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『上海の長い夜』(Life and Death in Shanghai)鄭念(VOA/燕青)

ベストセラー『上海の長い夜』の著者・鄭念氏を偲ぶ

 【大紀元日本11月15日】1980年代の半ばにアメリカでベストセラーとなり、日本でも翻訳出版された『上海の長い夜』(Life and Death in Shanghai)の著者・鄭念(Nien Cheng,ズェン・ニェン)氏が今月2日、ワシントンで死去した。享年94歳。

 『上海の長い夜』は、中国の文化大革命を体験した著者の回想録。1966年8月、文化大革命の嵐が51歳の著者を襲った。 紅衛兵に踏み込まれ、1カ月後、反革命分子として独房に6年半幽閉された。シェル石油上海支店の元スタッフの偽証により、英国スパイの嫌疑をかけられたが、不屈の精神で迫害に耐え、つくられた罪の告白を拒絶する。最も悲惨なのは、著者の唯一の娘がその事により迫害され死亡したことである。人間の真の強さを伝えたこの本は、1986年アメリカで出版されて以来、大きな反響を呼んだ。著者の語る人間の尊厳と崇高な魂に読者は深く感動を覚えざるを得ない、珠玉の長編ヒューマン・ドキュメント。

 著者の鄭念氏は1980年にカナダに移住、その後アメリカに移り住んだ。アメリカにいる友人、著名な作家や学者達が彼女の死を偲び、彼女の著書を高く評価した。

 以下は彼らの著書に対しての評価を記述。

 「貴重な作品」

 
『中国著名な作家・蘇暁康氏(写真=本人提供)

中国の著名な作家で1989年民主化運動以降、アメリカに移住した蘇暁康氏(スー・ショウカン)は、『上海の長い夜』を「貴重な作品」と評価した。「この本は欧米の人々に中国の文化大革命の真実を認識してもらうための貴重な作品だ。中国のあの時代について、欧米の人々が興味深く読み、理解し、さらに感銘を覚えることのできる作品はこの作品以外、ほとんどないといっていい」と語った。

 

 「翻弄された悲しき物語」

 
鄭念氏生前の住居(Amelia L. Zhao)

著名な歴史学者、クルーゲ賞(Kluge Prize)受賞者の余英時教授は本が出版された後に、鄭念氏を講演に招いた時のことを語った。

 当時余教授が在任していたプリンストン大学の近くに読書クラブがあり、クラブメンバーが講演を頼みたいと、余教授夫人を通して依頼したら、鄭氏はワシントンに住んでいたにも関わらず、すぐ応じたという。アメリカの一般の聴講者に、彼女は自分の本、自分の物語、そして中国の文化大革命について語った。

 「彼女の翻弄された悲しき人生の物語に、その場にいた人たちは皆涙を流した」と余教授は語った。

 鄭念氏は1915年に北京で生まれ、本名は姚念諼(ヨー・ニェンユェン)。燕京大学(現北京大学)卒業後、英国のLondon School of Economics(LSE)に留学し、そこで鄭姓の留学生と知り合い結婚した。後に、当時の中華民国に帰国して、夫が外交官となり、さらに、1949年にシェル(Shell)石油の上海総支配人になったが、1957年にがんでなくなった。

 二人の唯一のひとり娘である、梅平(メィピン)氏が1942年オーストラリアで生まれ、後に両親と一緒に中国に戻った。

 シェル石油との関係で、文化大革命の時、スパイ嫌疑が鄭念氏にかけられた。家中が荒らされ、娘との会話も禁止された。文化大革命が過熱してから、娘の梅平氏が拘束され、さらに、1966年9月に鄭念氏も拘束された。その後、親子は音信不通になった。

 1973年、やっと自由の身になった鄭念氏に、残酷にも最愛の娘がすでに死亡しているとの知らせが待っていた。

 娘の梅平氏の死因は未だに不明であるが、牢獄による迫害死であると鄭念氏は断言する。

 「天安門事件で命を落とした学生達の母親も同じ思い」

 「愛する娘の死、娘への思いは鄭念氏が筆を執った最大の理由だった」と余教授は言う。「彼女は自分が受けた不条理な嫌疑、過酷な投獄生活、肉体的、精神的に受けた打撃、迫害には強靭な精神力で戦った。しかし、娘の死が彼女に与えた悲しみは計り知れず、その後の彼女の人生は娘のために生きたといっても過言ではない。この本も娘が永遠に生きるために書いたもので、彼女は本の中で国とか民族についての大きな話はしていない。ただ、自分の家族が中国共産党の文化大革命により陥れられた深い悲しみを書いたものであるが、この悲しみは、1989年の天安門事件で命を落とした学生達の母親も同様であり、永遠に忘れ去ることは出来ないであろう」

 「悲劇を繰り返させない」

 今の中国の共産党政権は人々に文化大革命を忘れさせようとしているが、鄭念氏の本はその歴史を永遠なものにしたと余教授が話した。

 「鄭念氏は自らの力の限り、中国人が忘れ去ってはいけない重大な事実を記することに挑戦した。一つの民族が自分の歴史を忘れたら、未来はないと彼女は知っているからだ。自分の悲劇、娘の悲劇を繰り返させないという彼女の強い精神力には敬服する」と蘇暁康氏は述べた。

 「自分自身を持ち信念を貫く人」

 余教授夫妻が2007年に鄭氏の住むワシントンにある自宅で彼女と会ったのが最後だったという。既に90歳を超えた鄭氏は依然として自分自身を強く持った人柄であったと余教授は話した。

 「彼女はいつも自分で車を運転し、買い物に行った。私達が2005年に行った時も、彼女は自分の運転する車で私達をレストランに連れて行った。彼女はしっかりとしていて優れた人格と強い意志を兼ね備えており、中国共産党が彼女に示した待遇などにも妥協したりなどはしなかった。鄭さんのような自分の信念を貫く強さを中国人が持っていれば、まず、中国共産党は誕生しないし、たとえ誕生しても長続きはしないだろう。しかし、中国には自分の信念を押し曲げて生きている人のほうが圧倒的に多い。それは中国の悲劇でもある」と余教授が述べた。

 「抵抗文学の象徴」

 ワシントンポスト紙(The Washington Post)の有名なコラムニストである、チャールズ・クラサマー(Charles Krauthammer)氏が鄭念氏がなくなった日に、『上海の長い夜』を「抵抗文学の象徴」であると評した。

 クラサマー氏は文章の最後に、「人間は『使命』を持って生きる必要があり、鄭氏はよくこの事に言及した」と述べた。「彼女にとっての『使命』は、心理的、精神的に『悪』に負けることなく、歴史の生き証人として、大きな悲しみを抱えながらも、勇敢に、そして、気高く生き続けることだった」と高く評価した。

(翻訳編集・心明)



[中国語版又は英語版]:おすすめ記事

 (09/11/15 08:17)  





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