フランスのバイルー首相は8日、国民議会で行われた信任投票で敗れ、内閣は総辞職する。投票は194票対364票で否決され、ユーロ圏第2の経済大国であるフランスは、政治的・経済的な混迷がさらに深まる見通しだ。
バイルー氏は昨年12月、前政権の崩壊を受けて首相に就任。フランス第五共和政で信任投票に敗れて辞任する初の首相となる。マクロン大統領は新たな首相を任命し、分裂した議会の中で予算案を成立させる必要に迫られている。新たな首相は、マクロン氏の2022年の再選以降、5人目となる。
投票前から、2026年度予算計画に左右両派の支持を得られなかったバイルー氏が敗れるとの見方は広がっていた。
同氏は7月、2026年までに438億ユーロ(約5兆1千億円)の財政赤字削減を目指す緊縮策を発表。社会保障費の凍結や一部祝日の廃止を含む内容で、大きな反発を招いていた。対象とした祝日は「宗教的意味を持たない」とされたイースター翌日や、対独戦勝記念日の5月8日などである。
フランスの公的債務は今年3兆ユーロ(約470兆円)を超える見通しで、GDPの約110%に達している。EUは債務をGDP比60%未満に抑えるよう加盟国に求めており、財政規律を巡る圧力が高まっていた。
5月のEU公式推計によると、フランスの政府赤字は2025年にGDPの5.6%に減少し、2026年には5.7%に上昇すると予想されている。
一方、右派・国民連合のマリーヌ・ル・ペン党首はXで「バイルー氏とその仲間たちは、フランス国民に200億ユーロの増税で負担を強(し)いようとしている」と批判。左派「不屈のフランス(LFI)」のメランション氏も「祖国を金と資本主義の鎖から解放しよう」と訴え、各政党から厳しい批判が相次いだ。
これに対し、共和党のローラン・ヴォキエ党首は「政治的不安定は経済にとって毒だ」と警告したが、流れを変えることはできなかった。
バイルー氏は投票前、「政府を倒す力はあっても現実を消し去ることはできない。支出と債務は増え続ける」と議会で訴えたが、支持を得られなかった。
2024年の前倒し議会選挙では、左右両派の政党が大きく議席を伸ばし、マクロン大統領の与党連合は過半数を失った。その結果、政府は中道派勢力の協力に依存せざるを得なくなった。
右派・国民連合(RN)のマリーヌ・ル・ペン党首は9日、「真の再出発は、大統領の辞任だ」と強調。「大統領には一つの選択肢しかない。再選挙を宣言し、国民に決定を委ねることだ」とも述べた。
一方、マクロン大統領は「前倒し選挙は第一の選択肢ではない」と述べ、近く新たな首相を指名する意向を示した。次期首相については、中道派の盟友を再び起用し、少数派政権を維持するとの見方が強い。
仏通信社AFPによると、バイルー氏が信任投票を要請する直前に実施された世論調査では、多くの有権者が政権の退陣を予想していた。調査結果によれば、回答者の49%が「マクロン大統領は辞任すべき」と答え、36%が「新首相の任命を希望」15%は「議会解散を望む」としている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。