アングル:インド自動車市場を襲う「影の銀行」危機

2019/08/08
更新: 2019/08/08

Swati Bhat Nupur Anand

[ムンバイ 4日 ロイター] – ある週末、ムンバイ近郊にあるマルチ・スズキの自動車ディーラーには、午前9時の開店から2時間たっても1人の来店もなかった。

「以前は毎日15─20件の予約があったが、最近はせいぜい3─5件だ」と話すSudhir Gharpureさん。このディーラーが特別なわけではない。

インドでは「影の銀行」が危機に陥った影響で、自動車を買う際の資金手当てがしにくくなり、自動車業界は過去約20年間で最悪の不況に見舞われている。

全国で多くのディーラーが閉鎖に追い込まれ、乗用車の販売台数は6月まで8カ月連続で減少。5月には20.55%減と、18年ぶりの急激な落ち込みを記録した。7月も暫定値を見る限り、最大30%減少した可能性がある。

排ガス基準の厳格化と電気自動車の開発競争を背景に、コストの増大と格闘中の自動車メーカーにとって、販売減少は大打撃となる。中国も新たな排ガス基準を導入したことが主な原因で自動車販売が減少している。

インドの事情は中国より複雑だ。モディ政権が2016年に高額紙幣を廃止したこと、税体系の変更で税率が上昇したこと、配車サービスが台頭したこと、地方経済が弱体化したことなど、複数の要因が重なった。しかし、最大の要因と指摘されているのは、影の銀行が提供していた流動性の収縮だ。

ノンバンク金融会社(NBFC)と呼ばれる影の銀行は、業界大手インフラストラクチャー・リーシング&ファイナンシャル・サービシズ(IL&FS)が昨年末に破綻して以来、急激に貸し出しを減らした。

同社は不正容疑が浮上して債務不履行を起こし、破綻した。競合他社も資金を調達できなくなり、貸し出しコストが急上昇した。

格付け機関ICRAによると、インドでは近年、商用車(新車および中古車)の55─60%、乗用車の30%、二輪車の65%で、購入の際にNBFCの融資が利用されている。

自動車市場の悪化を受け、銀行も同業界への融資を絞るようになり、事態の悪化に拍車をかけた。

<在庫増加>

ディーラーの在庫管理コストは増加し、自動車ディーラー協会連盟(FADA)によると、過去1年半に閉鎖したディーラーは全国で286社に上った。

ICRAで金融業界を担当するA・M・カーシク氏は「NBFCの減速が、自動車販売の伸びを圧迫した。流動性のひっ迫は続いており、今では自動車業界の減速が一段と鮮明になった」と話す。

スズキ<7269.T>のインド子会社マルチ・スズキ<MRTI.NS>、タタ・モーターズ<TAMO.NS>、マヒンドラ・アンド・マヒンドラ<MAHM.NS>などの自動車メーカーは、いずれも在庫の増加に対処するため、生産削減もしくは一時的な工場閉鎖に踏み切った。

FADAのデータによると、インドの乗用車在庫は以前の約45日分から50─60日分に増え、二輪車に至っては80─90日分まで積み上がってる。商用車は45─50日分だ。

FADAのアシシュ・ケール会長は「ディーラーには在庫を21日分に維持するよう求めている。今の約半分の水準だ」と語るが、ディーラー4社に取材したところ、削減余地はないとの答えが返ってきた。

あるディーラーでは、以前はNBFCもしくは銀行の関係者が店舗に常駐し、販売の70─75%の購入資金を融資していたが、その比率は約50%まで下がった。金融業者がバランスシートの強化を要求され、貸し出し基準を厳格化、購買者が要件を満たしにくくなったからだ。

しかも、NBFCの多くは通常、信用力の劣る顧客に貸していたため、銀行はNBFCの退場によって空いた穴を埋めるのに及び腰だ。銀行業界自体が約1500億ドルの不良債権を抱えて苦戦している。

マルチ・スズキのR・C・バーガバ会長は「銀行セクターは間違いなく、自動車業界の拡大に影響を及ぼした要因の1つだ」と述べ、過去1年間、中央銀行が利下げを進めたにもかかわらず、自動車ローンの金利は上昇したと指摘した。

<回復は期待薄>

インドの自動車産業は3500万人以上を直接・間接に雇用し、国内総生産(GDP)の7%以上、製造業に限れば49%を占めている。ここが不況に陥れば影響は甚大だ。2期目に入ったモディ政権にとって大きな試練となる。

自動車メーカーは、個人消費が例年急増する9─12月の祝祭シーズンに入れば、市況は回復すると期待している。

しかし、アナリストらは懐疑的で、金利が低下し、自動車ローンが利用しやすくならなければ、回復の見込みは薄いとみている。自動車業界で不良債権が増大し、リスクを恐れる銀行が融資を絞る恐れがあるという。

Reuters
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