【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

ジェノサイド加速の懸念 ウイグルに新たな「弾圧の推進者」着任 ウイグル団体が警鐘

2025/07/08
更新: 2025/07/09

2025年7月、中国共産党は、深刻な人権侵害が指摘される新疆ウイグル自治区のトップである党委員会書記に、陳小江(ちん・しょうこう)を任命した。かつて内モンゴル自治区で強硬な民族同化政策を推進した人物の就任に、国際社会からはジェノサイド(集団殺害)政策がさらに加速するのではないかという強い懸念の声が上がっている。

この人事を「明白な植民地支配の継続だ」と断じるのは、日本ウイグル協会の田中サウト副会長だ。同氏への取材から、今回の人事と、その裏で進む不気味な計画の全貌が見えてきた。

「弾圧の推進者」がウイグルへ

中国共産党は新疆ウイグル自治区で、ウイグル人を対象に強制収容、監視、同化政策を進めており、宗教や文化の自由を著しく制限している。この行為は国際社会から人権弾圧と非難され、米国はジェノサイドと認定し「ウイグル強制労働防止法」を制定した。欧州連合や英国、カナダなども制裁や輸入規制を導入し、中国製品のサプライチェーン見直しが進む。中国側はこれを「内政干渉」として反発している。

「彼はウイグル人のために考えるよりも、北京の命令に従うだろう」

田中氏は、新トップに就任した陳小江をこう評する。陳は、かつて内モンゴル自治区でモンゴル語教育を制限し、標準中国語教育を強制する政策を主導。これに抗議した人々を厳しく弾圧した経歴を持つ、いわば「民族同化政策の推進者」だといえる。

彼の前任者であり、ウイグルでの強制収容所建設を主導したとされる陳全国(ちん・ぜんこく)は、その苛烈な手法から「ジェノサイドの設計者」とまで呼ばれた。その後任に、同様に強硬な手法で知られる陳小江を据えたことについて、田中氏は「習近平体制が続く中で、ウイグル政策が変わるという期待はできない」と断言する。北京からの命令を忠実に実行する「弾圧の推進者」の投入は、ウイグルの人々にとって絶望的な状況の始まりを意味するのかもしれない。

「消える人々」と「ハラルの臓器」の謎

この不穏な人事の裏で、さらに不可解な計画が進行している。新疆ウイグル自治区内で、新たに6か所の「臓器移植センター」の建設計画が進んでいるというのだ。

「ウイグル人は火葬をせず、臓器提供の文化もほとんどない。それなのになぜ、これほど多くの移植センターが必要なのか?」田中氏はこの計画に強い疑念を抱いている。

その答えのヒントは、ジャーナリスト、イーサン・ガットマン氏の著書『臓器収奪-消える人々(The Slaughter: Mass Killings, Organ Harvesting, and China’s Secret Solution to Its Dissident Problem)』にある。同書によれば、収容所では「1日に68人」ものウイグル人が姿を消しているという。また、田中氏はこうも指摘する。

その頃、撮影された一枚の写真が話題となった。

(トフティ氏提供)

 

新疆ウイグル自治区カシュガル空港で撮影したという写真は、中国語とウイグル語で「特殊旅客、人体器官運輸通路(臓器移植のために設けられた特別な輸送対象者とルート)」との優先通路の床案内ルートが設けられていた。

ウイグル人の臓器移植について田中氏は次のように語っている。

「中東の富裕層向けに、イスラムの戒律に則った『ハラルの臓器』が高値で取引されている。豚肉を食べず、飲酒もしないウイグル人の臓器は、まさにその供給源として狙われているのではないか」

収容所での強制的な「健康診断」空港に設置された「臓器移植のための床案内」そして、今回明らかになった移植センターの増設計画。これらの断片的な情報が繋がるとき、ウイグルで起きている人権侵害は、新たな、そしてよりおぞましい段階へと進んでいる可能性が浮かび上がる。

問われる日本の姿勢

今回のトップ交代は、単なる人事異動ではない。それは、中国共産党がウイグルの人々に対する弾圧の手を緩める意思が全くないことの明確な表明だ。

「これは明白に、中国共産党による植民地支配だ」

田中氏のこの言葉は重い。遠い国の話ではない。日本企業もサプライチェーンを通じてこの問題に無関係ではないことが指摘される中、我々はこの「沈黙のジェノサイド」にどう向き合うべきなのだろうか。

大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。