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原油安で世界経済に安定感、米国に資金回帰でドル高に

 昨年後半から始まった原油安がインフレ懸念を後退させ世界的に心地よい経済成長が長期化するとの見方が市場参加者の間で広まりつつある。為替市場ではドルが全面的に上昇する展開になっているが、背景には、インフレ懸念の高まりと景気後退の両にらみで米国を迂回していた資金が商品や新興国市場から戻っていることがあるともいわれる。

 さらに原油安と米国景気の軟着陸は日本の経済成長を後押しするため、日銀による利上げペースがこれまでの見込みよりも速くなるリスクがあるとの見通しも浮上している。

 <インフレ懸念後退で米国に資金回帰>

 昨年後半から始まった原油価格の下落は、年明けにその速度が加速した。投機資金が商品市況から流れ出しているのが直接的な理由だが、背景については「暖冬で米国の石油需要が少なくなっており、在庫が増えているということが材料視されている」(三井住友銀行・チーフエコノミストの山下えつ子氏)という。グローバル景気の減速を織り込む動きなのではないかとの見方もあったが「あくまでも積みあがっていた投機ポジションの巻き戻しが主体で、景気見通しが変化しているからではない」(山下氏)との見方が優勢だ。

 米原油先物は前週に一時1バレル=52ドルを割り込み、2005年5月以来約1年7カ月ぶり低水準を更新した。15日のアジア時間の電子取引では1バレル=53ドル台を回復しているが、投機筋のなかには、短期的な戦略として、原油先物を売りたてて儲けているところもあると言われている。

 原油安の進行と合わせ、12月の米国の製造業、雇用、消費関連の経済指標が相次いで予想を上回り、為替市場では米国景気の先行きに楽観的な見通しを示す声が増えている。「原油安は車社会でガソリン消費の多い米国の消費を助けるため、米国景気にプラスだ」(国内証券の為替ディーラー)との解釈に加えて、インフレ懸念の後退によって市場参加者が米国景気の軟着陸に自信を深めていることが大きい。

 JPモルガン・チェース銀行によると、米国のフェデラルファンド(FF)金利先物市場は昨年12月初め、2007年中に3回の利下げがあることを織り込んでいたが、現在は1回程度の利下げしか織り込んでいない。コーン米連邦準備理事会(FRB)副議長やシカゴ地区連銀のモスコウ総裁は前週にインフレリスクを懸念する発言をしており、FRBのインフレ警戒モードは維持されたままだが、市場参加者の間では、米国の政策金利が現行の5.25%に据え置かれる期間が長期化するのではないか、との思惑がにわかに強まっている。

 商品市況急落の影響で、新興国市場の株価や債券、通貨が売られる場面もあったが、現在のところ昨年5月に起きた連鎖的なリスク回避の動きとは違うとの見方が大勢だ。むしろ「新年を迎えてニューマネーを手にしたファンドマネージャーらが、昨年ほど原油は上がらないという見通しを基に、投資アロケーションを変更しているからではないか」(邦銀の金融アナリスト)など、商品や新興国市場に滞留していた投機資金が米景気失速懸念の後退で、成長の見込める米国の大型株などに移動しており、これがドルの全面高につながっているとの見方が出ている。

 ドルは12日の海外市場でユーロに対して一時1.2865ドルまで上昇し、2006年11月22日以来約1カ月半ぶりユーロ安/ドル高水準を更新し、円に対しては120.74円まで上昇して2005年12月12日以来約1年1カ月ぶりドル高/円安水準を更新した。さらに、ドルの主要通貨に対する実効レートであるドルインデックスも、12月上旬から3.8%程度上昇してきている。

 <世界景気にゴルディロックス・シナリオ、日銀の利上げ加速とも>

 イングランド銀行(英中銀)が11日に予想よりも早い利上げに踏み切り、市場のサプライズとなった。住宅価格の上昇ピッチが加速していることや、英国の中心的産業である金融サービス業が絶好調なことなど英国特有の理由のほかに「最大の貿易先であるユーロ圏の景気が上振れたことなどがあると思われる」(三菱UFJ証券・シニアエコノミストの矢口満氏)など、世界経済が力強い拡大を続けていることがあったと分析されている。

 ただ、原油価格の高騰や新興国の急成長で世界景気の過熱を懸念し、世界の中央銀行が利上げを継続してきた2006年までの動きと違い、原油安やこれまでの利上げ効果でインフレ懸念は落ち着いており、これが世界的なゴルディロックス経済につながるとの期待感があることが現在の特徴。ゴルディロックス経済とは、英国の童話から引用された造語で「熱すぎず、冷たすぎず、ちょうど良い」経済を指す。巧妙な金融政策が低いインフレ率と安定した経済成長をもたらすことを意味するともいう。

 日銀は17─18日に金融政策決定会合を開くが、市場では今回のタイミングで利上げが実施されるとの見方が大勢になっている。ロイターが15日に金利・為替市場関係者を対象に行った緊急アンケートによると、回答者35人中29人(82%)が今週の利上げを予想した。今回の利上げ実施を予想したある信託銀行の為替担当者は「為替市場は、日米の金利差はあまり縮小しないということでしばらく円を売りドルを買う取引に動いていくと思うが、日本の経済は、今後、米国景気の底堅さに加えて、利上げによる金利収入拡大で個人消費が伸びやすくなる、といった面をもつ。このため、円債市場では、今回の次の日銀の利上げ時期が予想されている夏場以降よりも前倒しになり、スピードがついてくることを織り込み始め、金利があがっていく可能性があるのではないか」と読んでいる。


[東京 15日 ロイター]

 (07/01/15 18:46)  





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