THE EPOCH TIMES

スーチーさん声明「中国ダム建設は危険、対立を悪化させる」 

2011年08月18日 08時33分
 【大紀元日本8月18日】ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スーチーさんは11日、同国イラワジ川上流で進む中国資本の巨大な複数ダム建設プロジェクトは、国内問題である少数民族とミャンマー政府との対立を悪化させている危険な計画との内容の公開書簡を発表、ダム建設停止を訴え、さらに環境保護団体や活動家へ協力を呼びかけた。

 書簡でスーチーさんは、土地開発や環境保全に関する整った法規がないため、ダム建設計画は環境破壊をもたらすと指摘。さらに63の村に住む1万2000人の周辺住民が移住を余儀なくされ、反政府感情を煽ったという。「イラワジ川を保護することは、私たちの遺産を保護するだけでなく、経済・自然環境を保護することだ」と書簡には記されている。

 ミャンマー水運の要と巨大中国ダム計画

 イラワジ川は、ヒマラヤ山脈南端を水源とし、ミャンマーの中央部を南北に縦断する大河。流域は41万1000平方キロ、全長は2170キロ。多くの住民がこの河を生活用水、物資運搬、移動のための運河として利用し、神聖視している。

 このイラワジ川上流のミャンマー最北部カチン州では最近、ミャンマー国軍と、少数民族により編成された武装組織カチン独立軍(KIA)との対立が激化している。英BBCなどによると6月9日には、銃撃戦と爆破物の使用により20人が死亡しており、ここ数十年で最も酷い衝突となった。17年間停戦状態にあった両者の対立が最近になって悪化した背景には、中国資本により進められている巨大ダム建設プロジェクトの存在があると、スーチーさんをはじめ、多くの専門家が指摘している。

 ミャンマー政府が要請した中国国営・中国電力投資集団公司(CPI)および大唐集団公司が主導する、イラワジ川上流の9つのダム建設計画。そのうちの7つのダムは、ミャンマー国内の紛争問題が眠っていた北部カチン州に建設される。地元少数民族カチン族の激しい反発にもかかわらず、一部ダムはすでに完成し、他のダムも建設が進められている。

 ミャンマー北部カチン州には、少数民族カチン族が90万人ほど住んでいる。伝統的な先住民族として、ミャンマー政府統治を受けない自治を強く希望している。国際NGO・国際危機グループ(ICG)によると、「ミャンマー反政府組織・カチン独立機構(KIO)は、カチン族居住地域が中国における香港と同様の位置づけになることを望んでおり、KIOの自治権行使を望んでいる」という。

 1993年の和平協定以来、カチン族とミャンマー軍は停戦状態に置かれていた。しかし最近、事態が急変した。今年6月の衝突では、激しい戦闘のあまり、2000人もの住民が逃走し、一部は中国に渡るなどして少なくとも1万6千人が難民化した。

 ミャンマー軍の主張によると、ダム建設計画に反対し妨害行為を働くカチン独立軍(KIA)から防衛する際の軍事行動だという。しかしKIAはこれを事実の歪曲と非難、先に戦闘を仕掛けたのはミャンマー軍側だとし、さらに死亡したKIAの捕虜兵士には、拷問の跡があったと主張した。

 ミャンマー軍は「ダム計画防衛」を名目にして軍事行動を正当化しているが、実際は、カチン州周辺の自治意識が強いKIA勢力の一掃が狙いだという見方が強い。中国のダム計画を推し進めたいミャンマー政府の強い意向が、軍事力を行使して、強引に少数民族の武装解除を行おうとする動きを後押ししている、と推測されている。

 ミャンマーには武装する少数民族勢力が多く、政府は1989年までに17の民族と和平協定を締結している。今回の対立には、ミャンマー国内武装勢力の動きを掌握したい軍事政権の意向など、さまざまな要素が絡んでいるが、しかし事態を悪化させている一要因として、中国の巨大なダム建設計画があることは間違いない。環境保護NGO団体・ビルマ河流ネットワークは、「中国の巨大なダム建設計画は、少数民族とミャンマー政府との間の埋めがたい溝をさらに深めた」との見方を示している。

 地元無視の一方的な開発

 大唐集団公司の発表によると、ミャンマー水運の要とされるイラワジ川に造られる中国資本の7つのダムにより生じた電力の90%は、中国に輸出される。英字外交分析サイト・ディプロマートによると、ダム建設について、中国企業とミャンマー政府は綿密な協議を繰り返したが、地元カチン族とは全く行われなかった。これにより土地の自治意識の強いカチン族側は、ダム建設計画に、不透明感、地元需要の無視、自然環境の破壊、両国政府間のみの金銭取引を優先させたなど、強い不満と不信感を募らせている。

 さらにカチン族側は、中国企業の援助を後ろ盾としたミャンマー政府による、カチン州の天然資源の搾取を目的とした戦略行為と見ており、一連のダム計画に「得るものなし」として猛烈な反感を抱いている。

 中国資本のダムの中で最大規模であり、周辺で武力衝突が発生したミッソン・ダムについて、「建設がスタートして以来、カチン族の間で、ミャンマー政府が同族の利益を無視し続けているという認識がさらに深まった」と、スーチーさんは今回の声明の中で述べている。

 スーチーさんは対立について、「双方の平和的な協調のために、関係者は計画を再評価すべき。また、望まぬ事態が発生しないよう、私たちは解決策を見つけるための協力をする。これで、イラワジ川を守りたい人々が感じている脅威を、和らげることができる」としている。

 人権保護と民主化改革を怠っているとして、ミャンマー政府は1997年から米国とEUから経済制裁を受けており、2003年のスーチーさんの軟禁拘束以来、制裁はより厳しくなった。しかしAFP通信によると、制裁にもかかわらず、政府は2010年度会計予算の中で、過去20年間で最高の200億ドルの海外投資契約を結んでいる。うち41%にあたる82億7000万ドルは中国からで、その多くはダム建設計画に注がれているという。

(翻訳編集・佐渡 道世)


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