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【物語】消えた憎しみ

文・陸勇強

 【大紀元日本8月28日】瓊(ケイ)はその人(良)を憎んでいる。5歳の息子にも「あの人のことを決して忘れてはだめよ。あの人は私たちの仇なの」と言った。良のせいで瓊は夫を失い、5歳の息子は父親を失った。

 実は、良には罪がない。彼は正当防衛で瓊の夫を殺してしまったのだ。

 良は無罪の判決を受けて以来、まるで別人のように変わった。酒もタバコもやめ、敬虔で誠実なキリスト教徒になった。良は瓊のところにやってきて、自分を許して欲しい、子供の教育費も出させて欲しいと言った。

 瓊は良を見ると狂ったように、彼をたたき、殺人犯と罵り、きっと報いを受けるに違いない、自分も息子もあなたを死ぬまで憎み続けると叫んだ。良はただ黙っているしかなかった。

 瓊はただひたすら、息子の学費や自分たちの三食のために必死に働いた。これが彼女の生活のすべてであった。

 瓊の息子は学校で援助対象生徒ということになり、毎月100元の援助金を受けられるようになった。この金額は彼女にとって結構な額である。送金してくれる人の住所からその人は町の人であることが分った。

 10回目にお金を受け取ったとき、ぜひこの送金者に会って感謝したいと思った。しかし、この人がいったい誰なのか分からない。町へ調べに行ったが、住所も名前も本物ではなかった。

 お金は毎月期日通りに届いた。これが5年も続いた。全部で6000元。子供も中学校を終え、高校に上がった。

 この事が当地のメディアに注目された。自分の名前を隠して1人の学生を5年間も援助するというのは、格好の新聞記事になる。

 新聞記者がやっとのことでこの援助者を探し出したところ、なんと顔のやつれた野菜売りの農婦であった!

 記者が農婦に、どうして生徒を援助しているのかと尋ねても、農婦は答えてくれない。記者が何度も何度も説得した末、彼女はやっと訳を話してくれた。「私は援助者ではありません。夫の罪を償うためなんです。夫は正当防衛でその子の父親を殺してしまいました。そのため、夫はずっと憂鬱で、しばらくして病死しました。死ぬ間際に、自分の代わりに罪を償って欲しいと私に遺言を残したんです」。

 記者が、「あなたはどうやって毎月100元も出せるんですか」と彼女に聞くと、農婦は「農作業を覚えたので、収穫した野菜を町で売って、月に200元稼げます」と答え、「あの子を大学まで援助したいので、彼らには絶対知らせないでください」と記者に頼んだ。

 瓊は、援助金の出所が当時の『仇』だと知った。しかもそれは、自分と同じように不幸な女が野菜を売って稼いでいたのだった。瓊は彼女に会おうと思った。

 瓊は息子を連れて悲しい思い出の村にやってきた。農婦は彼らが来たのを見て、「がくん」とひざまずいた。瓊と息子はすぐ彼女の前に駆けより、彼女を起こそうとした。農婦は「夫に代わってお詫びします」と言った。

 瓊は泣いた。『仇』のボロボロの家と、野菜を売って息子の学費を援助してくれていたこの痩せた女を見て、大声で「お姉さん」と呼んでひざまずいた。瓊は農婦のざらざらの手を取ると、涙が湧き出てきた。

 瓊の憎しみはとっくに消えていた。瓊は農婦の手を取り、「どうやってあなたに恩返したらいいでしょうか」と言いながら、息子にも農婦の前にひざまずかせた。瓊の息子は、「これからは僕がお金を稼いで、お母さんとおばさんを養います」と言った。二人の女はそれを聞いて、抱きあって泣いた。

 (06/08/29 08:00)  





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