社会問題

孤児ファイトクラブの「救助」は正しかったのか 露呈する中国の貧困問題

2017年08月21日 19時00分

  「帰りたくない」。こう叫びながらも、無理やりバスに乗せられた少年たち。7月、中国最貧困地域の一つと数えられる四川省涼山州出身の孤児をボクサーとして育てる「恩波クラブ」は議論の的となった。クラブを取材した動画は多数のメディアに取り上げられ、賛否両論を呼び、少年たちの運命にも分かれ道が訪れた。一部の批判を受け、クラブは涼山出身の子ども11人を全員地元に帰すことにし、「今後も同地区の子どもを受け入れない」とした。

  話題となった動画で、「(リングとなる)鉄籠を見るだけで、怖くてたまらない」と少年の一人・龍くんが言う。それでも、大涼山に戻りたくない。「家には芋しかないから。ここに牛肉も卵もある。牛乳だって飲める」。四川省成都市にある「恩波クラブ」のメンバー全員は留守児童、または孤児だ。

 2年前、龍くんはクラブにやってきた。5歳のとき、農民工の父が出稼ぎ先で死亡した。母はほどなくして再婚し、3人の子どもを連れて行かなかった。上に姉がいて、妹は生まれたばかり。10歳未満の3人の子どもを待っているのは過酷な生活だった。畑仕事はもちろん、食事も自分たちで作らないといけない。食事といっても、ほとんど芋を煮たようなものだった。

 14歳の吾くんは3年前に恩波クラブに加わった。小さい時に両親は離婚。学費を払えないため、学校で勉強したのはたったの一週間。10歳の時、麻薬中毒の母が亡くなる前に残した言葉は「ママの二の舞にならないで」。涼山に戻ったら、周りの人と同じように麻薬に手を染めたり、窃盗などの非行に走りかねない。吾くんは帰郷を拒む。

 クラブに入りたての当初、ほとんど栄養失調の状態だった。肉も卵も牛乳もある生活は彼らにとって天国のようだ。

  8月16日、帰郷の日がやってきた。少年たちも、恩波も、立ち会ったすべての人はみんな涙を流した。この「救助」は果たして正しかったのか、誰も分からない。ただ、この日を境に、少年たちは再びあの極貧生活に投げ込まれるのだ。

慈善事業か未成年詐取か

格闘クラブで練習する子供たち(王志安・微博)

 クラブの創設者・恩波氏も、極貧生活を経験した。8歳の時に父が死亡し、18歳のときに格闘技の訓練を受け、武装警官になった。かつて涼山の部隊に配属され、「あまりの貧しさに目の当たりにした」という。恩波氏は軍隊を辞めたあと、総合格闘クラブを立ち上げた。その目的について「貧しくて身寄りのない子どもが道を踏み外れないようにするためだ」と話した。

 すでに16年運営されているエンボーはこれまで400人の孤児を育ててきた。恩波氏は孤児たちに比較的良い生活条件を提供でき、将来は格闘技家のみならず、ボディガードにもなれると、少年たちの養成に自信を示した。

 ただ、子どもたちは商業目的のパフォーマンスにも出場している。顔に幼さが残る少年たちが、パンチグローブをはめ、網に囲まれたリング上で激しく殴り合う。血だらけになるのもよくあることだ。

 司会者は「この子たちは普通の子と比べて、ずっと苦労している。彼らは自分の運命のために戦っている」と観客の感情を煽るようなセリフを連発させ、観客はそれを携帯で撮影している。

 話題となった動画で「子どもたちに出場費を払っているか」という質問に対して、「払っているが金額は言えない」「必要な時だけ支給している」と恩波は歯切れが悪かった。

  クラブでの生活は「寝ている以外、ずっと訓練している」という。トレーニングを受けても、身体条件が基準に達していなければ、淘汰される。

 孤児支援と謳う恩波に対して、批判の声は直ちに上がった。ネットでは、子供たちを戦わせることで利益を得ており、不徳なビジネスだと指摘されている。「子供たちが行くべきは学校。ショービジネスの世界で生存競争しているなんて、嘆かわしいことだ。この問題の責任は誰にあるのか」

 現地の涼山当局の教育関係者はメディアの取材に対して、「子供たちを地元に戻って学校に行くよう手配している」と述べた。

 批判を受け、恩波は孤児の受け入れを停止すると発表し、孤児をクラブに紹介した涼山当局の責任者は辞任に追い込まれた。

中国の最貧困地区で生活する子どもたち

バスケットボールで遊ぶ大涼山の子どもたち。ゴールは手作り(王志安・微博)
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