ジョージ・グラス駐日米国大使は2025年7月17日、X(旧Twitter)の自身のアカウントで、中国当局が日本の製薬大手アステラス製薬の幹部に対してスパイ罪で実刑判決を下した件について、強い懸念と批判を表明した。
投稿の中で同大使は、孔子の言葉「徳は孤ならず、必ず隣あり」を引用し、「透明で公正な法制度と国際ビジネスについても同じことが言える」と述べ、中国の司法制度とビジネス環境に疑問を投げかけた。
この投稿は、同年7月16日に北京市の裁判所がアステラス製薬に勤める日本人幹部に対して懲役3年6か月の実刑判決を言い渡したことを受けたもので、男性社員は2023年3月に中国で拘束され、その後スパイ罪で正式に起訴されていたが、判決内容や罪状の具体的な根拠については公表されていない。彼は20年以上にわたり中国に駐在してきた経験を持つベテランのビジネスマンであった。
グラス大使は投稿の中で、「これでは、企業を自国へ呼び込むどころか、投資家が他国へ向かう動きを加速させるだけだろう」と述べ、中国の政策が結果的に外国企業の撤退や新規投資の抑制につながる可能性を示唆した。そして、「因果応報というように、自分の行動の結果は必ず自分に返ってくるものなのだ」と警鐘を鳴らした。
今回の判決は、中国が2023年に改正・施行した「反スパイ法」の適用によるものとみられ、改正法では、国家機密の漏洩や不適切な情報収集だけでなく、企業活動における通常の調査や連絡行為までが「スパイ行為」とみなされるリスクがあると指摘されている。そのため、外資系企業やその駐在員にとっては、中国国内での業務遂行に大きな不安が伴っている。
実際、中国国内での外国人拘束の事例は近年増加傾向にあり、外務省によれば、これまでに少なくとも19人の日本人が反スパイ法関連で拘束された。実名公表されているケースはごく一部で、詳細は不明であることが多い。また、外務省は今回の判決を受けて、「極めて遺憾であり、引き続き早期解放を強く求める」との声明を発表している。
経済界でも動揺が広がっている。経団連幹部はメディアの取材に対し、「中国とは長年にわたって経済的な結び付きが強かったが、現在は明らかに潮目が変わってきた」と語り、企業の進出や拠点維持について「再考を迫られている」と表明した。
アステラス製薬は今回の判決に対してコメントを控えているものの、社内では関係者の動向を慎重に見守っているとされる。また、拘束された元幹部は現段階で上訴する意向はないと伝えられている。
また中国当局が、スパイ罪で実刑判決を受けたアステラス製薬の日本人男性社員に対し、取り調べ時に自白を促し、その見返りとして量刑の軽減を示唆していたことが関係者への取材で明らかになった。中国国内の有識者からは「強制的な自白につながる恐れがある」との指摘も上がっているという。
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