年金の入力業務、中国側に再委託 露呈する行政のデータ管理姿勢

2018/03/20
更新: 2018/03/20

日本年金機構が発注した年金関連書類の入力業務委託先業者は、契約に違反して、約500万人分の入力業務を中国の業者に再委託していたことがわかった。20日、日本年金機構は会見を開き、入力作業で遅延や誤記など諸問題が生じており、約130万人が本来の額より少なく支給されたり、6万7000人は控除が受けられないといった問題が起きていた。

産経新聞によると、この問題を受けて、政府は3月から段階的に運用を開始予定だった年金機構と自治体とのマイナンバーによる情報連携を、当面延期することを決めた。

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加藤勝信厚生労働相と日本年金機構の水島理事長は、20日、別々に行われた記者会見で「再委託した作業にマイナンバー関連情報は含まれていなかった」と述べた。しかし、年金機構は全業務委託の内容を点検・精査し、状況を把握するまで延期するという。

ANNの取材に応じた日本年金機構職員によると、再委託された入力業務には「通常では考えられない」誤りが散見されたという。例えば、氏名のなかに記号が入っていたり、日本人ではない名前になっていたりなど。

中国に委託したのは東京豊島区の情報取扱業「株式会社SAY企画」。切田精一社長は20日、メディアの取材に応じ、謝罪を述べた。切田社長によると、再委託したのは中国遼寧省大連にあるデータ入力会社で、切田社長が設立に関わり、役員を務めているという。 NHKによると、切田社長は外部委託の認識がなかったと弁明した。

年金機構の説明によると、SAY企画が2017年8月に一般競争入札で落札したのは「扶養親族等申告書・個人番号申出書 データ入力及び画像化業務一式」という業務。入札情報速報サービス(NJSS)によると、SAY企画は総額約1億8000万円で契約。予定価格はおよそ2億4200万円で、年金機構にとって格安の契約だった。

SAY企画の契約先は年金機構のほか東京都庁、厚生労働省、経済産業省、内閣府など行政を発注元とした仕事を入札している。一連の落札案件に、中国など外国業者への再委託を行っていないか、調査する必要性がある。

このたびの問題で、年金機構と厚生労働大臣は「マイナンバー作業の委託はない」と口を揃えたが、SAY企画は、実際にはマイナンバー収集管理のBPOサービス(業務プロセスの再設計から、業務の運用までをワンストップで専門業者が一手に請け負う)を担当している。

作家の山本一郎氏は20日のYahoo!News投稿記事で、官公庁の情報管理問題について説いている。SAY企画をふくめ「官公庁の情報入力を行う事業者が、警察庁・警視庁による住民税入力業務や法務省の入管関連情報、厚生労働省の保険データなどに触れる状態で、マイナンバーの情報も別から紐付けできるようになれば(略)中国の委託先で情報を再構成し、国民のプライバシーを再構築できてしまう」と危険性を指摘した。

具体的には、中国に流れた個人の信用状態(所得や健康状態、家族構成など)は、外国機関が、日本の高齢者の成りすまし詐欺などに悪用するなどのことも考えられるという。

3月はじめ、中国ネット検索大手「百度」のオンライン文書共有サービス「百度文庫」に、日本企業186社の機密扱い文書が掲載されており、百度ポイントで取引されていたことが、日本の著作権調査会社の調べて明らかになっている。このたび流出が懸念されるマイナンバーをはじめとする個人情報が、中国のオンラインサイトで取引される可能性も否定できない。

問題の大きさとして「入力されるデータの元帳が中国に流出した危険性が高いと見られることだけでなく、すでに納入された国税庁などでのシステムに外部への不正な通信などを可能とするバックドアがなかったかどうか、再検証する必要に迫られる点」と山本氏は記している。

(編集・佐渡道世)

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