パンデミック条約が公衆衛生をダメにする、元WHO職員が警鐘(下)

2024/05/21
更新: 2024/06/13

必要となる証拠の欠如

公衆衛生への投資には、より良い成果をもたらし、重大な害をもたらさない証拠が必要で、あるいは両者を高い可能性で実現しなければならない。しかしWHOの提案書はそのどちらも示していない。

新型コロナウイルス感染症への対応策として、ロックダウンと大規模ワクチン接種が推進された。その戦略によって引き起こされた病気は、主に持病を持つ高齢者に影響を与えた。超過死亡は1500万人に上り、若年成人の死亡率まで増加した。

過去の急性呼吸器疾患のアウトブレイクでは、第1波または第2波の後に事態は改善されたが、新型コロナウイルス感染症の場合、超過死亡は持続した。

公衆衛生の観点から言えば、こういった場合は対応策が問題を引き起こしたかどうかを確認するのが普通だ。特に、今回のパンデミックのように新たな対応策を講じた場合、また、そうなることが過去の疾病管理に対する理解から予測できた場合はなおさらだ。その方が、過去の知見が存在しなかったふりをするよりも信頼性が高い。

したがって、WHO(およびその他の官民パートナーシップ)はオーソドックスな公衆衛生に従っているわけではない。何か大幅に違ったことを行っている。

不均一な問題、一元的な対応

25年前、民間投資家が公衆衛生に関心を持つようになる前は、権限を分散させるのが賢明であると受け入れられていた。地域社会が自ら公衆衛生介入策に優先順位を付け、調整すれば、より良い結果になる。

新型コロナウイルス感染症ではその重要性が強調された。アウトブレイクの影響が、年齢、人口密度、健康状態、その他多くの要因によっていかに不均一であるかが示された。

WHOの言葉を借りれば、「安全でない人がいても、ほとんどの人は安全」ということだ。

しかし彼らは、カナダ・トロントの高齢者ケア施設の居住者にも、アフリカ・マラウイの村に住む若い母親にも、基本的に同じ対応策を講じるべきと定め、家族との面会や労働をやめさせ、同じ特許薬を注射させた。その理由はぼんやりとしている。

WHOの民間スポンサーや、強力な医薬品部門を持つ2大拠出国(アメリカ・ドイツ)もこのアプローチに賛成した。その実施によって給料を得る人も賛成した。

彼らを妨げたのは歴史と常識、そして公衆衛生上の倫理だけだったが、彼らはもっと柔軟に対応した。

回復力に焦点を当てた予防策の欠如

WHOのIHR改正案とパンデミック条約はいずれも検出、ロックダウン、および大規模なワクチン接種に関するものだ。他に選択肢がなければこれで仕方ないが、幸い他にも方法はある。

衛生環境や栄養状態の改善、抗生物質、住環境の改善により、過去の大災害は食い止められた。 2023年にネイチャー誌に掲載された論文では、ビタミンDを適切なレベルで摂取するだけで、新型コロナウイルス感染症による死亡率を3分の1下げる可能性が示唆された。

これはすでに分かっていたことだ。なぜ論争になったのかは推測できるが、これは免疫学の基本だ。それにもかかわらず、年間数十億ドル規模の予算案のどこにも、コミュニティや個人の真の回復力をサポートするものがない。

栄養摂取と公衆衛生にあと数十億ドルを投入することがあるだろうか。そうすれば、時折発生する感染症による死亡率が劇的に減るだけでなく、より一般的な感染症や、糖尿病や肥満などの代謝性疾患も減少するだろう。

そうすれば、実際に医薬品の必要性は減るだろう。製薬会社や投資家がそれを推進するだろうか。それは公衆衛生にとっては素晴らしいことだが、ビジネスとしては自殺行為に等しい。

利益相反

利益相反について考えざるを得ないのは、ここまでの流れから明らかだ。WHOは設立当初、各国からの拠出金を財源に、各国の要請に応じて疾病負担の大きい病気に対処していた。

今では、資金使途の80%が資金提供者によって直接指定されるようになり、そのアプローチは異なる。もしマラウイの村がプログラム用に数千万ドルの資金を調達できれば、彼らは要求通りのものを手に入れることができるだろう。しかし、彼らにはそのような資金はない。欧米諸国や製薬会社、ソフトウェア大手にはある。

公衆衛生の分野で働く人々よりも一般の人々の方が、利益相反についてよく理解できるだろう。だからこそ世界保健総会が存在し、WHOを加盟国の国民に害を与えない方向に導く能力を有する。

かつてのWHOは、利益相反を悪いことだと考えていた。しかし今では、加盟国が定めた範囲内で、民間や企業のスポンサーと協力し、自分たちの好みに合わせて世界を思い通りに操っている。

加盟国に問われる選択

要約すると、アウトブレイクやパンデミックに備えることは賢明だが、健康を改善することの方がより賢明だということだ。そのためには、問題のあるところに資源を振り向け、害よりも益になるように使う必要がある。

給与やキャリアのために現実を変えることに依存すれば、物事は歪んでしまう。パンデミックに対するこの新たな提案は非常に歪んでいる。これはビジネス戦略であり、公衆衛生上の戦略ではない。富の集中と植民地主義によるビジネスであり、その歴史は人類そのものと同じくらい古い。

今月末の世界保健総会(WHA)において、加盟国の多数が利益をもたらすが道徳的に問題があるビジネス戦略の推進を望むのか、それとも自国民の利益を優先するのか、選択が問われている。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
公衆衛生医、ブラウンストーン研究所の上級研究員、グローバルヘルスにおけるバイオテクノロジー・コンサルタント。世界保健機関(WHO)の医務官および科学者、開発途上国に適した感染症の新たな診断技術の開発と普及を目的とした活動を行うスイスの非営利組織「FIND」のマラリアおよび発熱性疾患担当プログラム責任者、米ワシントン州ベルビューのIntellectual Ventures Global Good Fundのグローバルヘルス技術担当ディレクターを経て、現在に至る。
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