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【物語】素朴な愛の表現

 【大紀元日本7月15日】冬のある日、私は長沙駅の待合室で列車を待っていた。発車の2時間前だった。向かいのベンチには年齢不詳の夫婦が座っていた。男は肌が黒く、髪の毛がボサボサで、ガッチリした体格だった。里帰りする出稼ぎ労働者に違いない。女はショートヘアーの丸顔で、赤ん坊を抱っこし、お乳をやっていた。恐らく2人はまだ若いのだろうが、2人の顔には年齢とつりあわない老衰と疲れが刻まれていた。

 一日ご飯を食べていなかった私は、バッグから果物やパン、ソーセージを取り出して食べ始めた。すると、向かいの男が私をしばしば見るようになり、私が見返すと、男はへへっと微笑んだ。そうこうしているうちに、男はいつの間にか立ち上がり、姿を消した。私が食事を終えたころ、彼は戻ってきた。そして、熱々の焼き芋を一つ女に差し出し、赤ん坊を替わりに抱っこした。

 女はちょっと驚いた様子で、顔をすこし赤らめた。おそらく、ふだん倹約している彼にとって、この焼き芋は大盤振る舞いだったのだろう。女はすぐに芋を食べ始めた。お腹が空いていたのだろう。とても幸せそうに、脇目も振らずにもぐもぐと食べている。彼女の青白く痩せた顔には、血の気がほとんどない。半分食べたところで、女はふと何かを思い出したように、男に「あなたも食べて。私はもうお腹がいっぱいだから」と言った。

 男は、「いいよ、お前が食べろよ」。

 女は、「あなた、まだ食べていないでしょう。くちびるがかさかさよ」。

 2人は譲り合って、どちらも食べようとしない。男はごくりと唾を呑み込みながらも、女に食べさせようとしていた。結局、女は残りの焼き芋を無理やり男の手に押し込んだ。

 男は食べた。食べ終わると、再び赤ん坊を抱っこし、丸くなってお互いに暖めあっていた。

 目の前の彼らを見て、言葉では言い表わせない切ない気持ちが湧き上がり、同時に朦朧とした感動を覚えた。

 一つの焼き芋がすべてを包み込んだ。ロマンチックでもなく、情緒もない。しかし、互いに気遣い合い、貧しいながらも寒風の中で、互いに頼って寄り添っている。

 おそらく、彼女はバラが何物かを知らないだろう。魅力を磨くなどということも知らないだろう。しかし、彼女が男を愛する方法は素朴で現実的だ。寒いときには、服を一枚多めに着せてあげ、お腹が空いたら、腹いっぱい食べさせてあげる。仕事に出かける時には「気をつけてね」と気遣う。これしかない。

 恐らく男も同じだろう。一生、自分の女に甘い言葉など言えない。ロマンチックな表現もできない。バラを贈り、熱いキスを捧げることも知らない。できるのは、自分が空腹のときにも、ただ一つの焼き芋を最愛の彼女に譲ることだ。

 彼らの姿から、私は本物の愛を感じた。本当の愛は魂に住み着き、骨髄に染み入るものだ。永遠の愛の誓いなど要らない。

 大都会でバラで女性を喜ばせる愛情表現が、むなしく浮いた華やかさに思えた。

(龔小平)

 (06/07/15 20:00)  





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