焦点:債券利回りの低下に終止符も、ドイツが財政拡大示唆

2019/08/26
更新: 2019/08/26

[ロンドン 21日 ロイター] – 世界の債券利回りはここ数カ月、低下の一途をたどってきたが、ドイツがついに景気刺激のために財政支出を拡大する可能性が出てきたことで、潮流が変わるのではないかとの見方が広がり始めた。

債券投資家にとって財政支出拡大は、国債供給の増加を通じて利回りの上昇をもたらすだけでなく、政府が成長率の押し上げに取り組むとのムードが広がり、市場がそうした経済環境を織り込み始める兆候でもある。

エコノミストは長年、ドイツを筆頭とする緊縮財政路線の国に対し、財政支出による内需拡大を求めてきた。

ドイツ高官はロイターに対し、気候変動対策の経費を賄うため新規国債を発行する可能性を示した。

また、緊縮財政を10年間続けてきた英国では、ジョンソン新首相が欧州連合(EU)離脱を前に財政支出を拡大すると約束。フランスとスペインも財政支出を増やしており、イタリアは財政赤字の拡大容認をEUに働き掛けている最中だ。

2014年このかた財政均衡を約束してきたドイツが方向転換するとなれば、とりわけ大きな変化となるため、実現を疑問視する人も多い。

しかし、実現すれば影響は甚大だろう。ドイツが国債を増発する可能性があるとの報道が続いたため、16日の金融市場では世界各国で債券利回りと株価が上昇した。もっともメルケル独首相は今のところ、財政刺激策を発動する必要はないとしている。

ドイツ政府が財政政策の姿勢をわずかに変化させるだけでも、債券市場の一方的な動きには疑問が生じるだろう。

ナットウエストのジム・マコーミック氏は「ドイツが積極的な財政刺激策を打ち出せば状況は一変し、20年の注目材料になるはずだ」と語る。

現在、世界中で15兆ドル以上の債券がマイナス利回りとなっている。ドイツが財政を拡大して債券利回りが上昇すれば、マイナス金利に苦しむ銀行や保険、年金基金は一息つくことができ、欧州にとって好材料と見なされる。

<方向は明確>

11月に欧州中央銀行(ECB)総裁に就任するラガルド氏も、ドイツに積極財政を求めるはずだ。

しかし結局、ドイツに財政出動を納得させるのは景気後退のリスクだろう。ドイツ経済は第2・四半期にマイナス成長に陥っており、ドイツ連銀は第3・四半期もマイナスが続く可能性があると指摘している。

その上現在のマイナス金利環境は多くの国にとって、借金して投資しても債務の持続性を損なわずにすむ絶好の機会だ。

INGバンクのアナリストの試算によると、18年に国内総生産(GDP)対比1.7%の財政黒字を計上したドイツは、1.5%の財政赤字に転じても債務比率が現在のGDP対比60%前後から悪化しない。

また今年のドイツの国債利払い費はGDPの約0.8%と、08年水準の3分の1以下にとどまる見通しだという。

ドイツの債務比率は今年、欧州連合(EU)の上限である60%を下回り、財政拡大の余裕が生まれるとみられている。

ブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング氏は「市場はドイツ当局者らに対し、財政のひもを緩めろと文字通り叫んでいるが、今のところ馬耳東風だ」とし、「今や向かうべき方向ははっきりした」と続けた。

<国債増発に警戒感なし>

政府が支出を増やすと、通常は債券市場で警戒感が広がり、利回りの急上昇を招く。

しかし現在は、ECBが追加緩和を実施して利回り上昇を抑える見通しだ。また、ドイツの国債増発が債券の強気相場を揺るがすほどの規模になるとの見方は乏しい。

ショルツ財務相は財政刺激策の規模が最大500億ユーロ(550億ドル)にとどまると示唆し、実施するのは危機が訪れた場合だけだとしている。

フランクリン・テンプルトンの欧州債券責任者デービッド・ザーン氏は「数兆ユーロ規模の財政支出が話題に上らなければ、利回りは目に見えて上がらないだろう」と言う。

コメルツバンクによると、ドイツの来年の国債供給はグロスで1680億ユーロ、今年は1610億ユーロといった規模にとどまる見通しだ。

欧州では最上級格付けを有する債券が不足しているため、投資家はドイツが国債発行を増やすことを歓迎する可能性もある。

(Dhara Ranasinghe記者)

Reuters
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