南京博物院をめぐる文化財消失の疑惑が広がる中、中国国営テレビCCTVの文化番組が「事実と異なる人物設定で取材していた」として批判を浴びている。
番組で「名門一族の子孫」として紹介された出演者について、当事者の一族が公式声明で全面的に否定した。
問題となったのは、12月22日に放送された中国国営テレビの番組である。司会者は出演者の龐戎氏を、江南の著名な収蔵家一族・龐莱臣家の子孫だと紹介した。番組内で龐戎氏は、一族の歴史や文化にまつわる話を語り、視聴者に「本物の一族関係者」であるかのような印象を与えた。
しかし翌日、龐莱臣家の直系子孫である龐叔令氏が、「亞洲週刊(香港を拠点とする中国語の国際時事誌)」に声明を発表し「番組に登場した人物は南潯の龐家とは一切関係がない」と明確に否定した。

この番組が放送された時期にも、疑問の声が上がっている。
南京博物院では、66年前に龐家が「寄贈」したとされる137点の文化財のうち、複数の重要作品が行方不明になっている問題が再び注目されていた。最近では、その一部とみられる作品が高額で競売市場に現れ、内部関与を疑う声が強まっている。
専門家の中には、当時の「寄贈」は自由な意思によるものではなく、事実上の強制だったと指摘する人もいる。拒否すれば、財産没収や身の安全が脅かされる状況だったという証言もある。

こうした状況の中で、中国国営テレビが「龐家の子孫」を前面に出した番組を放送したことについては、世論の批判を和らげる意図があったのではないかとの見方が出ている。実際、龐叔令氏は、亞洲週刊に発表した声明の中で、新華社通信など国営メディアの報道についても「事実と食い違う内容が含まれている」「一方的で公平性に欠ける」と厳しく批判した。
中国国営テレビはこれまでも、やらせや事実と異なる番組制作がたびたび問題になってきた。最近では、別の番組でAIが作った映像を実写の歴史映像として放送していたことも明らかになっている。
文化財消失という深刻な疑惑の最中に起きた今回の偽装取材は、国営メディアへの不信をさらに強める結果となった。真相が明らかにされない限り、この問題が収束する兆しは見えていない。

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