外国人が母国の運転免許を日本の免許に切り替える「外免切替」制度は、申請件数の急増や交通事故の多発によって社会問題となっている。政府および警察庁は、2025年から申請要件や試験内容の厳格化に踏み切り、制度の抜本的な見直しを進めている。
この制度では、外国人が母国の運転免許を日本の免許に変えることが可能である。2024年の申請件数は7万5905件に達し、過去最多を記録した。この10年で2.3倍に増加したが、制度の緩さで事故や不正行為が相次いでいる状況を受けて、政府と警察庁は2025年5月から制度改革に着手した。
制度の仕組みと急拡大の背景
外免切替制度は、外国の運転免許保持者に対して日本の免許取得を認める特例措置である。この免許を取得すれば、日本国内だけでなく、国際運転免許証を通じて約100か国での運転が可能となる。特に自国の免許が国際運転免許証として通用しない中国やベトナムといったジュネーブ条約非加盟国の出身者から、多くの申請が寄せられている。
申請には「母国での免許取得後3か月以上の滞在」「日本語翻訳文の提出」などが必要とされるが、実際の運用には重大な抜け穴が存在していた。
知識確認試験は○×形式10問中7問正解で合格となり、合格率は約90%に達する。技能試験の合格率は30%前後にとどまるものの、複数回の再試験によって取得できる例が多い。一方、日本人が普通免許を取得する場合、学科試験で95問中90問の正解が求められており、制度の不均衡が明らかとなっていた。
四つの重大な問題点
「小学生でも合格」の甘い試験基準
現行の知識試験は、「横断歩道の手前何メートルで追い越し禁止か」(正解は30メートル)など基礎的な設問が中心であり、イラスト入りの○×問題10問中7問正解で合格となる。技能試験でも、例えば三重県では34歳のペルー人男性が高速道路を逆走する事故を起こし、運転能力の不足が浮き彫りとなった。
住所確認の抜け穴
観光ビザで入国した中国人が都内ホテルの住所を利用して免許を取得する事例が相次いでいる。2023年には北海道で中国人観光客がレンタカーで事故を起こし、住所不定のために賠償問題が長期化した。警察庁の調査では、外免切替制度の利用者のうち23%が住民票未登録であった。
事故の急増と社会的コスト
外国人ドライバーによる交通事故は2024年に7286件に達し、過去6年間で最多となった。2025年5月には、埼玉県三郷市で中国人ドライバーが小学生4人をはねて逃走する事件が発生。新名神高速道路ではペルー人ドライバーが14キロメートルにわたって逆走し、多重衝突事故を引き起こした。外国人ドライバーの任意保険未加入率は32%に上り、日本人の5倍であり、賠償不能の問題が深刻化している。
ビジネス化する不正行為
予約枠の転売やブローカーの仲介が横行し、品川区の鮫洲試験場では早朝から20人以上の列が常態化している。中国では「日本免許取得ツアー」が商品化され、3日間の短期滞在で免許を取得するサービスを広く提供している。
政府の対応と制度改正案
警察庁は2025年5月21日、以下の緊急対策を発表した。
住所確認の厳格化
住民票の写しは提出の原則とし、観光客などの申請を排除する方針を示した。
知識試験の難易度向上
問題数を10問から30問に増加させ、記述式の導入も検討中である。
技能試験の基準強化
合格率の目標を30%から50%へ引き上げ、試験の厳格化を進める。
不正取得への対策
母国で発行された運転経歴証明書の電子認証を導入し、偽造防止を図る。
これらの対策は2025年6月に発表予定の「骨太の方針」に盛り込まれ、2026年度からの本格的な制度施行を目指す。なお、韓国ではすでに「外国人登録証」の提示を義務化しており、日本も同様の対応が求められている。
駆け込み切り替えの動き
外免切替制度の厳格化方針が公表されるなか、改正前に日本の免許を取得しようとする外国人による“駆け込み切り替え”が各地の免許センターで急増している。
5月現在、都内の免許センターでは午前6時台から受付前に行列ができ、1日あたり12~15人が面接を受けている。希望者の増加により、3月以降は予約制へ移行した。警視庁の予約サイトでは、早朝の段階で予約が埋まる日が続いている。
国際比較と今後の課題
フランスやドイツでは、技能試験の免除対象を21か国に限定するなど、相互主義に基づいた厳格な制度運用を行っている。これに対し、日本では中国やベトナムなど相互主義が成立していない国にも広く門戸を開いてきた経緯がある。
今後の課題は三点ある。第一に、海外在住の日本人に対する影響である。たとえば、アメリカ在住者が現地免許を日本の免許に切り替える際、相互主義の新規制が逆適用される可能性がある。第二に、地域ごとの技能試験合格率のばらつきを是正する必要がある。東京の合格率が28%であるのに対し、地方では45%に達しており、明確な差が存在している。第三に、多言語対応試験の質を高める必要がある。現在は10言語に対応しているが、翻訳の誤りに関する指摘が多く寄せられている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。