法輪功迫害 北京の余文生弁護士

人権派弁護士の壮絶な獄中体験 死線を超えてたどり着いた境地(2)​

2016/10/23
更新: 2016/10/23

この記事は、人権派弁護士の壮絶な獄中体験 死線を超えてたどり着いた境地(1)​のつづきです。


道徳の最低ライン死守 永遠の奴隷の道から

警察から尋問を受ける余氏は、弁護士依頼をしないなどの虚偽の声明文への署名を強制された。「早期釈放のため」と妥協して署名をした。さらに「ほかの人のこと(余氏の同僚や知人の不穏な言動)を告発しろ」と迫られた。

これを拒否したが、警察は「誰かが罪を犯したと『嘘』を告発しろ」と言った。余氏は拒否した。これは道徳の「最低ライン」だと感じていた。

警察は余氏に、『嘘』の告発をしなければ尋問は終わらないと脅した。だが余氏は、嘘をつけば釈放がさらに延期されると分かっていた。話せば話すほど、出所の可能性が下がるのは明白だった。

「彼らは最初の目的に達したと思ったら、次の段階に移る。永遠に精神的な奴隷としてしまおうと画策しているからだ」。

中国の牢獄では、譲歩では、自分を守ることはできないのだと同氏は語っている。「譲歩することで自分の立場がさらに受け身になるだけだからだ。ただ戦い続けるしか、生き残る道はない。これが、私がその後も戦い続けている理由だ。私が今いる場所も、戦い続けてきた結果なのだ」。

余氏が拘束されている間、妻の許艶さんは8人もの弁護士に同氏の弁護を依頼し、夫を救うために奔走していた。許さんの献身に対し余氏は、「当局からの圧力にも、妻は決して屈しなかった。妻に出会えたことは私の人生で最も幸せなことだ」と語っている。

「共産党が民主化歩むことは不可能」

この獄中体験は、余氏に計り知れないほどの影響を与えた。同氏は以前、共産党は良い方向へ変わり得ると認識していたが、今ではそうは思えなくなっていると語る。共産党が民主化への道を歩むことは不可能であり、専制政治を強化するしかできないだろうと考えている。また、同氏の人生観も、それまでと全く違ったものに変貌した。

「死刑囚の監房での経験は、私の死生観を一変させた。生死にとらわれなくなったのだ。さまざまな考えを超越したことで、今の私は物事を成すときに死ぬことを恐れなくなった」。

釈放されてから、余氏は、最高検察院や最高法院(最高裁判所)といった司法部門に対し、北京大興公安分局などが犯した違反行為を告訴し、警察の責任を追及するよう要求している。

「私は法に従う立場の人間だ。法に触れない限り、私は妥協しない。法輪功学習者への弁護でも、その姿勢は変わらない。法輪功がカルトであるなどと、一体どの法律に明記してあるというのか」。

余氏は、法輪功にカルトのレッテルを張るためにねつ造された事件「天安門事件焼身自殺事件」に及ぶと、同氏は「当局が法輪功学習者への弾圧を開始した時、政府のことが信じられなくなった。あの焼身自殺事件は、すぐにねつ造だと分かった。わずかな常識さえあれば、焼身自殺をしたなどということは、でっちあげだと見抜くことができるはずだ。」と、当局のねつ造を笑い飛ばした。

政府による弾圧政策が始まって間もなく、余氏は司法局から「法輪功学習者のための無罪弁護をしないように」と通知を受けた。その後「中国人権弁護士団」に加入した余氏は、たくさんの弁護士が法輪功に関わる案件の弁護を引き受けていることを知った。そして同氏も、学習者の無罪弁護を引き受けるようになった。

14年、余氏は河北省三河市で開廷した法輪功関連の裁判で、学習者の弁護団に参加した。これ以降、余氏は法輪功関連の依頼を含む、さまざまな人権関連の裁判に継続的に関わるようになる

16年9月13日、法輪功学習者の周向陽氏と李珊珊氏を被告とする裁判が、天津市東麗裁判所で開廷した。周氏の母親である王紹平さんからの依頼を受け、余氏は弁護団の一員として同法廷で弁護に立った。

余氏の輪功学習者に対する弾圧政策に関する弁論は高く評価され、中国の人権派弁護士の間からも、大きな反響があったという。その後、7~8人の弁護士から、弁論の原稿がほしいと依頼を受けるようになった。

余氏は法廷で、法について次のように述べている。

「99年から今に至るまでの迫害は、10年間の災いをもたらした文化大革命の時と同じように、事実や法律をないがしろにした政治的な迫害だ。これは当時の国家主席(江沢民)が法輪功にレッテルを張り、法を無視して独断で決定したことだ」。

「中国の法律のどこを見ても、国家元首や最高法院に、ある組織が邪教かどうかを認定する権限があるなどとは書かれていない。そのため、江沢民であろうが最高法院からの通知であろうが、いずれも合法性は皆無だ」。

「法輪功への弾圧政策が間違っているということは火を見るよりも明らかだ。長期にわたり広範囲に深い苦痛や痛手を負わせ、善良無辜(むこ)の人々に計り知れない苦しみを与え続けている」。

「17年もの間不当に扱われ辛酸をなめてきたにもかかわらず、その中で法輪功学習者が真の自己実現を成し遂げたことは、世界から受け入れられている。この間、彼らは暴動や騒乱、報復行為といった破壊活動を、一度たりとも起こしていない。中国全土の法輪功学習者は、どんなに迫害されても、暴力や非合法的な手段によって無実を訴えたり、雪辱を晴らしたりしたことはない」。

裁判の後、余氏はこのように語っている。

「迫害から17年、法輪功学習者はいばらの道を歩んできた。殺害されたり、障害を負ったりするなど、一千万人近くが受難に遭っている。弁護団は可能な限り彼らを弁護し、彼らに対する迫害が少しでも減るように働かなければならない。それは、正義を貫くためでもある」。

そして最後に同氏は、「私自身は法輪功学習者ではないが、彼らと接する中で、中国の伝統的な美徳が彼らの言動を通して具現化されているように感じている。他の人なら途中で挫折してしまうようなことであっても、私は自分が正しいと思ったことは、これからもずっとやり続け、最後までやり通す人間だ」と、自らの矜持を語った。

(おわり)

(翻訳編集・島津彰浩)

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