米国務省が公表した2026年版「人身売買報告書」は、中国共産党(中共)による新疆ウイグル自治区やチベットでの強制労働政策に加え、中国系犯罪グループが関与する東南アジアのオンライン詐欺拠点の実態を取り上げた。
報告書は、こうした犯罪が人身取引や強制労働と結びつき、国境を越える深刻な問題となっていることを指摘。専門家からは、中国当局の関係者や特権階級による庇護、犯罪収益の資金洗浄、先端技術の悪用などを懸念する声が上がっている。
中国の強制労働政策を批判 香港も最低評価に
米国務省は今月8日、2026年版「人身売買報告書」を公表した。
中国に関する項目では、北京当局が「職業訓練」「脱過激化」「貧困脱却」などを名目に、新疆ウイグル自治区やチベットで強制労働政策を広範に推進していると指摘した。
また、中国当局が関与する海外の「一帯一路」関連インフラ事業でも労働者の搾取が発生しているとして、十分な監督が行われていないと批判。人身取引に関する法執行の完全なデータを9年連続で公表していない点も問題視した。
香港特別行政区についても、評価は最低ランクの「第3級」に引き下げられた。報告書は、香港政府が人身取引を包括的に取り締まる専門的な法制度を整備していないほか、香港で働く約37万人の外国人家事労働者を効果的に保護できていないと指摘している。
東南アジアの詐欺拠点、世界80か国以上の人々が被害に
報告書は、東南アジアに広がるオンライン詐欺拠点についても詳しく分析している。
これらの施設では、世界80か国以上から数十万人が誘い込まれ、暴力や拷問、多額の債務などによって支配されながら、国境を越えた金融詐欺を強制されているという。被害は125か国以上に及び、米国民の詐欺被害額は昨年だけで182億ドルに達したとされる。
米議会の「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」も、北京当局がこうした詐欺拠点を通じて国外への安全保障上の影響力を拡大していると警告している。
民主派組織「民主中国陣線」副主席で、独立中文筆会の報道官を務める盛雪氏は、詐欺拠点の問題は金銭的な被害にとどまらないと指摘する。「東南アジア各地でオンライン詐欺の拠点がますます横行し、被害が拡大している。しかし、そこは単なる詐欺の現場ではない。強制労働や誘拐、監禁、自由の剝奪、拷問など、さまざまな犯罪が行われている。さらに、生きた人間からの臓器収奪など、極めて非人道的な産業まで現地に根を下ろし始めている」
「犯罪を強制された人々も被害者」 強制労働の概念に注目
盛氏は今回の報告書について、本人の意思に反して犯罪行為を強いられるケースを「犯罪行為の強制」として捉える点も重要だと述べた。
「東南アジアのオンライン詐欺拠点は、その典型例である。現地に連れてこられた多くの人々は、銃を突きつけられたり、拷問を受けたり、多額の債務を負わされたりして、犯罪行為を強制されている。この点を区別することは非常に重要である。彼らは犯罪に関与しているように見えても、本質的には強制労働の被害者なのである」
報告書はまた、生成AIや衛星通信ネットワーク、暗号資産などを悪用する「ハイテク型人身取引」にも焦点を当てた。
犯罪グループは先端技術を詐欺活動に利用するほか、分散型金融などを通じて犯罪収益を移転・洗浄しているとされる。こうした手法によって資金の流れが複雑化し、各国の法執行機関による追跡が一層困難になっている。
盛氏は、分散型金融やブロックチェーン、闇市場、グレーゾーンの取引プラットフォームなどが、権威主義体制の国家機構に利用される危険性を指摘する。
「こうした分野や産業は、一見すると民間のものに見える。しかし、中共の国家権力と深く結びついていなければ、民間企業がこのような活動を実行するのは極めて困難である」
元公安関係者「特権階級の関与が根絶を妨げている」
中国の元公安関係者である董広平氏は、詐欺拠点が摘発を受けても根絶されない背景には、中国共産党の特権階級や高級官僚による関与があると主張する。
「問題の本質は、太子党や高級官僚が道筋をつけ、犯罪者を集めて詐欺や麻薬密売を行わせていることである。こうした高官は、中共の各級機関とつながっている。公安機関や国家安全機関、情報機関も例外ではない」
董氏はさらに、犯罪グループが中国の有力者との関係を背景に、東南アジア各国の腐敗した官僚を買収し、土地を確保して詐欺事業を展開していると説明する。事件が発覚しても、逮捕されるのは現地の代理人にとどまり、背後で犯罪を支える勢力の追及は難しいという。
董氏は、国際的な取り締まりの限界についても言及した。
「米国が処罰や逮捕に乗り出しても、犯人を捕まえられなければ意味がない。彼らは非常に狡猾である。逮捕されるのは氷山の一角にすぎない。中共が協力しなければ逮捕は困難であるし、東南アジア各国が協力しない場合も、取り締まりは難しくなる」
標的は米欧にも拡大 拠点移転で摘発を回避
董氏によると、中国経済の低迷や中国国内での防犯意識の高まりを背景に、犯罪グループは標的を米欧へと広げている。特に、警戒心の薄い高齢者を狙った詐欺が拡大しているという。
また、犯罪グループは東南アジア各国の法制度の不備を利用し、拠点を頻繁に移転しながら活動を続けている。半年ほどで十分な利益を上げると別の場所へ移るなど、摘発を回避するために機動的な手法を取っているとされる。
こうした犯罪ネットワークの実態解明と取り締まりには、各国の捜査機関による情報共有や国際協力が不可欠となる。一方、犯罪組織の背後にいるとされる有力者や資金の流れをどこまで追及できるかが、今後の大きな課題となりそうだ。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。