焦点:中国の学生ローン地獄、自殺者増加で取り締まり強化

2017/10/03
更新: 2017/10/03

Shu Zhang and Ryan Woo

[トウ州市(中国) 27日 ロイター] – Zheng Dexingさん(21)は死の直前、ホテルにチェックインし、携帯電話から家族や友人に自殺を予告するメールを送った。

「遺体を回収しに来ないで。屈辱的すぎる」と、Zhengさんは山東省青島市から父親にメールした。Zhengさんは故郷の河南省から同市に逃げてきていた。

多額の借金を背負い、回収者に追い立てられ、Zhengさんは昨年、ホテルの8階から飛び降りて自ら命を絶った。

大学2年生だったZhengさんはギャンブルにはまり、10社以上のオンライン貸金業者から59万元(約1000万円)近くも借り入れていた。

借金のため自殺に追い込まれる学生の話は近年、中国のメディアやSNSでは珍しくなく、このような業者に対する市民の激しい怒りを招いている。

規制当局は、大学を狙うオンライン貸金業者による融資急増が原因だとしている。こうした業者は、べらぼうに高い金利を取ったり、暴力的な回収方法を用いたりすることがよくある。

ロイターが入手した2015年のローン契約書によると、1カ月の金利(複利)は1─2%で、年間の実質金利は13─27%になる。返済が滞れば、1日当たり最低0.5%の延滞金利がかかり、年率にして517%にもなる。

貸金業者は、最新の「iPhone(アイフォーン)」やノートパソコンを欲しがる学生たちの物質主義につけこみ、緩い条件で融資を行っている。簡単にカネが借りられるため、学生は借金や利息を支払うために新たなローンを組み、その結果、ものすごいスピードで遅延損害金が膨らみ、借金が雪だるま式に増える負の連鎖を招いている。

政府は6月、オンライン貸金業者に対し、大学生への新規ローン停止を指示。一方、国有銀行にはその穴を埋めるよう命じた。これは大きな転換だ。国有銀行は、貸し倒れ率が高まった2009年に学生市場から手を引いていた。

オンライン資金業者の多くは政府の指示を守っているが、今なお学生を狙う業者が横行しているとみられる。回収を待つ既存ローンも数知れぬほどある。

大学3年生だった北京の男子学生は昨年、アイフォーン6Sを買うため、約1万元(約17万円)を借りた。現在それは、20万元(約340万円)以上に膨れ上がっている。借金返済のために20社以上のローン会社から借金を重ね、利息が天井知らずに膨らんだせいだ。貸金回収者から嫌がらせを受け、大学中退に追い込まれたという。

「無謀だった。どうなるか、考えてもみなかった」と、この元学生は回収者を恐れて匿名でこう語った。

大学生を狙ったオンライン貸金業者が最初に現れたのは2013年。貸金業ライセンスを取得する必要がなかった規制の空白を突いて急増した。

公式統計は入手不可能だが、国営の新華社通信は3月、同業界が2016年までに800億元(約1.35兆円)を超える市場に成長したとする調査を伝えている。

学生によれば、オンライン貸金業者は大学にマーケティング担当者を派遣し、キャンパスに広告を貼ったり、インフォメーションコーナーを設置したりしていたという。

大学側はこうした行為に見て見ぬふりをしている、と学生らは言う。だが、学生の自殺が相次いで報じられた2016年に、多くのキャンパスから業者が姿を消し始めたという。

Zhengさんが通っていた河南省の省都・鄭州市にある河南牧業経済学院を最近訪れたが、ローン業者の広告は見当たらなかった。しかし、北京にある一部の大学キャンパスでは、いまだに広告を目にすることができた。

大学が業者からカネを受け取っていたかは不明だ。Zhengさんが通っていた大学はコメントを求めるメールに回答せず、大学の広報への電話もつながらなかった。

融資を一度受けると、学生は新たなローンを組みやすくなる。経験者によると、通常は自身の連絡先を家族や友人のそれと一緒に提出するだけだという。

一部の女子学生はヌード写真またはみだらな行為をしている写真を担保として求められ、返済しなければ、ネット上に流すと脅かされていた。

ロイターは「裸貸」と呼ばれる融資ファイルを入手。そこには、身分証明書や借用証書を掲げる裸の女子学生160人以上の動画や写真が収められていた。

そうした借用証書に記載のあったオンライン貸金業者「借貸宝」は、貸し手と借り手をつなぐ「送金プラットフォーム」にすぎず、「裸貸」などは求めていないとの声明をウェブサイトに公開した。ロイターは同社からコメントを得られなかった。

また、暴力集団が借金回収を行うこともある、と親や学生たちは話す。

「恐ろしかった」と語るのは、7万元(約120万円)の借金がある河南省の大学に通っていた1年生だ。「縛られて、殴られた男子もいた」とこの女子学生は証言した。彼女も中退を余儀なくされたという。

また、警察によれば、学生の個人情報が他者によって悪用された不正なローン申請も横行しているという。

Zhengさんの場合、融資を受けるため他の学生28人の名義を利用していた、とZhengさんの家族に助言を行う弁護士は明らかにした。この弁護士は、外国メディアの取材を受ける権限が与えられていないとして、名前の公表を拒んだ。

<国有銀行は融資再開>

 

学生ローン問題は中国の巨大な金融システムのごく一部にすぎないが、業者に対する市民の怒りを受け、政府は対応に動いた。

中国銀行業監督管理委員会(CBRC)の郭樹清主席は4月の監督担当者会議で、学生ローン業者は「非常に悪い社会的影響」を及ぼしていると語ったと、同問題に詳しい当局者は明かした。

CBRCは2カ月後、高利や暴力的な借金回収の方法、「裸貸」などの慣行を理由に、こうした業者に対し、新たな融資を禁止すると発表した。

中国共産党の機関紙「人民日報」は、Yingcan Consultancyの統計を引用し、6月23日時点で学生ローン業者59社が同市場から撤退したと伝えている。だが、関係筋やこうした業者のサイトによると、いまだに数十社が営業を続けているもようだ。

一部の業者は「若者」向けの金融サービスとして事業の衣替えをはかっている。

CBRCの禁止令が永続的なものとなるかは不明だ。

モバイル金融サービス「麦子金服」の共同創設者であり、学生向けオンライン貸金大手の1つ、「名校貸公益」の最高経営責任者(CEO)であるZeng Qinghui氏は、現段階では、学生への新規貸し付けは行っていないと説明。名校貸公益は、2013年の設立以来の融資総額が100億元近くに達すると明らかにした。

同氏は、大半の業者は倫理的に営業しており、利息は年率15─20%だとして、自社と業界を擁護した。

一方、国有銀行はすでに一部の大学で融資を再開している。

中国工商銀行<601398.SS><1398.HK>は9月、10都市で学生向けローンを開始したと発表。中国建設銀行<601939.SS><0939.HK>と中国銀行<601988.SS><3988.HK>も、5月に一部大学での融資プログラムを発表した。

中国建設銀行の場合、担保不要で学生に最大5万元を融資する。金利は年率5.6%だ。同行は、「リスクを効果的に回避するため、厳格な内部管理とコンプライアンスのシステム」を使っているとしている。

中国工商銀行も担保を求めず、融資の限度額を2万元としている。同行はコメントを差し控えた。中国銀行もコメント要請に応じなかった。CBRCも回答しなかった。

<思わぬ結末>

飛び降り自殺した前出のZhengさんの父親は、息子が借金地獄に陥いったショックから立ち直れないでいる。

農業を営む父親は、老後のために蓄えてきた12万元を息子の借金の一部を肩代わりするため使っていた。

「学生ローン業者は息子の素晴らしい人生を台無しにした」と父親は言う。「息子の借金返済のために家族は持てるものを全て差し出した。でも結局、彼は借金に追い詰められ、死んでしまった」

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

 

 9月27日、借金のため自殺に追い込まれる学生の話は近年、中国のメディアやSNSでは珍しくなく、このような業者に対する市民の激しい怒りを招いている。写真は、飛び降り自殺をした男子学生の父親。河南省で7月撮影(2017年 ロイター/Shu Zhang)
Reuters
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