特殊詐欺王・陳志の中国送還の真相 米国の逮捕を逃れるためか

2026/01/08
更新: 2026/01/09

最近、カンボジア当局は特殊詐欺犯罪に関与したとして、太子集団の創業者兼会長・陳志を中国へ送還した。しかし中国共産党(中共)当局の態度は曖昧であり、主要国営メディアによる報道も遅延した。陳志はアメリカからも指名手配を受けており、中共の「駒」と指摘されている。突然の送還の背後には、いかなる事情があるのだろうか。

陳志送還と中共の曖昧な態度

カンボジアの中国語メディア「柬中時報」は1月7日夜、カンボジア内務省のニュースリリースを引用して報じた。それによると、国際犯罪対策での協力枠組みの下、中共の主管部門の要請を受け、カンボジア当局は最近、陳志を含む中国人3人の容疑者を逮捕し、中国へ送還したという。両国はこれ以前から数か月にわたり共同調査を行っていたとされる。陳志のカンボジア国籍を2025年12月に取り消している。

送還発表後、同国の元首相フン・セン氏は、陳志と距離を置くような発言を行ったとみられる。複数の外国メディアも同声明を引用して報じたが、ロイター通信によれば、中国外務省と公安当局は、取材の問い合わせに即座には応じなかったという。

佘智江ケースとの違い メディア対応比較

昨年11月12日、ミャンマー・ミャワディの「アジアパシフィック・ニューシティ」の創業者・佘智江がタイから中国に引き渡された際、中共公安部は高調に声明を発表し、新華社通信や人民網、CCTV(中国中央テレビ)ネットなど主要中央メディアが同日に一斉報道を行った。佘智江は逮捕後、外国メディアに対し「2016年に中共国家安全機関のスパイとしてリクルートされ、政治的迫害を受けている」と語っていた。

これに対し、陳志の件では、1月8日の中共外交部定例会見で質問が出たが、報道官の毛寧氏は「具体的な状況は主管部門の発表を待ってほしい」とし、陳志個人に関する回答を避けた。

主要中央メディアがこの件を報じたのは、送還翌日の1月8日午後5時頃であった。

中国メディアの控えめ報道と背景

当初に報じたのは「紅星新聞」や「財新網」「鳳凰網」など一部媒体に限られ、いずれも穏やかなトーンであった。「紅星新聞」は「現地関係者によれば、太子銀行と不動産事業は引き続き正常に運営中だ」と伝えた。

一方、「財新網」は長文報道で、陳志の台頭を支えたカンボジア政商ネットワークに焦点を当てた。「鳳凰網」は「この時期にカンボジアが陳志を送還した背景には、タイからの警告があった」とし、「カンボジアの特殊詐欺産業によって多額のタイ資金が流入したこと」が両国関係悪化の一因と指摘している。

陳志の急成長 福建省出身からカンボジア帝国

陳志は1987年、中国・福建省連江県の生まれで、イギリスとカンボジアの二重国籍を有していた。2011年にカンボジア不動産市場に参入し、2014年に市民権を取得、翌年、太子集団を設立した。

彼のビジネス帝国は不動産から銀行、金融、観光業などへ拡大し、30か国超に事業を展開していた。

2020年、カンボジア政府は陳志に「オクナ(実業功労者)勲章」を授与。その後、フン・セン氏およびその子・フン・マネット氏の顧問に起用した。太子集団は2021~22年、中国財経サミットで「社会的責任モデル賞」を連続受賞し、中共系メディアが大々的に報じた。

カンボジアの太子集団(Prince Group)傘下にある太子国際広場 (Tang Chhin Sothy/AFP)

アメリカ起訴の実態 150億ドルビットコイン押収

2025年10月14日、アメリカ司法省はニューヨーク連邦裁判所で陳志を起訴。罪状は特殊詐欺およびマネーロンダリング共謀であった。アメリカ当局は約12万7千枚のビットコインを押収、当時の時価で約150億ドル(約2兆2千億円)に相当した。これを受け、アメリカ、イギリス、シンガポール、タイ、台湾、香港などが陳志の資産を相次いで凍結した。

太子集団は11月11日に声明を発表し「アメリカ側の指控は根拠がない」と主張。同9日には中共国家コンピュータウイルス緊急対応センターが「アメリカがハッキングにより陳志名義の暗号資産を盗んだ」と非難する報告書を出していた。

元スパイ証言 太子集団の中共工作支援

かつての内部関係者は大紀元に対し、「東南アジアの特殊詐欺拠点は中共の『一帯一路』と共生関係にあり、党幹部や紅二代が利権を得ている」と語った。

オーストラリアに亡命した元中共スパイエリック氏は「太子集団は中共の東南アジア工作における主要代理人の一つであり、通常の商業企業を超えた存在だ」と述べた。同氏によれば、「太子集団は資金・人員・輸送手段などあらゆる面で中共工作を支援しており、実質的には特務システムの資金庫かつ後方拠点である」という。

エリック氏はさらに「北京や重慶の公安幹部がカンボジアの陳志私邸『雲軒閣』で秘密会議を開き、日本在住の亡命漫画家・変態辣椒(実名・王立銘)への罪を捏造する計画を練っていた」と証言した。会議の接待を太子集団が全面的に担っていたという。

中共上層部との繋がりと推測される意図

アメリカ司法省の文書によれば、陳志は中共国家安全部、公安部、統一戦線工作部の保護を受けていたとされる。
中国本土では、SNS上で太子集団関連投稿の削除が相次いでおり、「中共が直接関与している証拠だ」との声が上がっている。

エリック氏は「陳志が中国に送還された以上、少なくともアメリカに逮捕される危険は回避された」と語った。

盛雪氏「実際にはすでに帰国していた可能性」

民主中国陣線副主席で作家の盛雪氏は、「陳志は中共広東省委書記・黄坤明の甥であり、福建閥および習近平の実姉・斉橋橋の資産洗浄を担っていた」と指摘。「特殊詐欺は副業にすぎず、主要任務は高官資金のマネーロンダリングだった」と述べた。

盛雪氏は、アメリカが差し押さえたビットコインとロンドンの19件の不動産について「中共上層部の『富のパイプライン』を断ち切る行為だった」と分析。中共当局が「アメリカに奪われた」と主張したのは、「実際には自らの秘密資金庫を隠すためだった」と述べた。

盛雪氏は、「カンボジアの送還発表には裏付け資料がなく、佘智江のケースのような証拠映像もない」と指摘し、「陳志はすでに中国に戻っており、今回の発表は外向けの政治演出だ」との見方を示した。

さらに「中共は陳志を一時的に保護するだろうが、必要とあれば抹消する可能性もある」と警告した。

賴建平氏「中共による変則的な保護」

独立学者・賴建平氏は、「陳志が突然送還された背景には、アメリカがマドゥロ大統領を拘束した件で、中共が慌ただしく対応した可能性がある」と分析した。

「陳志は極めて機微な人物で、アメリカ、中共、タイなど複数の勢力が彼を取り込みたがっていた。アメリカの行動が脅威となり、カンボジアが中共との取引を急いだのだ」と述べた。

賴建平氏はまた、「陳志は少なくとも中共国家安全部の情報提供者か、あるいは正式な国安職員だった可能性がある」と指摘した。

賴氏によれば、「このような人物は高官家族の蓄財や資金洗浄を代行する者として活動しており、彼を守ることは中共体制そのものの『正統性』を守ることでもある」と強調した。

「中共は表面上『裁判』を演出し、国家機密のため非公開審理」とするだろう。嵐が過ぎ去れば彼がどこで何をしているかは誰にも分からず、むしろ贅沢な生活を送っている可能性すらある」とも述べた。

蔡慎坤氏「送還は中共の主導によるもの」

独立時評家の蔡慎坤氏は、「陳志は長年プノンペンに潜伏し、フン・セン一族の庇護下にあった」と述べ、「今回は中共が主導してカンボジアに送還を要請した結果だ」と指摘した。

「陳志の組織は中共の国家安全・情報システム上層部と密接に結びついており、アメリカに引き渡されれば中共の機密が暴露される」と述べたうえで、「最近のタイ・カンボジア衝突も、背後では中共による攪乱工作があるとみられる」と分析した。

寧海鐘
中国語大紀元の記者。
李韻