中国 日中関係

成田空港騒ぎ、北京「火消し」に躍起 ちらつく日本懐柔策

2018/02/01
更新: 2018/02/01

日本の成田空港で1月24日夜、格安航空会社(LCC)の上海行の便が欠航になり、一部の中国人乗客がLCC側の「対応不備」に強く抗議し、逮捕者の出る騒動を起こした。中国国内では反日ムードが一気に高まったが、「火消し」に奔走したのは中国政府だった。素早い鎮静化への動きには、中国主導の大規模経済圏構想「一帯一路」において、日本政府の協力を引き出すことを見越した、北京の懐柔戦略がちらつく。

成田空港、LCC欠航で苛立った中国人乗客が暴れる 傷害容疑で1人逮捕

反日モードすぐ終了 批判の矛先は中国人客に

日本の成田空港で1月24日夜、日系格安航空会社(LCC)ジェットスターの東京発上海行きの便が、到着地の悪天候により欠航になったため、搭乗予定の中国人搭乗客約100人が、空港内で足止めとなった。複数のメディアによると、航空会社による待遇不備に怒った一部の中国人客が抗議し、中国国歌を歌うなどの騒動を起こした。中国人の男1人が、航空会社職員に対する傷害と暴行の容疑で逮捕された。

この成田空港騒動は中国国内で大きく取り上げられた。「参考消息」や「新京報」、「環球時報」など官製メディアが1月26日、相次いで中国人客の言い分を引用した記事を掲載した。報道に煽られ、ネットの書き込みからは反日感情の高まりが見られた。

しかし、この反日モードは一日足らずで終了。中国当局が「火消し」に乗り出したのだ。ほぼ同時にメディアも速やかに方向転換し、批判の矛先を中国人客の身に向けた。

中国外交部(外務省)は1月31日、格安航空会社(LCC)を利用して海外旅行する中国人観光客に対し、契約内容を確認し、航空会社に過度な要求をしないよう注意喚起した。

在日中国大使館の王軍・参事官兼総領事はメディアの取材で、騒動の発生は日本側には中国語通訳を適時に用意しなかったのが「妥当性を欠く」とする以外、規則違反とみられる行為が一切なかったと話した。

「日本の警察が中国人を不当に扱った」と報じたばかりの中国共産党機関紙「環球時報」も慌ててスタンスを変え、中国外務省領事保護センターの趙岩参事官の話を引用し、中国人乗客らが国歌を歌うことで航空会社とのトラブルを解決しようとするのは「明らかに適切でない」「民族間対立や紛争を招きかねない」と伝えた。

国営テレビ局・中国中央テレビ(CCTV)は中国人乗客らに「被害妄想的」にならないよう忠告し、国歌を歌って抗議するのが「全国民の感情を利用し、私的な怨恨を晴らそうとするのは一種の病気だ」と強く批判した。

官製マスコミに翻弄される「愛国」「反日」感情

 

毎度、愛国主義(ナショナリズム)の旗を高く掲げ続ける中国メディアだが、今回の対応は異例だ。中国人訪日客側の擁護をしないのみならず、攻撃の矛先を彼らの態度に向けた。反日感情に拍車がかかっている一部のネットユーザの驚きは怒りに転じ、「(共産党に)普段から煽動されていなければ、国歌なんか歌うはずがない」と、翻弄されることに不満を並べた。

「(国営メディアは)愛国主義、反アメリカ、反日本、反韓国、反インド、反ベトナム、反フィリピン、反台湾、反香港、反チベット等々。周りは敵だらけだって。共産党が絶え間なく煽動しなければ、中国人は今日のように怒りっぽくならないぞ」「(皮肉を込めて)この政府にしてこの国民あり」「積み重ねられた共産党思想が注がれた結果、歪んだ愛国感情が被害妄想っぽくなった」「煽られるなかで生きているから、理性が働かない」などの意見がネットに相次ぎ書き込まれた。

中国当局の素早い異例の鎮静化対応は、日中外相会談を目前に控え、騒動の収束に動いた可能性もある。1月下旬、訪中した河野外相と王毅外交部長は会談し、両国の関係改善で一致した。

あるネットユーザは投稿で「(共産党当局は)必要なときに(国民を)騙しまくる。必要ないときは思い切って捨てる。国民を駒として扱う政府ってなんだろう? 今は日本と仲良くなりたいみたいね」と指摘した。

反日宣伝で異例の方向転換 そのわけは?

日中両国は過去数年、靖国神社の参拝や慰安婦問題、尖閣諸島(中国名:釣魚島)、東シナ海などで双方の国民感情が揺さぶられる事案は耐えない。しかし、今回の異例の鎮静化対応は、2016年12月に起きた北海道の新千歳空港でのトラブルでは取られなかった。当時、大雪による欠航に中国人乗客約100人が抗議し、騒動が起きた。

北京政府は成田空港騒動の後、直ちに外交部と宣伝部と協調をとり、高まる反日世論を鎮めた。これは、当局が対日関係を重視することを示すのみならず、中国では反日宣伝が単なる世論の範疇を超え、水面下で何らかの支配によって動かされていることを物語っている。

中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」がこのほど、パキスタンやネパールなど隣国との間で結ばれた大型水力発電プロジェクトが相次いで取り消され、困難な局面を迎えていると伝えられている。

そんな中、日本政府は北朝鮮問題の解決に向けて中国側の協力を求めることと引き換えに、「一帯一路」に協力することを約束し、両国関係の改善に積極的な姿勢を示した。北京は現在、明らかに日本をうまく丸め込もうとしているところにある。

王毅外交部長は28日、北京で行った日中外相会談で、河野太郎外務大臣に「日本政府が両国関係を改善したいという強い願望」に肯定的な見方を示し、同時に「緩めず、後退せず、口頭での態度表明は、着実な実行に移すように」と促した。

こうした状況下、両国関係を壊すのは習近平政権に混乱を与えることにほかならない。大臣訪中の間に、メディアが反日を煽り中国人の民族感情を高揚させれば、両国関係に再び亀裂が入り、北京政府は国際社会での孤立感が深まることになる。

反日キャンペーンは江派お馴染みの手法 権力闘争を反映

 

中国共産党上層部の権力闘争において、トラブル作りは江沢民派が習政権を妨害する手口の一つとなっている。対外関係においても、中印国境紛争や北朝鮮の挑発など、いずれも江沢民派の影を映している。

反日感情を利用するのも、江沢民派のお馴染みの手法だ。2012年7月、日本政府が20億5000万円で沖縄・尖閣諸島を購入を表明したのを発端に、中国では約60都市に過去最大規模の反日デモが起きた。武装警察やデモ動員や反日キャンペーンを支援していたことが、一部報道で暴露されている。

中国警察「反日はこっち!領事館までバスで送る」 外務省「自発的行為」と強調

人民日報、50年代「尖閣諸島は日本領」と報じる 市民ら「政府に騙された」

反日デモ 私服警察が組織し、暴徒化あおる

この背景には、最高指導部で薄煕来問題や18大(5年に一度の共産党全国大会)の人事刷新をめぐり、江沢民派が当時の胡錦涛・温家宝政権の弱体化を目論んで、国内で混乱を引き起こし、日中関係を悪化に仕向けた可能性がある。

メディアやネットに厳しい規制が敷かれている中国では、いかなる「世論」の背後にも複雑な政治事情が絡んでいる。

成田空港騒動の翌日、中国政府のネット管理部門である国家インターネット情報弁公室(網信弁)が中国版ツイッター「新浪微博(ウェイボー)」に対し、「誤った方向性をもつ情報を継続的に伝播した」とし、「全面的かつ完全な」是正を要求した。

(文・桓宇/翻訳編集・王君宜)

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