焦点:迷走するWTOトップ選出、採決強行か米政権交代待ちか

2020/10/31
更新: 2020/10/31

[ブリュッセル/ワシントン 29日 ロイター] – 世界貿易機関(WTO)の次期事務局長選びが暗礁に乗り上げている。多数の加盟国が支持する候補者のナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相について、トランプ米政権が大統領選投票日を目前にした28日に、断固反対を表明。WTOに新たな「パンチ」を食らわせた。

これによりWTOは、採決に訴えて最大の資金拠出国である米国の意向を覆すか、大統領選で民主党のバイデン前副大統領が勝利して米国の態度が変わるのをじっと待つか、というどちらも苦々しい選択を迫られる形になった。

<早期決着は期待できず>

オコンジョイウェアラ氏が選出されれば、初のアフリカ出身の事務局長が誕生する。同氏は米国籍も持っている。しかし米通商代表部(USTR)は、対立候補で韓国の兪明希・産業通商資源省通商交渉本部長の支持を明言し、国際貿易問題での経験が豊富な人物だと主張した。

ジュネーブのある外交官は、米国は事務局長候補を何とか一本化する最終盤になって兪氏の支持を打ち出し、議論の方向をめちゃくちゃにして、手続きの進行を妨害していると憤慨。「まるで行き当たりばったりで動いているようだ」とあきれかえった。

かつて米商務省高官だった戦略国際問題研究所(CSIS)のウィリアム・レインシュ氏は、米国を翻意させるため、舞台裏で相当激しい議論が行われるだろうと予想する。

ただトランプ大統領はWTOを中国寄りの「とんでもない」組織だと批判し、脱退までちらつかせているだけに、新事務局長承認のために11月9日に開かれるWTO一般理事会までに米政府が渋々でも多数意見を受け入れるとは想定しづらい。

またトランプ氏が選挙で敗れても来年1月20日までは大統領職を務めるため、早期解決の道はなおさら遠のいてしまう。

WTOの事務局長選挙が紛糾したのは今回が初めてではない。1999年には2人の候補者のどちらにするか加盟国間で調整がつかず、任期を2人で分け合うことで決着。これを教訓に2003年に新ルールが導入され、コンセンサスを得られそうにない候補者は「自発的に撤退」が求められ、投票は「最後の手段」とされることが定められた。今回も兪氏が候補を辞退する可能性はあるが、29日時点で今後の身の振り方をどうするかについて、同氏陣営は答えていない。

<米の政権交代に望みつなぐ>

事務局長を投票で決めるのは一見たやすい方法だが、実は全てを台無しにしかねない。

スイスのザンクトガレン大学で貿易問題を研究するサイモン・イブネット教授は、WTOの大国にとって採決は好ましくない前例になると指摘。「彼らはそれとない拒否を好む。あからさまな投票で負けるのは国の屈辱になる」と述べた。

実際に決定が投票に持ち込まれたりすれば、米国は戦争を仕掛けられたのも同然と受け止めるかもしれない。他の加盟国さえ、投票による方法を支持するかは明らかでない。

そこで最後の手段として残るのは、米国の政権交代に望みをつなぐことだ。

全米貿易協議会(NFTC)のルーファス・エルサ会長は、大統領選が鍵を握ると話す。「ジュネーブで次期事務局長を決めようとしている人々にとって、もう一度米国と対決しなければならないか、あるいはトランプ氏が退場し、バイデン氏の政権誕生を待つことができるかが米大統領選によって決まるだろう」という。

米政府のある通商担当高官は、もしバイデン氏が選挙で勝てば、WTO加盟国は彼が大統領に就任するまで動かないのが賢明だと述べ、バイデン氏は就任当初からWTOと良い関係を築くことに心を砕くだろうとの見方も示した。

(Philip Blenkinsop記者 Andrea Shalal記者)

Reuters
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