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停学は減少 暴力は増加 オバマ時代の学校規律緩和が招いた危機

2025/12/21
更新: 2025/12/21

デビッド・レインさんは、スクールバスの中でいじめっ子が中学生の息子を突き回し、座る場所を命令し、眼鏡を壊したとき、当然罰が下るものだと思っていた。

数ヶ月後、米国ニューヨーク州北部のその学校で他の3人の生徒も同様の被害に遭っていたことを知ったレインさんは、加害者が学校の「修復的司法」政策の下でお咎めなし(フリーパス)になったと告げられた。

レインさんによれば、息子は一度も謝罪を受けていない。

「彼らは問題を隠蔽したのだ」と彼は語った。

ニューヨーク州ニューバーグの学区は、全米50州で約1,900万人の生徒を抱える1,450以上の学区の一つであり、修復的司法を実践している。これらの数字は、学区のウェブサイトや、公教育における左派的政策を追跡している団体「ディフェンディング・エデュケーション(Defending Education)」から引用されたものだ。

(出典:Defending Education 2025年11月13日時点)

修復的司法アプローチの主な目的は、黒人およびヒスパニック系生徒の停学率を下げることである。全米教育協会の機関誌に掲載された修復的司法に関する記事は、従来の規律政策は「しばしば潜在的な偏見や制度化された人種差別によって助長されている」と述べている。

多くの保護者と同様に、レインさんは息子の学校にそのような政策があることさえ知らず、ましてやそれが全国で広く採用されていることも知らなかった。

「初犯であれば見逃すことも理解できるが、何度も何度も繰り返されるのであれば、それは修復ではない」とレインさんはエポックタイムズに語った。「それは社会に対する虐待だ」

ドナルド・トランプ大統領は今年初め、「差別的で違法な『公平性のイデオロギー』に基づく」学校規律が子供たちにもたらすリスクを政府はもはや容認しないとする大統領令を出し、こうした政策を標的にした。

これらの慣行は約20年前に学校政策に入り込み、オバマ政権時代に連邦資金と結びついた。

ニューヨーク州スケネクタディ市学区の高校社会科教師クリス・オグニベーネ氏は、この規律アプローチについて保護者との対話は最小限であり、学校暴力の減少や学業成績の向上に役立ったという証拠もほとんどないと語る。

「今や学区の恒久的な一部となっているが、乱用されている割に成果が出ていない」と彼はエポックタイムズに語った。「彼らは行動を修正するという長期的な視点を持っていない」

2025年10月9日、ニューヨーク市在住のデビッド・レイン氏。レイン氏によると、中学生の息子がスクールバスでいじめられたが、学校の「修復的司法」方針の下、加害者は謝罪せず、何の処罰も受けなかったという Adhiraj Chakrabarti/The Epoch Times

修復的アプローチ

修復的司法の概念は刑事司法制度から始まり、「学校から刑務所へのパイプライン(学歴社会からの脱落と犯罪者化)」を懸念する民権活動家の勧告を受けて、公教育に適応された。

ブリタニカ百科事典は、修復的司法を「犯罪行為によって引き起こされた問題を解決すること、または被害を修復することに焦点を当てる」アプローチと定義している。通常、それは処罰よりも共感と理解に重点を置き、破られた法律よりも人間関係に与えられた被害に焦点を当てることを意味する。

学校に無料の教材や指導用資料を提供する全国組織「ウィー・アー・ティーチャーズ、We Are Teachers」は、修復的司法を共感、尊重、責任に基づく実践と定義し、「生徒が自分の行動の影響を理解し、責任を取り、癒やしのプロセスに積極的に参加することを促すもの」としている。

同団体のウェブサイトにある規律アプローチの比較では、「朝から家庭内で激しいトラブルがあり」学校に遅刻した生徒を例に挙げている。

一つのシナリオ(従来の規律)では、教師が生徒の遅刻を叱責する。その後、生徒は食堂で喧嘩になり、「学校の警備員が介入し……最終的にその日は少年鑑別所送りとなり、貴重な授業時間を逃し、前歴がつく」ことになる。

対照的に、修復的規律のアプローチでは、生徒は遅刻して登校するが、「彼の苦悩に気づいたスタッフに温かく迎えられる」。同級生との「小さなトラブル」の後、彼は相手との対話を助けられ、その後「コミュニティ・プロジェクトを手伝うことで気分が向上し」、仲間との絆を深めることができるとされる。

ニューバーグ拡大市学区のウェブサイトには、事案に関与した全員が集まって他者の声を聴き、自分の声を届ける「修復的サークル」の使用を強調する典型的な学区政策が概説されている。

教師、カウンセラー、管理職は、サークルに参加するための訓練を受けることができる。

多くの学区は、フルタイムの修復的司法スタッフを雇用している。ニューバーグ教育委員会は最近、プログラム・ディレクターに年間12万1,000ドル以上を支払うことを決議した。

保守系のシンクタンク、マンハッタン研究所の7月の報告書によると、ニューヨーク市公立学区は過去10年間で、修復的司法の従業員に約9,700万ドルを費やした。

元教師のボブ・カパノ氏によれば、ほとんどの保護者は修復的司法政策を知らない。停学率を低く保ち、卒業率を高く維持するために、これらの政策は控えめに扱われている可能性があるという。

2025年10月7日、ニューヨーク市でボブ・カパノ氏。カパノ氏は、多くの保護者が修復的司法政策の存在を知らないと述べ、停学率を低く抑え、卒業率を高く保つために、この政策が軽視されている可能性があると指摘した Adhiraj Chakrabarti/The Epoch Times

カパノ氏はエポックタイムズに対し、今年初めにニューバーグのキャンパス外で銃撃を伴う大規模な乱闘が起きた際も、ニューバーグの学校で教師が襲撃された際も、公の議論はなかったと語った。

「(問題を起こした生徒がどう処遇されたかについての)情報はすべて密室に保管されている」と彼は言う。「常識があれば、何かがおかしいと気づくはずだ」

ニューバーグでは、数人の保護者がFacebook上で学区の規律政策に対する不満を表明している。

ある中学生の母親は、息子が誤って同級生にぶつかった後に顔を殴られたことについて苦情を申し立てたところ、「息子がぶつからなければ、殴られることもなかった」と言われたと語った。

ニューヨーク市、ニューバーグ、スケネクタディの各学区は、コメントを求める取材に応じなかった。

人種別の「リスク比率」

2014年初頭、教育省と司法省は「親愛なる同僚へ」と題した書簡を発行し、黒人生徒を不釣り合いに多く停学させた場合、民権法に基づき公立小中高校が連邦資金を失う可能性があると発表した。

停学に代わる手段として、両省は次のように記している。「問題行動を減らし、安全な学習環境を維持するために有効なのは、対話による紛争解決や『修復的』な対話、カウンセリング、そして良い行動を体系的に褒めて伸ばす支援策(肯定的介入)など、幅広い戦略を組み合わせたプログラムである」。

この政策は、学区に対して人種別の停学率を追跡・報告することを義務付け、個々の学区の人口構成に関係なく、白人以外の生徒に対する「不均衡な影響(ディスパレート・インパクト)」の比率を下げるよう命じた。

2023年8月16日、カリフォルニア州オレンジ郡のヨルバ中学校で、生徒たちが初日の授業の準備をしている John Fredricks/The Epoch Times

書簡によれば、障害のない黒人生徒は、白人の同級生に比べて停学または退学になる可能性が3倍以上高く、公立学校の人口のわずか15%であるにもかかわらず、停学処分を受けた生徒の35%を占めていた。

オバマ政権の指針に従い、教育省は2016年、規律における不均衡を測定するための「リスク比率」を設定することを各州に求めた。

この比率は、黒人生徒の停学率を白人生徒の停学率で割ることで算出される。

例えば、200人の黒人生徒のうち50人が停学になり(比率0.25)、500人の白人生徒のうち25人が停学になった(比率0.05)場合、その学区のリスク比率は5となる。

ウィスコンシン法律・自由研究所(WILL)は、州内の公立学校における修復的司法ノルマの影響を監視した。同研究所の2017年の報告書は、修復的司法政策によって停学率が低下する一方で、「学校の雰囲気や安全性に対する懸念」が高まり、教師たちは「不満を抱き、恐怖さえ感じるようになった」と結論づけている。

2015年5月13日、ニューオーリンズのアンコール・アカデミー・チャータースクールでダンスの授業を受ける生徒たち。ドナルド・トランプ大統領は4月、教育省に対し、懲戒処分を含め、学校における人種差別への対処方法を示すよう指示した Mario Tama/Getty Images

2018年、第1次トランプ政権下で、オバマ時代の書簡は撤回された。これは、この政策が学校の安全を損なうとした連邦学校安全委員会の報告書の勧告を受けたものだ。

それにもかかわらず、多くの学区は、居残り、停学、退学といった懲罰的手段の代替案として、規律手続きのための複雑なフローチャート、セラピー用語、グループ対話など、修復的司法アプローチに固有の実践を使い続けた。

カリフォルニア州教育省のデータを非営利団体「ポピュレーション・リファレンス・ビューロー」のKidsDataプロジェクトがまとめたところによると、2017年から2019年の間にカリフォルニア州の中学校または高校で少なくとも1回喧嘩をした黒人生徒の割合は10.9%で、ヒスパニック系生徒の7%、白人生徒の5.7%と比較して高くなっている。

 

フロリダ州教育局がアラチュア郡公立学区へ送った通知の内容を見ると、オバマ政権の指針が(トランプ政権下で)撤回された後も、なお連邦政府の政策が現場に強く義務付けられていた実態がよく分かる。

エポックタイムズが入手した2022年6月6日の電子メールの中で、州当局は同学区に対し、黒人生徒の四半期停学率が州の定めた比率3.0を上回っているため、翌年度の特別支援教育補助金の15%を比率の削減に充てなければならないと通告した。

この決定は、「停学者が多い特定の学校に、もともと黒人生徒が集中している」といった個別の事情は一切考慮せず、あくまで学区全体の人口比率だけを基準に下されたものだった。

2023年、オバマ政権の政策は、教育省民権局と司法省民権部が共同で出した「生徒規律における人種差別問題に対処する」ための書簡を通じて、ジョー・バイデン大統領の下で事実上復活した。

フロリダ州のアラチュア学区のウェブサイトには現在、修復的司法政策の記載はなく、同州のほとんどの学区と同様に「ディフェンディング・エデュケーション」のリストにも入っていない。同学区は取材に対し回答しなかった。

修復的司法の妥当性を主張する声

ニューヨーク州オールバニの活動家、ゲリアン・フォスター氏は、修復的司法の成否を「3ヶ月ごとの停学率」という数字だけで判断しないのであれば、この手法は全国的に効果を発揮しうると考えている。

学校は、過ちから学び、教室から排除されなかった生徒たちの自信の向上、成長、成熟を強調すべきだと彼女は言う。

2025年1月15日、ロサンゼルスのパシフィック・パリセーズ火災で焼失したマルケス小学校から避難してきた生徒たちに、ノラ・ステリー小学校を案内する教師 Chris Delmas/AFP via Getty Images

フォスター氏はエポックタイムズに対し、修復的司法を「従来の指導と並行して行う、単なる別メニューの一つ」として扱っている限り、教師や管理職が成功を収めることはないだろうと語った。

彼女によれば、多くの学校は単に「決められた手順のリスト」をこなしているに過ぎないという。「その手順に従って生徒に猶予を与えれば、州の定めた数値目標はクリアできる。だが、それでは本当の解決にはならず、結局は停学に至る。必要なのは、学校の規則から『停学』という選択肢をなくし、対話を尽くすことで生徒の更生を促す、より粘り強い取り組みだ」

2022年の報告書で、「教育正義のための市民シンクタンク」は、ノースカロライナ州、カリフォルニア州、イリノイ州の大規模学区において、黒人やヒスパニック系の家庭がこれらの進歩的な実践を歓迎していると述べた。同組織は、学校職員ではなく保護者が修復的サークルの調停者を務める、シカゴ公立学校で採用されている「ピースセンター」モデルを支持している。

このシンクタンクは、修復的司法を単なる個々の生徒の行動修正ではなく、学校文化を変えるためのツールとして推進している。

「そのためには、教育者が黒人やヒスパニック系の保護者・生徒と、心から信頼し合える協力関係を築かなければならない。社会に根深く残る人種差別を最もよく理解しているのは彼らだ。彼らと共に、単なる罰則に頼らない、生徒の力を引き出すような真の安全を追求してこそ、学校文化を根本から変えることができる」とウェブサイトに記されている。

見過ごされる問題行動

マンハッタン研究所の報告書によれば、実務において修復的司法の実践は「繰り返される不適切な行動に対処する効果がほとんどない、台本通りの会話に終わることが多い」。報告書はある事例を挙げている。ユダヤ人の教師に対してナチス式の敬礼をして苦しめた生徒たちが、「調停室」で時間を過ごしただけで教室から排除されず、被害者が訴訟を起こす事態となった。

2022年6月のテキサス州上院特別委員会の公聴会で、共和党のポール・ベッテンコート州上院議員は、死んだ猫の袋を持って校内を歩き回る生徒の「忌まわしい」行動について述べた。学校の修復的司法政策のため、その高校生は重罪である動物虐待で警察に通報されることはなかったと、エポックタイムズは以前報じている。

その少年は後に、テキサス州ユバルディの学校銃撃事件で19人の生徒と2人の教師を殺害した。

2022年5月26日、テキサス州ユバルデのロブ小学校で発生した銃乱射事件の犠牲者追悼式に人々が訪れる。この銃乱射事件は、米国史上最悪の学校銃乱射事件の一つで、児童19人と教師2人が死亡した Michael M. Santiago/Getty Images

5月にニューヨーク市スタテンアイランドの公立学校で、8歳の児童が鉛筆でスタッフを刺し、同級生を脅したとされる事件があったが、マンハッタン研究所の報告によれば、その児童は調停室に送られただけで罰は受けなかった。

サンディエゴでは、ある中学生が生徒への痴漢行為を繰り返したにもかかわらず、処分を受けなかった。学校スタッフが、彼に対する措置が特別支援生徒を保護する学校政策に抵触することを懸念したためであると、教育省民権局に提出された2024年の苦情申し立てに記されている。

「修復的司法は恐ろしいものだった」と、「マムズ・フォー・リバティ」の共同創設者ティファニー・ジャスティス氏は、7月にワシントンで開催されたティーチャー・フリーダム・アライアンスの年次サミットで語った。「子供たちは加害者と一緒に『クンバヤ(手を取り合う)』サークルに座り、被害者としての自分の役割について話さなければならないのだ」

ウィスコンシン法と自由研究所の研究ディレクター、ウィル・フランダース氏は、2025年7月にワシントンで開催された教師の自由サミットで、修復的司法の実践の非効率性について議論した (提供:the Teacher Freedom Alliance)

一方、ウィスコンシン法律・自由研究所の研究ディレクター、ウィル・フランダースによれば、ウィスコンシン州の停学率は2025年初頭から顕著に上昇している。「今は(比率を下げるという)圧力がなくなっているからだ」という。

停学率はさておき、行動上の問題を示す他の指標は上昇し続けている。

学校内犯罪に関する最新のFBI報告書によると、学習施設における犯罪事件の数は、2020年の10万810件から2024年には33万件近くへと3倍以上に増加した。暴行が最も多い事件タイプ(計53万8,778件)であり、次いで窃盗(23万4,601件)であった。これらは、5年間の小中高および高等教育機関を合わせた合計である。

さらに、全米教育統計センターは、2021年から2022年の学年度にかけて、公立の小中高校で85万7,500件の暴力事件が発生したと報告している。

 

州の対応

トランプ大統領が4月に出した大統領令は、教育省(現在は解体作業が進行中)に対し、120日以内に現状報告書を提出するよう命じた。その主な内容は、「人種差別の是正」を口実に学校現場で導入されている不適切な規律方針に対し、政府としてどう対処すべきかをまとめることである。

ホワイトハウスは修復的司法の実践を終了させるというトランプ大統領の命令に関する進捗報告書を公表しなかったが、エポックタイムズの最新情報の求めには回答した。

「トランプ政権は、学校の規律が人種などの属性(多様性・公平性・包括性:DEI)に左右されるのではなく、『実際にどのような問題行動があったか』という事実に基づいて厳正に判断されるよう努めている。それによって、アメリカの教室に安全と秩序を取り戻すことが目的だ」と、ホワイトハウス広報官のリズ・ヒューストンは11月25日のメールで述べた。

州レベルでは、過去2年間に共和党主導の11州が、従来の規律措置と教師の統制権を促進する法律を可決、または係争中である。一方で民主党主導の10州は、問題行動を起こした生徒を罰するための進歩的な代替案を促進する法律を可決、または係争中である。全米州議会議員連盟によると、ロードアイランド州はその両方の側面にまたがる法律を可決した。

一方、教育政策のリーダーや組織によれば、規律改革は教室に最も近い大人である教師や校長から始めるべきだという。

カリフォルニア州ガーデナにあるロサンゼルス統一学区内のガーデナ高校のロッカー。2025年8月14日撮影 John Fredricks/The Epoch Times

「これらの学校には、期待値をリセットし、秩序を回復し、授業時間を守るための、即時の構造的支援が必要だ」とマンハッタン研究所の報告書は述べている。

学級経営に関する最近の討論会で、アメリカ・エンタープライズ研究所のパネリストたちは、教育界が直面している新たな課題を強調した。具体的には、「(処罰よりも心のケアを優先しすぎる)セラピー文化」の蔓延や、指導権限を奪われた教師に対する敬意の低下といった問題だ。

その結果、教室内は混沌とした状態になり、教師は心身ともに燃え尽き、熱心に学びたい生徒たちは絶え間ない混乱の中で置き去りにされているという。

非営利団体「researchED」の創設者トム・ベネット氏は、このイベントで次のように断言した。 「子供たちが規律を守り、礼儀正しく振る舞うことができなければ、教育における他のいかなる目標も達成できない。混乱の中でまともに成長できる子供など、一人もいないのだ」。

複数の日刊紙、雑誌、専門媒体で執筆してきたジャーナリストであり、これまでに連邦政府の身元調査官やメディケア不正対策のアナリストとしても勤務した経歴を持つ。ニューヨーク州立大学バッファロー校を卒業し、現在はニューヨーク州北部を拠点に活動している。