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「天国の箸」と「地獄の箸」

 ある男が地獄に落ちた。生前の所業に問題があるので、きつい懲役を覚悟していたのだが、あにはからんや、軽い労働程度で「なんだ大したことないや」とたかをくくっているうちに、地獄の監督官から声が掛かった。「飯だぞー!」、丁度いい具合に腹も減っている。「しめしめ・・・これなら地獄もいい加減に終わりそうだぞ・・・地上世界と変わらないや・・・」そう思いつつ、薄暗い道を歩いていくと、眼前に「天国飯店」と看板のあるレストランに行き着いた。

 「はて、ここは地獄のはずなのに・・・天国飯店とは?」男はいぶかしがりながら中に入ると、そこは明るい照明が施された清潔な店内で、美しい女性たちが歓待してくれた。巨大な円形テーブルに着いた地獄の囚人たちは口々に「地獄も悪くないや」と言いながら、メニューから次々と注文すると、卓にはみるみる大皿に盛られた美味しそうな料理が運ばれてきた。

 しかし、一同ははたと困った。箸が長いのである。一間はありそうである。これでは食べられない。腹も猛烈に空いてきているのに、一口もすることができない。我慢できない者が手掴みで食べようとすると、後ろから金棒で無慈悲にも殴られ、頭から流血している。ふと後ろを振り返ると「鬼」が立っている。別の男は、箸を短く持ち料理を口にしたやいなや、金棒を口の中に押し込まれ口の中が血で一杯になり、鬼たちは「さぁ食え、腹いっぱい食え、食ってみろ」とけしかける。一同は空腹から来る焦燥、鬼への恐怖から、卓から逃げ出そうとするが、鬼にすぐ捕まりしこたま金棒で殴られ卓に連れ戻される。

 その内、この様子をじっと見つめていた「静かな男」が、長い箸で料理をつまみ、向かいに座っている男の口に運んだ。この男はいたく感激し、お返しをしようとすると、くだんの男は「それでは駄目だ」と別の男の口に運ぶよう指示した。こうして次々に一同の腹に料理が収まった。そこで一同が気がつくと、箸は一尺程度になっていた。後ろには鬼はいない。こうして恐怖の晩餐が終わり、レストランの外に出てみるとそこは一面の花畑が広がる美しい世界に変わっていた。

(06/03/08 14:09)



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