香港の富豪・李嘉誠一家が率いる長江集団は、英国最大級の電力網事業者UKPNの全株をフランスのEngieに105億ポンド(約2兆円)で売却することで合意した。2010年の買収以来、企業価値は2倍超に膨らみ、パナマ港をめぐる紛争リスクの低減を狙った動きとの見方も出ている。
長江集団は2月26日に発表した共同声明で、李氏一家が支配する複数の企業――長江基建(CKインフラ)、長江和記(CKハチソン)、電能実業(Power Assets Holdings)、長江実業(CKアセット)――が、UKPNの全持株をフランス電力大手「エンジー(Engie)」に105億ポンドで売却することで合意したと明らかにした。取引の完了は2026年半ばを予定しており、規制当局の承認が必要とされている。
UKPNはロンドンおよび英国各地で電力配電を担う企業であり、2010年に李嘉誠財団によって買収された。共同声明では、李氏グループの経営下でUKPNが著しい成長を遂げたことを強調している。グループ側は、「現在は、投資案件を魅力的な評価額で現金化できる好機であり、今後の投資や買収に向けて多額の会計利益とキャッシュを得ることができる」と述べた。
長江集団が2010年にUKPNを買収した際の取得額は約58億ポンドであり、今回の売却額は105億ポンドに達する。企業価値は約2倍に膨らんだ計算となる。
香港メディアの報道によれば、現在のUKPNの企業価値は168.38億ポンド(約3兆1300億円)に達し、李嘉誠一家はこれまでに累計44億ポンド(約8200億円)の配当を受け取ってきた。16年前の買収から換算すると、総リターンは6倍を超えるとみられている。
パナマ運河港紛争と地政学リスク低減戦略
今回の取引は、李嘉誠一家が現在、パナマ運河北岸の港経営権をめぐる訴訟問題を抱える中で行われたものであり、高品質資産の現金化および地政学的リスク低減を狙った戦略とみられている。
およそ1年前に、長江和記実業(CKハチソン)は、パナマ運河の2つの港および世界40以上の港湾資産を、米国投資会社ブラックロックと地中海航運(MSC)が組成する企業連合に売却することで合意していた。この取引は、当時の米大統領トランプ氏にとって「北京から運河を取り戻す」公約の実現として勝利と受け止められていた。
しかし、中国側はこの総額228億ドル(約3兆4000億円)規模の取引に強く反発し、交渉は停滞。その後、パナマの裁判所が憲法上の理由から当該事業権を無効と判断した。
今週、パナマ当局は事実上これらの港を接収した。CKハチソンはこれに対抗し、国際仲裁を求めているが、この紛争が同グループに影を落としている。
各社利益見込みと株価急騰の影響
26日に報じられた売却のニュースを受け、長江集団系の香港上場株は軒並み上昇した。26日終値時点で、長和、長実、長建、電能実業の株価はいずれも3〜4.5%上昇した。フランス上場のエンジー株も一時8%近く急伸し、29.73ユーロ(約4700円)まで上昇した。
長和と長建は今回の取引により、それぞれ13.7億ポンド(約2540億円)の財務利益を計上する見込みである。電能実業は10億ポンド(約1850億円)、長実は8億ポンド(約1480億円)の会計利益を見込んでいる。
買収側の視点から見ると、UKPNは事実上フランスの管理下に戻る形となる。というのも、フランス政府がエンジー社の株式を一部保有しているためである。
今回の買収により、英国はエンジーにとってフランスに次ぐ第2の市場となり、ベルギー、米国、ブラジルを上回ることになるという。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。