猛暑・干ばつ・洪水…四川省に異常気象相次ぐ 「三峡ダムは一因」

2022/09/06
更新: 2022/09/06

中国最長の河川・長江の上流に位置する四川省と周辺地域では、7月中旬から8月下旬まで猛暑による水不足、干ばつ、山火事に見舞われた。専門家は長江中流の三峡ダムを含む中国政府の水利政策が原因だと指摘した。米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が2日報じた。

相次ぐ異常気象

四川省と同省に隣接する直轄市・重慶市は過去数週間にわたり記録的な高温に見舞われた。

中国メディアは、「60年ぶりの暑さ」と表現。一部の地域では気温が45度を観測した一方、平均降雨量は例年同期と比べて51%減少した。

7月以来、長江流域の大半が高温・少雨に見舞われた。長江主流、長江に連なる洞庭湖鄱陽湖の水位は平年同期と比べて4.85メートル、6.13メートルに低下し、過去最低となった。

水利部によると、中国最大の淡水湖である鄱陽湖と2番目に大きい洞庭湖の面積は6月と比較して4分の3縮小した。

重慶市涪陵区や江津区など各地では8月18~26日にかけて山火事が頻発した。

いっぽうで、8月28日になると、高温や干ばつから一転して四川省と重慶市では豪雨に見舞われた。

「三峡ダムは季節を間違えた空調」

中国著名作家の李承鵬氏は20日、自身のブログで三峡ダムは「まるで季節を間違えて取り付けられたセントラル空調のようだ」と揶揄する記事を発表した。

記事は「三峡ダムが(長江の)流れを止めることに成功した。当時の新聞は『ダムができると冬は暖かく、夏は涼しくなる。この暑い地域にとって最高のクーラーになる』と宣伝した。しかし今の状況から、このクーラーは季節を間違えて設置されたようだと言いたい」と批判した。

四川省と重慶市、および長江の他の地域の住民は過去10~20年間、夏になると、干ばつと洪水に悩まされている。専門家は、三峡ダムの建設と関係があると指摘する。

中国河川工学者の黄万里氏は生前、三峡ダムの建設に強く反対した。当時の最高権力者、江沢民宛に3回も公開書簡を送った。1992年の書簡で「そもそも三峡ダムは建設してはいけない」と進言した。「河床変動という科学的な観点から、三峡ダム建設は「国と民に災いをもたらすプロジェクト」だと批判した。

当時、黄氏のほかに、毛沢東の秘書を務めた水文学者、李鋭氏を含む多くの専門家も建設に反対していた。1989年、建設反対派の意見をまとめた『長江 長江:三峡工程論争』が出版された。江沢民政権下の1992年4月、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第5回会議は三峡ダムの建設に関して、出席者2633人のうち、賛成1767票、反対177票、棄権664票、無投票25票で採択された。

ダム乱発で水分の蒸発が急増

黄万里氏の長男、黄観鴻博士(82)はVOAの取材に対し、「2003年に第二期工事が終了後、ダム内の水位は海抜135メートルから175メートル(設計最高水位)に上昇した。

これ以降、湖北省宜昌市夷陵区三斗坪鎮に位置するダムから重慶市までの600キロあまりの区域は幅1キロの水道となった。三峡水庫と呼ばれるようになった」と話した。

同氏によると、三峡水庫によって三峡の水面面積が拡大し、水流が緩やかになったため、水の蒸発量が急増した。「同じ理論で、支流の水面面積も増え、蒸発量が急に増えた」

黄氏は、長江上流の支流と三峡水庫地域での蒸発量の急増と水庫の底に発生している漏水が、同地域に気候変化をもたらした一因だと指摘した。

同氏は、唐の詩人、李白の詩「両岸の猿声啼いて住まず 軽舟已に過ぐ万重の山」を挙げ、唐の時代、長江の三峡地域の水流が速かったことを指摘。

黄観鴻氏は、中国の一部の地方幹部はダム建設を金儲けの手段として、長江支流で「ダム建設を乱発した」と批判した。この結果、同地域の自然環境が甚だしく破壊された。

同氏によれば、中国国土の5分の1を占める長江流域に少なくとも1万基のダムが造られた。ダムの総水面面積から大量の水が蒸発した。四川省石棉県を流れる長さ34キロの長江系の河には17基のダムが建てられている。

また、黄氏はこの1万基あまりのダムは「ほぼ漏水している」「膨大な量の貯水を失った」とした。

「今年の降水量が少ないうえ、各水庫は依然として蒸発しながら漏水している。干ばつが起き、長江の流れはほぼ止まった」

中国メディアなどは、干ばつで鄱陽湖の大半の湖床が露出し、干上がった湖底に亀裂が走る様子を報道した。黄観鴻氏は、三峡ダムが鄱陽湖と長江の間の水量の自然調節を妨害したことが干ばつの最大の原因だとした。

父・黄万里氏は生前、三峡ダムによって毎年長江上流の河床で1億トン以上の石や砂礫が堆積し、重慶港などで航行に深刻な妨害を与え、重慶市江津区などの上流地域で深刻な洪水が発生すると警告した。

中国SNS上で投稿された動画によると8月、四川省の猛暑で長江最大の支流である嘉陵江が長江との合流地点(重慶市)で干上がり、干上がった江底から大量の丸い石が露出した。

ドイツ在住の水利研究者、王維洛博士は「動画は黄万里教授の警告が正しかったことを証明した」とVOAに語った。

張哲
張哲
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