自由民主党と日本維新の会は、新たな連立の枠組みの下で「強い経済」と「世界で輝く日本」の実現を目指す高市政権の方針に基づき、令和8年度税制改正に向けた基本的考え方と具体的な方針について合意に達し、12月19日「令和8年度税制改正大綱」にまとめた。本合意は、デフレ脱却と自律的な経済成長を確実なものとし、投資と分配の好循環を生み出すことを目的としている。


以下に、発表された方針の核心、背景、および今後の展望をまとめる。
令和8年度税制改正の基本的考え方
今回の改正の根幹には、「経済あっての財政」という方針がある。単年度の予算主義に縛られず、複数年の財政均衡を視野に入れた「責任ある積極財政」を通じて、大胆な危機管理投資や成長投資を後押しする姿勢を鮮明に打ち出した。
主な柱は以下の通りである。
- 物価高への機動的な対応: 基礎控除等を物価上昇に連動させる仕組みを導入し、実質的な増税を防ぐ。
- 「強い経済」の実現: 高付加価値投資を促す大胆な設備投資減税や、AI・量子・バイオ等の戦略技術分野に対する「戦略技術領域型」の研究開発税制を創設する。
- 貯蓄から投資への加速: NISAの対象年齢を0歳まで拡大し、次世代の資産形成を支援するとともに、国内市場を対象とした株式指数を追加して国内経済への投資を促す。
- 公平性の確保と再分配: 極めて高い水準の所得に対する課税強化や、ふるさと納税の健全な運用に向けた見直しを行う。
具体的な方針の要点
個人所得課税と物価高対策
物価上昇局面に対応するため、基礎控除の本則部分を直近2年間の消費者物価指数(CPI)上昇率に基づき調整する仕組みを創設する。令和8年度改正では、現行の58万円から62万円へと引き上げられる。さらに、いわゆる「178万円の壁」への対応として、中低所得者に配慮した基礎控除の特例を講じ、全ての納税者の所得税負担開始水準を178万円以上とする。
法人課税と成長投資
過去の法人税率引き下げが必ずしも国内投資や賃上げに結びつかなかった反省から、「メリハリのある法人税体系」への転換が図られる。投資や賃上げに消極的な企業には租税特別措置の適用を除外するなどの厳しい措置を講じる一方、大胆な設備投資を行う企業には即時償却などの強力なインセンティブを与える。また、賃上げ促進税制は大企業向けを廃止し、中小企業に特化した形で見直される。
地方税と暮らしの安定
大企業の集中や地価の上昇により、東京都などの一部の都市に税収が極端に偏っている現状(財政力格差)を解消する。都市の活力は地方からの人材や資源に支えられているという考えに基づき、大企業への課税ルールなどを見直すことで、都市と地方が互いに支え合える、バランスの取れた税金の仕組みを構築する。
また、国際観光旅客税を1,000円から3,000円に引き上げ、観光施策の財源を確保する。
改正の背景
日本経済はバブル崩壊後の長引くデフレと低成長に苦しんできたが、足元では過去最高水準の賃上げが見られるなど、自律的成長まであと一歩の段階にある。しかし、近年の物価上昇は国民生活を圧迫しており、所得の伸び悩みや格差の固定化が大きな課題となっている。
また、米国の関税措置による世界経済の不透明感や、急速なデジタル化・グローバル化への対応、さらには少子高齢化に伴う社会保障財源の確保といった構造的な変化が、今回の抜本的な税制見直しの背景にある。
今後の予測
今後は、本合意に基づき詳細な制度設計が進められる。特に以下の点が注目される。
- 法人税のあり方の抜本的転換: 大企業を中心に現預金を積み上げてきた企業に対し、国内投資や賃上げを促すためのさらなる税率調整や減税措置の「ターゲット化」が進むと考えられる。
- 自動車関連諸税の抜本見直し: 電気自動車(EV)への移行が進む中、道路の維持管理などの財源を将来にわたって安定させるための見直しが行われる。EVはバッテリーの影響で重量が重く、道路に与える負荷(道路損傷性)が大きいことや、ガソリン車が払っている燃料税とのバランスを考慮し、車両の重さに応じた課税が検討される。具体的には、令和10年度(2028年度)以降の新規登録車や車検時の負担について、令和9年度の税制改正で総合的な仕組みを決定する予定である。
- 安定財源の確保: 「恒久政策には安定財源」の思想の下、防衛力強化や教育無償化の財源として、租税特別措置の整理や不当廉売関税の迂回防止制度の活用が強化される見通しだ。防衛力の強化や教育の無償化など、将来にわたって続けていく政策には、借金や一時的なお金ではなく、毎年確実に入ってくる『安定した財源』が欠かせない。その資金を作るため、あまり効果が出ていない企業向けの優遇減税を廃止したり、外国企業が不当に安い価格で輸出して関税を逃れる『裏道(迂回)』を塞いだりして、公平に税金を確保する体制を強めていく。
今回の合意は、単なる税率の調整に留まらず、日本の経済構造そのものを投資主導型へと変革しようとする強い政治的意志を反映したものであると言える。
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