安倍政権はなぜ敗れたか(後編)

2007/08/17 08:12
 【大紀元日本8月16日】

 対中国外交は明らかに失敗しつつある

  安倍首相を批判する左派・進歩派の声には、安倍首相が戦前回帰思考を持ち中国、韓国らとの関係が悪化することを不安に思うものが多い。しかし、これは、現実は全く逆である。実は、小泉内閣に比して、安倍内閣は中国に対し極めて融和的であり、韓国に対しても同様である。北朝鮮に対しての経済制裁は、これは自国民が拉致されているのであり、当然過ぎる措置である。

  現時点で、安倍内閣は8月15日の靖国参拝は閣僚は全て行わないと言う意志を表明している。しかも、その理由は公式に明言されたわけではないが、選挙の敗北による政権地盤の弱体化と、中韓両国への配慮であることは明らかだ。各大臣が、自らの政治信念として靖国に参拝しないのならばそれは一つの姿勢だが、この様な外的用件で参拝を全員で停止するというのは、「戦後レジーム」を乗り越えると主張してきた安倍内閣の従来の主張を完全に裏切るものである。しかし、この姿勢は実はほぼ予想できることだった。昨年10月、安倍首相は訪中、胡錦涛主席と会見し、日中が戦略的互恵関係にあることを確認、さらには環境、省エネ分野での経済協力を約束した。小泉時代に冷え切った日中関係の改善が、安倍内閣の最初の外交行動だったのである。首相就任以前から安部氏は、テレビでの質問に対し、対北朝鮮外交では強硬姿勢を貫いてはいたが、中国との関係に関しては、明確に「私は中国の要人の方が日本でお会いしたいという報告を受けた場合は、できるだけ時間を作って合うことにしています」と語っている(テレビ朝日などでの発言)。これは勿論、日本側の意見を明確に伝えて誤解の無い関係を作りたいと言う意志と好意的にとることもできたが、就任以後の安倍外交は、中国の問題点に対峙しようとする姿勢は殆ど観られない。今年6月の温家宝首相来日時は、さらに環境問題や省エネなどでの日本の技術・経済協力が高らかに謳いあげられた。勿論、中国の環境問題は深刻であり、それに日本が優れた公害防止の科学技術を導入すること自体は正しい。しかし、そのためにまず必要なのは、中国政府の側が現在の軍拡体制を是正し、尖閣諸島、ガス田などの問題で日本と和解のテーブルにつくこと、同時に台湾に対する無用な軍事的恫喝を停止することなどを通じて、まず友好関係の具体的構築と、軍備にかける資金を自国内の環境対策に回す事が前提となるべきである。そうでなければ再び、「技術と支援」のみを手中に収めた軍拡中国と対峙し続けなければならないという日本の状況は何も変わらないのではないか。

  このような経済・技術支援最優先、日中関係をできるだけ刺激しない外交は、明らかに安倍首相が頼みとする経団連的自民党支援組織の要請によるものである。靖国参拝、歴史問題での日中関係悪化に対し最も抵抗したのは決して従来の左派勢力ではなく、むしろ中国との経済交流を邪魔されると見た奥田前経団連会長、北城経済同友会会長を初めとする

 経済関係のグループだった。現在、彼らのイデオロギー的代弁者となっているのは読売新聞の渡辺恒雄氏であり、彼は自ら親中派、トウ小平以降の経済改革路線の崇拝者であることを認めている。渡辺氏は単なる財界利益だけではなく、彼なりの信念を語っているだけ上記の財界人よりは正直と言えるだろう。安倍首相はこの路線を公的に支持しているわけではないが、現実の外交は彼らの路線の範囲を出るものではない。

  繰り返すが、日中の経済交流や環境改善技術の支援そのものが悪いのではない。それのみが外交的目的となり、現実の中国の政治体制を安易に肯定していけば、一方では利権構造、他方では中国共産党の独裁体制や人民抑圧を日本政府が承認していくことに繋がりかねないのだ。

 中国政府の人権抑圧に殆ど無批判な安倍外交は、対北朝鮮包囲網の構築にも失敗しつつある

  6カ国協議は長期的にはともかく、短期的には北朝鮮のペースで進んでいる。これをアメリカの裏切り(対北融和策への変貌)と攻めても所詮は自己満足に過ぎない。安倍外交が北朝鮮に対する経済制裁に踏み切ったことは正しいのだが、それ以降、日本の頭越しの米朝接近や中国の外交戦略に有効に対応できなかったことが問題なのだ。

  これには様々な原因が考えられる。何よりも、国際社会で武力なき外交はやはり無力であったと言う現実を突きつけられた感があるが、日本外交が憲法9条の制約下にあることは当初から判っていたことである。その前提の上で、日本政府は北朝鮮の広範囲な人権問題、そして中朝国境をさ迷う脱北者(北朝鮮難民)の存在を、6カ国協議で、またその他様々な国際機関で堂々と打ち出し、拉致問題だけではなく北朝鮮の全体主義体制が諸悪の根源であることを実例や証言とともに示すべきだった。北朝鮮国内の凄惨な人権侵害の問題はもとより、脱北者問題は彼らを難民として保護せず、不当逮捕して強制送還している中国政府の責任による所が大である。しかも、脱北者の中には、北朝鮮帰国運動で朝鮮人と結婚して北朝鮮に渡った日本人妻とその子ども達のように、明らかに日本国籍者の方も含まれているのだ(日本政府は中国政府との粘り強い交渉により、既に何年も前から、帰国運動で北朝鮮に渡った元在日朝鮮人、そして日本人妻、その子孫などを百数十名日本に受け入れている)。日本政府は、中国の脱北者への不当逮捕や北朝鮮への強制送還(そこでは強制労働や拷問が待ち受けている)に、日本国民の保護と言う観点からももっと抗議する権利を有するはずだ。

  そして、脱北者問題を通じて、日本政府はさらに6カ国協議の範疇を超え、ダルフールの虐殺問題、そして新疆ウイグル、チベット、さらには法輪功を初めとする様々な中国政府の弾圧政策に対し、北京オリンピックへの不参加、経済交流の人道的観点からの縮小をもほのめかす政治的勇気を持つべきである。実際にこの二つを実施しなくても、それをほのめかすだけで政治的な大きな効果を中国にもたらすだろう。そのとき、中国は初めて、日本の持ち出す取引(例えば北朝鮮に中国が実質的な圧力をかけて拉致被害者救出に真剣に協力するなど)に載ってくるはずだ。それまでは何を言っても、リップサービスやポーズ以外に中国政府は自国の損になるようなことはしない。現在の改革解放中国は、逆に言えば、徹底した唯物・唯金論国家である。毛沢東と文化大革命時代を経て、全ての政治思想の欺瞞と残虐さを知りつくり、同時に伝統文化や道徳・公共心を破壊した中国に残った唯一の思想が拝金主義だ。今、中国の政治体制や人権問題を無視して経済協力をすることは、この拝金主義と手を結ぶだけであり、真の日中両国民の理解や友好には繋がらない。

  そして、この中国にも、僅かではあるが、拝金主義を超えた新たな価値観を探している人々、腐敗した官僚機構を改革しようと苦闘している人々、古来中国が美徳としてきた相互扶助組織の再構築や親族結合の復活(中国ではこれはしばしば秘密結社的装いを伴うが、これは時の政治権力とは全く違う民衆のネットワークを築き上げようとする営みである)を実践している人々は存在する。ここに日本外交が注目するとき、おそらく真の日中友好の芽が息吹くはずである。安倍首相が真に「どんなに多忙でも話を聞く」相手は、この様な勢力で本来あるはずなのだ。

 安倍首相に再生の機会はあるか?

  現在の所、安倍内閣がどのような改造が行われようと、この政権の再生は困難な道程を歩むことになることを避けられないだろう。しかし、この危機をむしろ逆手に取り、安倍首相が内政、外交ともに真の安倍カラーを打ち出すことができれば、事態の打開は決して不可能ではない。内政では小泉改革の成果をおさえつつも、格差是正や地方財政再建に思い切った手を打ち出すこと(この点、小沢一郎氏が具体策はなくとも、地方をこまめに回って生活者救済を訴えたのは選挙戦術としては全く正しかった)外交においては自由と人権、民主主義をテーマに中国、北朝鮮に対し明確に対峙し、中国に対しては北京オリンピックの成功や日本からの経済協力を得るためにはその政策を変更すべきことを迫ることである。この姿勢が明確に示されたとき、おそらく「美しい国」は再びその姿を現すだろう。

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