論評
空中発射型の極超音速巡航ミサイルは、高強度紛争で重要な戦略的価値を持つ一方、技術的な難度も高く、空中打撃能力の中核を担う兵器として注目されてきた。
米国とオーストラリアが共同開発する極超音速攻撃巡航ミサイル(HACM)が初の試験投下を実施したことが明らかになり、その開発状況に再び関心が集まっている。
HACM、初の飛行試験で投下
米空軍報道官は10月5日、米豪両国が「南十字星統合飛行研究実験(SCIFiRE)」の協力枠組みに基づき、オーストラリア国内の指定された試験場でHACMの飛行試験を実施したと明らかにした。
試験では、オーストラリア空軍が試験用ミサイルを航空機から投下した。具体的な試験内容について、両国政府は現時点で公表していない。
HACMの技術的な中核は、開発難度の高いスクラムジェットエンジンにある。
米政府監査院の資料などによると、HACMは2段階の推進方式を採用する。まずロケットブースターでスクラムジェットが作動可能な速度まで加速し、その後スクラムジェットに切り替えて、大気圏内をマッハ5以上で巡航する。
2022年9月、米防衛大手レイセオンとノースロップ・グラマンはHACMを共同開発すると発表した。レイセオンがミサイルシステムの統合を担当し、ノースロップ・グラマンがスクラムジェットエンジンを供給する。
両社によると、HACMは炭化水素系燃料を使用し、高速飛行中に取り込んだ空気中の酸素を利用して燃焼することで、マッハ5を超える速度で飛行する。
極超音速巡航ミサイルの特徴
ロケットで高高度まで打ち上げた後に滑空する極超音速滑空兵器とは異なり、極超音速巡航ミサイルは吸気式エンジンを使用する。一定以上の速度に達すると、大気中の酸素を取り込んで燃料を燃焼させ、継続して推力を生み出す。このため、高度や進路を変えながら飛行できる。
米空軍のHACMは、高速飛行や機動性、敵の防空網を突破する能力を重視して設計されている。
一般的な弾道ミサイルより低い高度を飛行できるうえ、極超音速で機動するため、地上レーダーからの探知距離を短くし、防空・ミサイル防衛システムによる発見や進路予測、迎撃を難しくする効果が期待される。
これまでにも、2段階方式を採用した吸気式極超音速飛翔体の試験が行われてきた。
代表例が、ボーイングの実験機X-51「ウェーブライダー」である。機体が高速飛行時に生み出す衝撃波を利用する「ウェーブライダー」と呼ばれる空力設計を採用し、極超音速飛行時の揚抗比を高める仕組みだ。
米新興防衛企業キャステリオンが開発する極超音速ミサイル「ブラックビアード」も2段構成を採用する。ただし、第2段に推進装置があるかどうかは明らかになっておらず、極超音速巡航ミサイルに分類できるかは現時点で判断できない。
HACMのようなスクラムジェット搭載兵器は、大気圏内を極超音速で巡航できる点に特徴がある。
一方、実用化のハードルは高い。スクラムジェットでは、エンジン内部の空気が超音速で流れる状態を保ちながら、安定して燃焼を続けなければならない。
さらに、極端な空力加熱への対応や耐熱材料、飛行制御など、複数の技術的課題がある。
極超音速ミサイル開発の難しさ
米国の極超音速兵器開発で苦戦しているのはHACMだけではない。
過去10年以上にわたり、米空軍、海軍、陸軍が進めてきた空中発射型や地上・艦艇発射型の極超音速兵器計画は、たびたび技術的な問題や計画の遅延に直面してきた。
なかでも、スクラムジェットを使う極超音速巡航ミサイルは技術的な難度が高い。
米海軍は2025年、空中発射型極超音速巡航ミサイル「極超音速空中発射攻撃兵器(HALO)」計画を中止し、「ブラックビアード」の活用へと方針を転換した。
コストも大きな課題である。
米議会予算局(CBO)が2023年1月に公表した報告によると、空中発射型のブースト・グライド式極超音速兵器「AGM-183A ARRW」の推定調達価格は、300発を購入した場合で1発約1500万ドル、100発の場合は平均約1800万ドルに上る。
より技術的な難度が高いHACMは、高性能である一方、高価格で配備数が限られる兵器になるとの見方がある。実際の1発当たりの価格は、ARRWをさらに上回る可能性もある。
これに対し、ブラックビアードのように低コストで大量生産を目指す兵器の開発は、現代戦における弾薬供給の持続性が重視されていることを示している。
近年の米国とイランの衝突や各地の軍事危機でも、弾薬備蓄の重要性が浮き彫りになっている。
特に中国共産党(中共)などの競争相手との大規模な軍事衝突を想定した場合、米軍が開戦初期に高価な長距離精密兵器を大量投入すれば、弾薬備蓄を急速に消耗し、継続的な作戦能力の維持が難しくなる恐れがある。
そのため米軍にとって、兵器の価格と実際に調達・投入できる数量とのバランスは重要な課題となる。
HACMも今後、技術実証や少量生産の段階から、本格的な量産・配備に移行できるかが焦点となる。
ただしHACMは、遠距離にある高価値かつ時間制約の厳しい目標への攻撃に適しており、米空軍が特定の作戦上の優位性を得るため、高コストを許容する可能性はある。
HACM計画、度重なる遅延
HACMの飛行試験は当初、2024年に始まる予定だったが、開発の遅れにより2026年まで延期された。
GAOが2026年7月2日に公表した年次兵器システム評価によると、HACMは予定された開発期間を維持するため、大きな開発リスクを抱えている。
初回飛行試験に向け、一部部品の検証をシステム設計と並行して進めている。部品が検証を通過できなければ、重要部品の再設計が必要になる恐れがある。
遅れを取り戻すため、当初7回を予定していた飛行試験も5回に削減された。
その結果、試験が失敗した場合に設計を修正し、再試験するための日程上の余裕はさらに乏しくなっている。
GAOは、重大な飛行試験の失敗が起きた場合、5年間の迅速試作段階で予定する全5回の試験を完了できない恐れがあるとしている。
最初の3回の飛行試験を完了できるかどうかは、米空軍が迅速配備へ移行し、2027会計年度にHACMの調達を始めるかを判断するうえで重要になる。
現状では、予定通り目標を達成できるかは不透明である。
HACMが持つ戦略的価値
開発の遅れが懸念される背景には、中共も極超音速兵器の開発を進めていることがある。
米国とオーストラリアはいずれも、極超音速技術を長距離打撃能力の重要な要素と位置づけている。
オーストラリア国防省は2024年公表の「国防イノベーション・科学技術優先事項」で、極超音速兵器について、豪州本土から離れた地域でも潜在的な敵に対する抑止力になり得ると説明している。
高速性や機動性、飛行時間の短さによって兵器の生残性が高まり、相手による迎撃も難しくなるとしている。
米空軍がHACMに期待するのは、極超音速、長距離発射、精密攻撃を組み合わせた能力である。特に、高価値かつ時間制約の厳しい移動目標への攻撃で効果が期待される。
米空軍はHACMについて、戦闘機が敵防空圏外から、高価値かつ時間制約の厳しい目標を攻撃できるようにする空中発射兵器と位置づけている。
また、戦闘機がこうした任務を担うことで、爆撃機を別の戦略任務に振り向ける選択肢も広がる。
こうした能力は、西太平洋で大規模な軍事衝突が発生した場合、とりわけ重要になる。
中共の「接近阻止・領域拒否」への対抗
中共の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略に対抗する場合、米軍は機動性の高いステルス戦闘機を使い、中共の防空システムの射程圏内に入ることなく、厳重に防護された軍事目標を攻撃する局面も想定される。
極超音速兵器は、高速・長距離・精密打撃能力により、発射から着弾までの時間を短縮できる。
同時に、相手側によるミサイルの探知・追尾・迎撃を難しくする。
CBOも2023年の研究で、極超音速兵器は中共などが構築するA2/AD環境で、厳重に防護された高価値かつ時間制約の厳しい目標を攻撃する用途に適する可能性があるとしている。
重要目標の位置を把握していても、攻撃できる時間が極めて短い場合には、高速の長距離打撃能力が戦略的な意味を持つ。
吸気式の極超音速巡航ミサイルは、遠距離から時間制約の厳しい目標を迅速に攻撃し、相手の対応時間を圧縮できる独自の打撃手段である。
米空軍は現在も、遅くとも2027年末までにHACMの少量生産を開始することを目指している。
ただ、相次ぐ遅延によって開発日程にはほとんど余裕が残されていない。今後の飛行試験を予定通り完了できるかが、HACMが初期配備へ進めるかを左右する重要なポイントとなる。

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