オミクロン株、世界的な大流行の兆し 高い伝播性も病毒性は未知 既存の防疫体制の維持が重要=専門家

2021/12/03
更新: 2021/12/03

新型コロナウイルス変異株「オミクロン」が国内でも初症例が報告されるなど世界的な流行の兆しがある。専門家は、変異株の特性から伝播性が高まる可能性を懸念しながらも、病毒性は更なる調査が必要だと見ている。各国衛生当局や専門家は従来の防疫体制を守りつつ、間違った情報や煽りに警戒するよう呼びかけている。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)は11月26日の報告書から、アフリカ南部・ボツワナで発見され、南アフリカを中心に広がったオミクロン株について発表した。報告書によると、オミクロン株はデルタ株に比べ「伝播性がより高く、免疫回避(抗体が形成された人の免疫攻撃を避けて感染させること)への懸念でワクチンの予防効果を下げ、再感染の恐れが高い」という。 現在、世界保健機関(WHO)は、オミクロン株についてデルタ株などとともに「危険視される変異体(Variant of Concern, VOC)」に分類している。

南アフリカの保健当局は12月2日、新型コロナウイルスの感染で新たな変異株「オミクロン」が同国で主流となり、感染が急速に拡大していると発表した。

また1日にメドアーカイブ(medrxiv.org)で発表された、南アフリカ国立感染症研究所などによる査読前研究報告によれば、オミクロン株は再感染リスクが高いという。ベータ株やデルタ株とは対照的に、オミクロン株は以前の感染による免疫を回避する特徴があることを示唆した。

南アフリカで検出されたオミクロン株感染の相関グラフ。Aは一次感染者数、Bは再感染が考慮される人の合計、Cは再感染が疑われる人の数。南アフリカ国立感染症研究所などによる研究報告。(https://doi.org/10.1101/2021.11.11.21266068より、CC-BY-NC 4.0 International license)
 

高い伝播性は確か、病毒性はまだ知られていない

疫学専門家らは、オミクロン株が南アフリカ共和国で優勢であったデルタ株を超え、急速に拡散した点から鑑みて、より高い伝播性を持っているとの見方で一致している。しかし伝播力の強いウイルスの特性上、病毒性は従来より低い可能性についても言及し、直接的な判断を控えている。

オミクロン株は11月23日、南アフリカ共和国で初めて確認されたが、発源地についてはまだ不明だ。南アフリカでは20~26日、毎日人口10万人当たり50人の新規感染者が発生し、前週に比べ592%に昇る爆発的な増加率を示した。

南アフリカ共和国・新型コロナウイルス内閣諮問委員のイアン・サンヌ博士はオミクロン株がすでに優勢になっていることを明らかにし「全体として伝播力は強いと思う」と述べた。現在まで日本を含めて英国、ベルギー、ボツワナ、ドイツ、香港、イスラエル、イタリアなどでも感染者が確認されている。専門家らによると、すでにほかの国々にも広まっている可能性が高い。

EDCDは伝播速度について他の変異株より急速に拡散している点を挙げ、「南アフリカでのクラスター感染はスーパー・スプレッダー(超感染拡大者)の有無、免疫回避による突破感染などの可能性があるため、更なる調査が必要」だと述べた。

しかし、伝播性は高いものの、病毒性は従来の変異株と比べて高くないとの見方もある。ウイルスは宿主を殺す病毒性が高くなると、伝播が難しくなる傾向がある。

病毒性を裏付ける資料は不十分であるが、各国の症例報告によると、頭痛や倦怠感などの軽症が多い。オミクロン株を初めて発見したアンジェリーク・クーチェ博士は英紙デイリー・テレグラフとのインタビューで既存の変異株との違いについて「軽い症状」を挙げ、「若者1人は極度の疲労感を訴え、熱が出て脈拍が速くなった6歳の子どもは2日後に状態がかなり好転した」と述べた。脈拍を増加させ、酸素飽和度を下げて嗅覚、味覚を麻痺させる点でデルタ株とは大きく異なるとクーチェ博士は説明する。

いっぽう、安易に結論づけてはならないという声もある。感染した人口集団が主に若年層であることから、まだ高齢者などでどの程度重症化が進むかについて、まだ分析されていない。米国国立研究機構博士研究員の峰宗太郎氏はYahoo!ニュース個人29日付の記事で、オミクロン株の病毒性は「まずは検査が十分になされて、比較がなされることが重要」であることを強調した。

ワクチンと抗生物質効果の減少、ブレイクスルー感染の可能性も従来より大きく

ローマのバンビーノ・ジェス病院での研究成果であるデルタ株(左)とオミクロン株(右)のスパイクタンパク質比較画像、オレンジの部分で活発な変化が見られる(ANSA)
 

伝播性、病毒性とともに多くの専門家を緊張させるのは、オミクロン株がもつ「免疫回避」の程度だ。変異株は、ワクチン接種、感染などによってすでに抗体が形成された人の免疫体系を避け、再感染を引き起こす可能性が常に存在する。

30日に国内初の感染者となる駐ナミビア日本外交官も、すでに2回目の接種を終えたことが知られ、オミクロン株による突破感染の可能性を示唆する。

米ファイザー、モデルナ社製など従来のワクチン接種でオミクロン株の感染を予防できるかという点でも意見が分かれる。変異株の伝播力は、ウイルス表面に突出した「スパイクたんぱく質」の能力にかかっている。スパイクたんぱく質が以前よりさらに変異した場合、ヒトの細胞により浸透しやすくなり、伝播性が高まる恐れがある。

英アストラゼネカ社製ワクチンを開発した英オックスフォード大学・ワクチングループのアンドリュー・ポラード教授は28日、英紙ガーディアンとのインタビューで「オミクロンのスパイクたんぱく質で発見された32か所の変異は、その位置が既存の変異株と類似している」と述べ、従来のワクチンが引き続き効果があるとの可能性について言及した。詳細については現在行われている研究により真偽を確認していることを明らかにした。

発見されてから1カ月にならないため、オミクロン株の正体が完全に解明されるまでには時間がかかる見通しだ。世界で猛威を振るったデルタ株も、初症例が発見されてから、WHOでVOCに分類するのに約6カ月を要した点を考えると、科学者らはオミクロンに関する疫学調査と分析に力を注いでいる。関連研究を進行しているヨハネスブルグのビットバーテストラント大学・ウイルス研究者のムーア・ペニー氏は米科学誌ネイチャーとのインタビューで「2週間以内に関連する初の研究結果が出る」と明らかにした。

オミクロン株の広がり 従来の防疫体制を守りつつ、研究結果を待つべき

更なる調査に時間を要するが、多くの専門家は、オミクロン株がデルタ変異より伝播力が強く、近いうちに世界的に優勢になるという点に同意している。伝播性や病毒性、ワクチンの効能に及ぼす影響などは未知の領域が多いことから、性急な判断は避けるべきと声も高まっている。

米国国立アレルギー・伝染病研究所のファウチ所長は今回の事態について、「変異株が大きな問題を起こす可能性について話しているが、まだ私たちは分からない部分が多い。ワクチン実験を通じて抗体を回避できるかどうかをはっきり知る必要がある」と述べ、更なる分析結果の重要性を強調した。

また、高齢者や基底疾患者などに対するデータが不十分であるため、当面はワクチン接種を拡大し、マスク着用、自粛、3密の回避など基本的な防疫を充実させ、重症者へのケアに力を入れる必要がある。伝染病学者兼公衆保健専門家のアブドル・エルサエド博士は「懸念は確かに存在するが、WHOが指摘したようにわれわれは一歩退いて科学に対する研究を待たなければならない」と強調した。

崔潤水(CHOI YUNSU)