アングル:ブレグジットが追い風に、パリ高級不動産が急騰

2019/12/12
更新: 2019/12/12

[パリ 2日 ロイター] – 英国の投資家、ロバート・ドレーク氏は、パリ中心部・エリゼ宮近くの高級マンション内の1戸を200万ユーロ(約2億4000万円)で購入した。超低金利という環境や価格面の妙味に加え、英国の欧州連合(EU)離脱後に欧州大陸の不動産価値は高まるという確信が背中を押した。

2つのベッドルームが付いたこのマンションは、ドレーク氏にとって初の海外不動産投資。英国がEU離脱を決めたことでロンドンの国際的地位が大きな打撃を受け、それがパリの高級不動産価格の急騰につながっているという構図を物語る動きだ。

ベリー・ストリート・キャピタルのマネジングディレクターを務めるドレーク氏は、2016年の英国民投票でEU離脱派が勝利して以来、英国と欧州の関係は「根本的に変化した」と指摘。「ブレグジット(英のEU離脱)が実現してもしなくても、今後数十年で英国の金融セクターから欧州主要都市へと(人員が)移動する公算が大きいと思う」と話す。

ドレーク氏の見立てでは、国際業務を展開する銀行に勤務する人々が、パリの高級住宅を求める動きは一層強まる。半面、パリには厳しい都市計画の規制があるため、そうした物件の供給は引き続き限られる。

パリの不動産価格は、社会党のオランド大統領が政権を握っていた2012年から17年まで低迷が続いた。100万ユーロを超える収入に75%の上乗せ課税を実施して富裕層に敵対的だとの評価がフランス国外で強まり、高所得者がロンドンなどに逃げ出し、供給過剰が発生したからだ。

ただ、投資家に好意的なマクロン大統領が2017年に誕生すると、フランス国内の買い手が主導する形で市況が好転。ブレグジットを巡る交渉が混迷の度を深めるとともに、外国投資家はロンドンへの信頼を低下させ、パリに目を向けるようになった。

国際的な高級不動産仲介で世界屈指のBARNESインターナショナルのティボー・ドサンバンサン会長は「パリは現在、不動産分野に関してはブレグジットにおける勝ち組の筆頭だ」と述べた。

英不動産大手・ナイトフランクは、パリ不動産の上位5%の価格帯(プライム市場)が来年中にさらに5─7%値上がりすると予想している。

<安全な投資先>

パリのプライム市場の価格は、1平方メートル当たり1万9000ユーロ。ロンドンの2万8000ユーロやニューヨークの2万7600ユーロと比べると、まだ手が出しやすい。それでもナイトフランクによると、パリの価格は15年第4・四半期の底値を21%上回っている。

また、英国以外にベルギーや北欧、中東などの買い手も、パリに関心を寄せつつある。ナイトフランクのアソシエートパートナーでロンドンを拠点にしているロビー・アリス氏は、以前なら海外投資家は他に目もくれずにロンドンを目指しただろうが、足元では突然立ち止まり、ブレグジットの問題やそれに伴ってパリの旗色が良くなっている点を考えていると解説。「彼らは他の安全な投資先も考える中で、パリこそが最も良い投資先とみなす。資産分散化の一環としてだ」と付け加えた。

対照的にロンドンの不動産価格は、今年に入って一時、約10年ぶりの急落に見舞われた。ブレグジットを巡る不透明感と、それがロンドンの国際金融センターとしての魅力を低下させている事態が響き、年間でも価格がマイナスとなるもようだ。

昨年には、BARNESインターナショナルが発表している世界で最も不動産需要の強い都市・トップ5からロンドンが脱落。香港、ニューヨーク、ロサンゼルス、トロント、パリの後塵を拝する結果になった。

BARNESインターナショナルのドサンバンサン氏は、米国の顧客の借り入れコストは4-7%なのに、フランスでは1%未満の固定金利で最長20年の借り入れができるとして、資金面でのパリの優位性も強調。パリの不動産市況が非常に活発な一方、ニューヨークやマイアミ、ロサンゼルスは停滞しているとの見方を示した。

ドレーク氏は、パリでさらなる物件購入を計画している。フランスの税金が伝統的に高い点を踏まえ、リスクがあるのはもとより承知の上だ。

Reuters
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