焦点:米中の新冷戦、「ブレーキ役」担うマティス国防長官

2018/11/16
更新: 2018/11/16

Phil Stewart and Idrees Ali

[ワシントン 9日 ロイター] – 米国が今秋、中国人民解放軍を制裁対象に加えたとき、その報復として、中国はマティス米国防長官が北京で予定していた中国国防相との会談をキャンセルした。

だがその数日後、人民解放軍の将軍が米国防総省を訪問し、「中国政府は、米中軍事関係の重要性を評価している」という心強いメッセージを伝えていた。

これまで報道されていなかったが、Huang Xueping将軍は10月10日に国防総省を訪れていた。その目的はマティス長官の側近に会うことだったが、マティス氏本人も廊下で同将軍に会い、中国の魏鳳和国防相向けのメッセージを伝えた。

米中の国防トップは10月後半にシンガポールで行われる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の国防相会議で顔を合わせる予定になっており、国防総省でアジア・太平洋担当のランドール・シュライバー次官補によれば、マティス氏は「魏国防相に会うことを楽しみにしている」とHuang将軍に伝えたという。

トランプ米政権下で、厳しい貿易紛争に加え台湾や南シナ海などの地政学上の火種を巡り、世界の2大経済大国である米中の関係は、新たな悪化の道をたどっている。

険しい対立の中、軍事大国のあいだの関係弱体化により誤解が生まれ、紛争へとつながっていくことを懸念するマティス国防長官は、中国側の軍首脳との関係強化を図っている、と米当局者は語った。

マティス長官の動きは勢いを増しているようだ。同長官は9日、中国の魏国防相と会談を行ったが、これは5カ月内で3回目という米国防トップとしては異例の頻度となった。6月の訪中も、米国の国防長官としては2014年以来のことだった。

「われわれは、破滅的な事態に至ることのない、安全な形で競争できるようになることを望んでいる」とシュライバー次官補は述べている。

<災難が起きるリスク>

マティス長官がギリギリの線をたどっていることが、新たな軍事関連データ、そして南シナ海や台湾海峡における米軍活動を含めた最近の出来事から浮かび上がってくる。

危機を封じ込めるための関係を築こうとする一方で、国防総省は中国政府をいら立たせるような活動を強化しているのだ。

例えば、9月30日までの12カ月間に南シナ海で行われた「航行の自由」作戦の実施回数は、前年の4回に対して6回を数えた、と米政府当局者がロイターに明らかにした。

「航行の自由」作戦は、他国が国際水域に対して領有権を主張している場合、その水域に軍艦を派遣するものだ。中国は南シナ海の大半に対して領有権を主張、同水域の島しょに軍事基地も建設している。

6度の「航行の自由」作戦実施は、オバマ前政権の最後の2年間に米海軍が行った回数に相当する。

米国防総省が台湾海峡で米艦を航行させる頻度はさらに高い。米当局者によれば、今年はこの狭い水域に航空母艦を派遣することも検討したという。中国は台湾を自国領土だと主張しており、自治を行っている台湾について米国が口を出すことは内政干渉だとみなしている。

7月まで国務省で東アジア・太平洋を担当したスーザン・ソーントン前国務次官補代行によれば、米軍の活動拡大によってリスクは高まっているという。

「以前よりも明らかに攻撃的なことをやっており、中国側も、かつては見られなかったような強さで反発している」とソーントン氏は言う。「災難が起きるリスクは高まっている」

シュライバー次官補も、実際に危機が生じた場合、米中両軍の交流がどの程度維持可能かを予測することは難しいと認めている。「実際に危機が起きるまで、それは分からないだろうと思う。今が試練だ」

<賢明な人物>

中国は軍事面で積極性を強めている。

例えば9月30日、南シナ海の国際水域を航行する米軍の駆逐艦に対し、中国船が約41メートル以内にまで接近した。中国船の舷側には緩衝材が取り付けられており、この行動による衝突の可能性を想定していたと思われる。

マティス長官は先月、「何かに衝突することを意図していない限り、外洋に出ているときにそのような装備をすることはない」と記者団に語った。

その一方で中国国防省は、軍どうしの交流が米中関係全般の「安定装置(スタビライザー)」となることを期待していると述べてきた。また中国政府内では、一部のトランプ政権高官に比べ、マティス国防長官への信頼感の方が強いと当局者は示唆している。

ある中国政府当局者によれば、同政府では、マティス氏は戦場での経験が豊富であり、軍事衝突の回避が最善であることを理解している「賢明な人物」と認識しているという。

中国国防省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

<敵ではなく競争相手>

ソーントン氏は、マティス長官による中国側との接触は有益ではあるが、ひとたび危機が生じた場合に、トランプ政権内の別の部分で生じたギャップを埋めるには十分ではないと言う。さらに、マティス長官が退任するようなことがあれば、後任が状況をしっかり把握するには時間がかかり、緊張が高まっている時期においては危険な展望が生じる、と同氏は言う。

マティス長官のトランプ政権離脱という憶測は、マティス氏自身とトランプ大統領の双方が否定しているにもかかわらず、以前からメディアで取り沙汰されている。

マティス長官は6月の北京訪問の際、国防総省が政策指針文書のなかで、南シナ海の軍事化を進める中国を「戦略上の競争相手」と位置づける決定を下したことについて、中国軍側から抗議を受けた。

このときの非公開協議を聞いていた米当局者によれば、マティス氏はこの表現について、中国政府から綿密にチェックされることを覚悟しつつ、国防総省が慎重に選択した言葉であると弁護したという。

シュライバー次官補は、マティス長官のスタンスを説明する中で、「競争相手というのは敵対関係を意味しない。敵ではないという意味だ」と語っている。

米中両国の軍関係者は、やはり信頼構築の措置として、別の機会にも顔を合わせている。

米軍トップであるジョー・ダンフォード統合参謀本部議長は今週、米中両国が約4カ月前に「机上演習」を行い、想定されるさまざまな危機シナリオについて協議を行ったと述べた。

ダンフォード氏によれば、この演習の目的は、危機の際に判断ミスが生じるリスクを軽減することだという。

先週ワシントンで開催されたイベントで講演したマティス長官は、「今から15年後、私たちは、『中国とポジティブな関係を築くためにどのような準備をしたか』という点で語られることになるだろう」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters
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