に遡求しない契約が主流となった。この点、日本では未だにそうではない。良し悪しは別として日本の銀行がそのような手法の導入にはスクラムを組んで対抗したのが実態である。借手から見ると旧大蔵省による護送船団方式による銀行保護の負の面だったかも知れないが。当然の事ながら日本の銀行と較べても競争の激しかった米銀は、企業向けにレボルビングクレジットや、期日一梶耿済融資、融資残高のかなりの部分のバルーンペイメント方式、金利のキャップローン(変動金利ながら上限や下限を設ける融資)、アカウントレシーバブルファイナンスつまり受取債権担保融資、更にはRUF、NIF等々、枚挙に暇ない程、次々と新しい金融手法を編み出したのである。その中には借手のニーズに見事にマッチし市場に定着した手法もあれば、いつのまにか下火になったものもある。この現象は製造企業において消費者に好まれる商品が伸び、消費者に嫌われる商品が長続きしないのと同じである。金融のハイテク化と言われる手法例えばデリバティブ等はその典型であろう。金融の手法が着実に進化し多様化するのは寧ろ自然ではあるが問題は融資の基本にどこまで忠実であるか否かにある。一例を挙げると受取債権担保融資やファクタリングは日本でも大昔の高利貸が試みはしたもののとても採算に合わぬとしてとっくに断念した手法であった。それが偶々英語でアカウントレシーバブルファイナンスと呼ばれ恰も新分野の如く錯覚され持て囃されたに過ぎない。要はリスク評価の問題である。古来日本では不動産担保融資であれば掛目は6割と言うのが相場であった。その理由は、いざ担保を処分して貸金を回収する事態になれば処分に時間を要し、その間の利息や経費或いは対象物件の値下がりの危険まで含めると、掛目の6割以上を貸すと最終的に損を蒙るという暗黙の経験則があったのである。勿論、担保の種類によっては掛目も異なる。私事にわたるが筆者が米国勤務中、牛肉の卸売業者への融資を引き次いだところ驚いたことに担保掛目が90%になっていた。前任者に尋ねると牛肉は米国人の主食であり日本の米に相当し取漏れがなく90%の掛目で十分との回答であった。米屋の倒産率の高さを知っていただけに仰天し直ちに定評のあるオマハのミートバンカー達に照会すると案の定グリーンミートつまり生肉担保融資の掛け目は25%という。生鮮食品であり何等かの理由で冷凍庫の電源が切られると一日で無価値になるからとの説明であった。これは飽く迄極端な例ではあるが、サブプライムローンというのは本来優遇レートで借入可能な階層から融資先を比較的信用力の劣る階層に広げた結果、通常よりハイリターンになるがハイリスクを看過した結果として発生した事態に過ぎない。まして、担保と為る不動産の価値が上昇する傾向にあった結果、上昇分の半分程度を目処に追加融資をしたり、全額の借換えをしたりするのを奨励すれば結果として困った事態になるのは寧ろ当然であろう。そこに証券化だとか専用のSPC等をからませた結果、バルクで取引が行われ如何にも先進的手法のように見える反面、本来の地道な信用調査を怠りレーティング機関のレーティング評価に頼り、いわば抽象的予想に基づく返済に依存した結果生じた不祥事である。金融の世界とて他業種と同様に労せずして甘みのある商売はないし仮に甘みがあったとしても長続きする保証はない。

 米国の場合、1960年代には2万行を越える金融機関があったが、その後淘汰が進み銀行と証券会社の障壁も低くなり持株会社や州を越えての展開が進んだが、大体10数年を周期にして大きな問題が発生している。1970年代当初にはREITが不良債権の代名詞になり1980年代半ばから後半にはS&Lが米国経済の足を引っ張った。当時、カリフォルニアの日系銀行にまで東海岸や中西部のS&Lから融資の話があり何れも好採算の話ではあったが、何故

 地元の銀行から融資を受けないのか不審に思い全て却下した記憶がある。ことが融資に関する限り国や時代や環境に違いがあっても基本が大切であることに変わりはない。勿論,銀行や証券会社とて利益追求が大切であり、競争相手に対し無作為であれば経営陣が無作為の責任を問われるのは必至であるが、今回はリターンとリスクの評価にねじれを生じたことが躓きの最大の原因である。大昔、オランダのチューリップやルイジアナの土地が投資対象となり悲惨な結末になったのも同類であろう。幸い現代は各国の中央銀行が緊密に連携する時代であり世界的大恐慌を触発する事もなかろうが各国大手銀行はもとより証券、生損保から個人投資家に至るまでかなり苦い教訓になったのではなかろうか。

 (07/11/23 11:07)  





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