アングル:カリブ海のリゾート襲う茶色い海藻、「除去と転用」作戦

2021/10/04
更新: 2021/10/04

[プエルト・モレロス(メキシコ) 29日 ロイター] – ビーチリゾート、カンクンの白い砂浜やトゥルム遺跡で知られるメキシコ・キンタナロー州に日が昇るころ、アレハンドロ・ロペス・ゼンテノ海軍将校は今日も船員らに指示を出す。大量の茶色い海藻が、カクテルを楽しむ観光客の目を汚さないよう、陸に引き揚げるのだ。

ゼンテノ氏の指揮下、メキシコ海軍は州・地元政府と協力し、コロナ禍前には年間150億ドル以上の経済規模を誇った観光地を守る作戦を展開している。同州の観光事務局が明らかにした。

サーガサムと呼ばれる海藻は、海岸に打ち寄せると黒く変色し、下水のような悪臭を放つ。あまりの強烈な臭いに観光客が体調を崩すこともある。昆虫を引き寄せ、シュノーケリングが楽しめるターコイズブルーの海を汚い茶色に変えてしまう。

海藻は今も次々と押し寄せている。2011年以来、この地域とカリブ海一帯で爆発的に増え、原因として気候変動が疑われているが、完全に解明されていはいない。

メキシコ海軍は3月以来、キンタナロー州だけでも3万7000トンを超えるサーガサムを砂浜や周辺の海から除去した。エッフェル塔3本分を超える重量だ。

「近い将来に終わる見通しは立たない」とゼンテノ氏は言う。

一方、地域一帯の企業家らは腐敗した海藻の山を金に換える方法をあれこれと探っている。飼料、燃料、建設資材からご当地カクテルまで、アイデアは多様だ。

ウエスト・インディーズ大学(バルバドス)の環境科学者、スリニバサ・ポプリ氏は海藻から抽出した成分を医薬品や食品に生かす研究に取り組んでいる。

海藻の採集コストを踏まえると商業化の壁は高いかもしれない。それでも創造性が花開いているのは確かだ。

<カクテルから家まで>

茶色い海藻から抽出される成分のうち、用途として最も大きな可能性を秘めたものの1つがアルギン酸塩だ。ジェル状の特性から、食品の増粘剤や傷の手当て、防水物質として広く利用され、需要が大きい。

コンサルタント会社、グローバル・マーケット・インサイツによると、2020年のアルギン酸塩の世界市場規模は約6億1000万ドルで、2027年には7億5500万ドルに増えると予想されている。

サーガサムを建設資材に活用した人もいる。

カンクンに近い海辺の街、プエルト・モレロスで幼稚園を営むオマール・バスケスさんは数年前からサーガサムを肥料に利用してきたが、2018年に建設資材に転用するアイデアが浮かんだ。結果としてサーガサムを焼いてできた「れんが」を使い、セメントのブロックを使うより6割安いコストで家を建てることができたという。

バスケスさんは、家を必要としている地元住民のためにこうした家を10軒建てて寄贈。「サーガブロック」として資材の特許を取得済みで、営利目的のフランチャイズにしたい意向だ。

またカンクンのリッツカールトン・ホテルは、衛生処理したサーガサムのシロップをテキーラなどに加えたカクテルを提供した。

サーガサムは供給量が一定でないため、商業利用については身構える企業もある。商業用に大規模収穫を行うと、ウミガメその他の絶滅危惧種まで無差別に捕獲してしまわないか、との懸念も生じている。

とはいえ、安全利用のための科学的な実験は続いている。ジャマイカの企業家、ダベイアン・モリソンさんは、海藻を炭に換え、まきの代わりに燃やせるようにするための実験を拡大する計画だ。タンパク質を豊富に含む海藻を使った飼料も地元のヤギ農家で好評を得たが、海藻に含まれるヒ素などの有害物質が危険水準を超えていないか確認するため、さらに実験が必要だという。

<大量発生の謎>

サーガサムは北大西洋のサルガッソ海に何百年も前から存在することで知られる。それが熱帯のカリブ海に移動してきた経緯は明らかになっていない。2010年の強烈なハリケーンで一部が大西洋中西部に運ばれ、その種から新たなサーガサム帯ができて今では9000キロメートル近くの長さに広がったという説などがある。

カリブ海に達したサーガサムがここまで爆発的に増えた理由も不明だ。科学者らは仮説として、気候変動、水質汚染、アマゾンの森林破壊、サハラ砂漠から吹き寄せたほこりなどの要因を挙げている。

(Cassandra Garrison記者、Sarah Marsh記者、Jake Spring記者)

*映像を追加し再送します。

9月29日、ビーチリゾート、カンクンの白い砂浜やトゥルム遺跡で知られるメキシコ・キンタナロー州に日が昇るころ、アレハンドロ・ロペス・ゼンテノ海軍将校は今日も船員らに指示を出す。写真は5月、カンクンの砂浜に打ち上げられた海藻を放り投げる観光客(2021年 ロイター/Paola Chiomante)
Reuters
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