モルガンの新たな調査によると、トランプ米大統領の現行関税政策により、アメリカの年間売上高1千万~10億ドルの中規模企業が823億ドル(約12兆円)の輸入コスト増に直面する可能性がある。特に、卸売業や小売業など利益率の低い業界は、コスト上昇の吸収が困難になりかねないと警告している。
この調査結果は、7月2日にJPモルガンが発表した2つの報告書に基づいている。1つは業種別・貿易相手国別に見た関税の影響を分析したもので、もう1つは都市圏ごとに中規模企業への影響を分析したものだ。両報告書は、アメリカの民間部門の売上高と雇用の約3分の1を支える中規模企業が、変動する貿易環境に対して極めて脆弱であることを浮き彫りにしている。
中規模企業は、輸入品の多くを高関税が課される国、特に中国から仕入れているため、関税の影響を強く受ける。JPモルガンの分析によると、中規模企業の輸入の約21%が中国からで、大企業よりも比率が高い。そのため、関税によるコスト増のリスクが大きいという。
トランプ大統領は当初、中国からの輸入品に最大145%の関税を課すとしていたが、交渉の結果、現在は55%に引き下げられている。
報告書では、「一時停止中の関税が再び発動されたら、中規模企業は大きな初期コストを負担する可能性がある。一方、今後の貿易協定で関税がさらに引き下げられれば、影響は限定的になるかもしれない」と分析している。
トランプ氏の関税政策は、ほぼすべての輸入品に一律10%の関税を課すとともに、相互関税を導入している。一部の高関税は交渉中で一時停止されているが、7月9日に期限を迎える。トランプ氏は、「誠意ある交渉」を行う国に対して、延長の可能性を示唆していたが、直近では「考えていない」と明言している。
JPモルガンのアナリストは、関税が長期的には国内投資や生産の国内回帰を促進し、国際競争の緩和によって一部企業は恩恵を受ける可能性があると分析する一方、他の企業は大幅なコスト増加に直面する可能性があると指摘した。
JPモルガンの業界別レポートによると、卸売業や小売業は最も大きなリスクにさらされている業種だ。これらの業種は輸入品への依存度が高く、利益率が低い場合が多いため、コスト増を吸収できず、価格の引き上げを通じて経済全体の影響に波及する可能性がある。
また、化学製造業(医薬品や化粧品など)、輸送・倉庫業、輸送機器製造業、コンピュータ・電子機器業界なども、全面的な関税適用による影響を受けやすいとしている。
トランプ氏や政府関係者らは、関税が不公平な競争から国内産業を守り、製造業の雇用をアメリカに取り戻し、約1兆ドルの貿易赤字に対処する有効な手段だと主張している。
今年1月にトランプ氏が大統領に就任して以来、アメリカ税関国境保護局(CBP)は関税収入として1060億ドル以上を徴収した。そのうちの815億ドルがトランプ政権の貿易政策によるものだ。CBPは、3万5千件以上の高リスク貨物を対象とした取り締まりを通じて、さらに163億ドルの収入を確保し、関税徴収の成功率は99.5%を超えると報告している。
議会予算局(CBO)は、トランプ氏の関税政策が今後10年間で連邦赤字を2.8兆ドル削減できると推定している。ただし、経済成長への軽微な影響やインフレ率のわずかな上昇を考慮に入れている。
一方で、こうした包括的な関税措置には法的な異議申し立ても起きている。5月には連邦貿易裁判所が、4月2日に導入された関税措置は大統領の緊急経済権限を逸脱しているとの判決を下し、現在、控訴審で争われている。
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